タイトル回収の段

 しかし、出そうと思えばこれぐらいのボリュームの声が出るんだな菅野。

 ええ、そうです。さっき叫んだのは菅野です。


 「いい加減しろ」というのは陽子ちゃんを巡っての言い争い以外に考えようがないから、菅野も無事参戦という事になる。

 もちろん、言い逃れは出来るんだろうけど――。


「何だ菅野! お前はもう別れたんだろうが! 自分から降りた奴が口出してくるな! あの女は俺が貰う」


 俺様からの挑発。それに続いて、


「こればかりは新庄の言う通りだ。お前と西村さんは関係ない。お前がそうしたんだろ。西村さんは必要な人だ」

「そうですよ先輩。今更なんですか?」


 と、サッカー部の面々が挑発する。

 で、古尾の番かというところで俺様がさらに菅野をバカにする形で、言い争いを再開させた。


 ただその主張を拾ってゆくと、陽子ちゃんが好き、というわけでは無く、陽子ちゃんのスキルが好き。だから利用してやろう、という事が伝わってくる感じだ。

 無茶苦茶な主張だけど、サッカー部であるならそれがただの思い込みではないと理解できるので……。


「だから、いい加減にしろって言ってるんだ! お前たちこそ関係ない! 陽子は俺のだ! 渡すものか!!」


 あ、菅野。ついに本音を言ってしまいましたね。証人は多数だよ。

 で、それ以上に問題の陽子ちゃん、グラウンドを眺めている生徒たちの中に紛れ込んでるのよね。


 のっぽの私のすぐそばで。

 パーカーを被って小さくなって。


 私がいよいよ覚悟を決めて、陽子ちゃんとちゃんと話をするって約束して。

 で、学校での待ち合わせに陽子ちゃんが頷いたのは、この練習試合を見るための大義名分が出来た、とでも思ったんじゃないかな?


 だから私は、一連の騒動をツッコミを入れながら眺めることが出来たというわけだ。


 そしてとどめとばかりに、私は深くかぶった陽子ちゃんのパーカーをおろす。

 うわ。ほっぺたが真っ赤。それに熱い。


 それは一瞬で周囲にも伝わり――。


 まるでフラッシュモブでも仕込んであったみたいに、陽子ちゃんの前から人がいなくなる。そして広がる視界の正面には――。


「……英治君……」


 はい、菅野ですね。

 その菅野は陽子ちゃんを見て、見事に硬直している。


 なにせ、さっきの告白じはくは皆が聞いていたわけで。

 これでは「幼馴染みはオフサイド」というルールではどうにもならないだろう。というか自分でルールを破ったからな。


 あとはただ、菅野も真っ赤になるぐらいしかできないだろう。


 そして、どこからか始まった拍手の音。

 それがグラウンド中に広がって――。


 ――つまりこうして「声が負けヒロインフラグの幼馴染みが逆転勝利」したというわけだ。

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