抜刀妻の斬り込み
その声は「ソードアート・オンライン」の正妻。「あの夏で待ってる」の勝ちヒロイン。松岡、島崎という双璧を相手取る剛の声。
その辺りがすぐに思いだせるけど、そもそもライバルがいない「となりの怪物くん」とか、始まる前から勝利を収めている「ホリミヤ」というアニメもある。
そういった作品でヒロインを演じ、勝率が無茶苦茶高いその声の主は――戸松遥だ!
まさに
恐るべきことに小澤さんはそんな声の持ち主だった。
かたや負けヒロインの声の持ち主である陽子ちゃんは、それだけで随分不利――そんな風に考えるのは私だけか?
いや、加奈も江上も同じことを考えるのかも。
何の慰めにもならないんだけどね。
で、そんな声の小澤さんに誘われて、駅前のファーストフード店に行くことになった。小澤さんがご馳走してくれるという。
やはり印税が……とか思うけれど、女子高生としては当たり前のチョイスではあるわけで、この辺りは全くの普通というわけだ。
特に約束はしてないけど、私が江上たちに「今日は行けない」と連絡していると、申し訳なさそうに頭を下げてくる。
う~ん、怒るべきポイントが全く無い。
陽子ちゃんの事があるので、嫌いになれないかな、とか思っていたんだけど、それはどうやら無理みたい。
戸松さんに声が似ている、なんて事ではどう考えても怒れるはずもないし。
となると私への「お願い」の内容について望みをかけるしかなくて、私はチーズバーガーを齧りながら、小澤さんの言葉を待ち受けた。
いや、私から促した方が良いのか……。
「――えっとね。実はお願いというのは西村さんについてなんだけど」
私が迷っていると、小澤さんがそう切り出してきた。
というか、斬り込んできた、という感じ。
もちろん陽子ちゃんと小澤さんが敵対関係にある、なんて設定にしているのは私たちだけなんだから、ここで過敏に反応するのもおかしいって事はわかってるので、まずは落ち着こう。
だから私はチーズバーガーを飲み込みながら、小さく頷いて見せた。
「中島さんって、西村さんと仲が良いって聞いて、それで私に西村さんを紹介して欲しい、っていうか仲介して欲しいっていうか。そういうのをお願いしたいと思って」
「ええと……」
小説家なのに、何だか話すのに苦労してるな、とか。
それだけ難しい話なのか、とか。
そういう余計なことを考えながら、私はとりあえず声を出して、その場を繋いだ。
そして、わき道にそれていく考えを修正して改めて小澤さんの「お願い」の検討を始める。
まず――私と陽子ちゃんが仲が良いって話はどこから聞いたのかという話から確認してみよう。
自分でもわかるぐらい、時間稼ぎ以外には意味がない確認だけど。
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