つきつめれば成果なし
「陽子ちゃんは頑張ってるんだけど、どうもそれは違う感じに受け止められてる感じでね」
「それ、どういうことなの?」
「つまり、陽子ちゃんへの提案は『もう少し大人しくなろう』っていうのがコンセプトだったじゃない?」
加奈の質問を踏み台にして、私はさらに説明を続けた。
さっきまで二人の間で繰り広げられていた、発熱した議論にあてられているのかもしれない。
「うんまぁ、そうね。それが私たちの狙いでもあるわけだし」
「そう。だけど陽子ちゃんは普段が普段だけに、大人しくしてると周囲は『背伸びして大人ぶっている』みたいな反応になっちゃってね」
「あ~~~」
加奈が絶望まじりのため息を漏らす。
わかってくれたようで嬉しい。というか、そういう光景を想像しやすいんだろうな。
陽子ちゃんも『大人しく』とは言いながら何だかカタコトになってる感じなんだよね。「ゆるキャン△」の志摩リンがツッコんでる時みたいに。
あれは可愛いからなぁ。
「ド外道の園川」って言ってる時ぐらい可愛らしい。
そんな状態だから周囲の反応も、もっとも、としか私も言いようが無くて。
私がどうフォローしようか迷っていることを哀れに思ったのか、今度は江上がこんな風に確認してきた。
「でも全部がそうってわけじゃないんだろ? 例えば古尾とか」
「古尾は喜んでるね。とにかく陽子ちゃんは廊下を走るのは我慢出来てるわけで、機嫌が悪くなる理由がないし」
何なら古尾は怒る先が無くなって、寂しがってるようにさえ見える。
だけどそれは口に出さずに、強引に話を変える。何と言うか――外堀を埋める感じで。
「――ついでだから言っておくと、神幸先生は一番こっちの望んだ反応してくれた感じがする。なにしろ美術準備室から出てきたんだから」
「出てきて何をするんだ?」
「前髪をあげて、大人しくなった陽子ちゃんをマジマジと見つめる。あれはきっときれいな二度見もやったと思う」
「ああ、確かにそれはこっちの思惑通りなのかもなぁ」
と、江上は詠嘆する。
そんな他人事みたいに、と文句を言いかけたけど江上にとっては間違いなく他人事だ。
他人事と言えば――
「遊野先生も神幸先生の変化は狙い通りみたいで、わっはっは、っていう感じで笑ってた。……やっぱりあの先生はどこかおかしい」
「元々、何か悪だくみしてたって事ね。それで……あんた微妙に避けているけど、本命の反応はどうなの?」
うっ……まぁ、かわせるはずがないとは思っていたけど。
加奈の指摘に覚悟を決めながら、私は報告を始める。
「陽子ちゃんと菅野は同じクラスで、だから教室内の事は知らないんだけど」
「それは仕方ない。というか、他の反応色々知ってるあんたに引いている」
それはともかく。
「全く成果が無い感じみたい。むしろ歓迎というか」
「本命」こと菅野英治の反応を説明するなら、こうなってしまのよね。
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