空騒ぎ

「勝手に話を進めるな。西山さんは渡さない」

「それって僕にも権利ありますよね?」


 俺様の主張には、そういう声が返ってくる。もちろんその声は内山昂輝さんに似た声の菅野の声じゃない。

 多分、あのごっついのが増本で、ショタ心をくすぐる感じのが箭内なんだろう。


 ここから聞こえただけだと増本が武内駿輔さんで、箭内が堀江瞬さんっぽいな。


 それらの声が混ざり合って、一気にヒートアップするグラウンド。

 サッカー関係なく。試合前からこんなことで良いのかな? とちらっと思ったけど、私この騒ぎを仕掛けてる側なのよね。私が心配するのは筋違いか。


 でも、こんなことになるとは……。


「待てよ。サッカー部だけで話を進めるな。西村さんはサッカーとは距離を取ろうとしてるんだ。そんなこともわからないのか?」


 さらにスクエアフレームの眼鏡が参戦してきた。下野さんの声で。

 こいつが古尾だね。どういうわけか日曜なのに制服を着ている。


 いや悪くは無いんだろうけど――実際そういう奴は結構いる――古尾が制服着てると、どうも「風紀委員」として感が強すぎる。いや、実際何のために制服着てるんだ、古尾。


 この古尾が参戦したことで、状況はますます混沌カオスになった。

 サッカー部としての視点でいがみ合っていたところに、サッカーは関係ないという古尾が加わってきたのだから、それも当然だろう。


 特に俺様と古尾がバチバチにやりあっている。

 ……これ、言ってみれば小芝居のはずなんだけどなぁ。なんだか本気でやりあっているような。


 陽子ちゃん関係なく、この二人って相性が最悪なんだろう。


 さて、ここまで騒ぎが大きくなると――つまり声が大きくなると――呑気に握手を交わしていた大人たちの中でも職業意識というものが復活するらしい。

 少し頷きあって、この大騒ぎを止めようとしたけど……。


「だからお前も行けって! 教職賭けるぐらいの恋に燃え上がってみせろよ!!」


 なんて命令形こえが、騒ぎの外側から飛び込んできた。

 私の要請に対して、快く協力を約束してくれた遊野先生の声だ。


 今日はいつもはまとめている髪をおろして、いつもと雰囲気が違う。

 おかげでわかった。この声は「吉永さん家のガーゴイル」の時の声だ。あのトラブルメーカーで傍若無人で、生命力が満ち溢れていた骨董屋の声。

 髪をおろしているから、ビジュアルもかなり似てるんだよな。


 ――桑島ボイスは何とも奥が深い。


 一方で杉田ボイスの神幸先生は、その声を発することなく、遊野先生にしがみついて、ひたすらに首を横に振っている。

 実際、この段階で教職やばそうな気もするけど……遊野先生に期待するしかないな。


 ただ、その陽動作戦――なのか? ――で、騒動を止めるために動き始めた教師おとなたちの気がグラウンドから反れた。


 この間に――。


「いい加減にしろーーー!!!」


 ……ようやくかかったようだ。

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