声がエクスカリバー

 小澤さんが私のクラスに訪ねてきたのは、やっぱり放課後の事で。

 この日は、昨晩に放映されていたSFアニメが本格的に難しくなったので、江上の解説を聞こうと目論んでいた。


 これから先、もっとややこしい事態に巻き込まれるとは知りもしないで……。


 最初、小澤さんは確かに陽子ちゃんの目標になるぐらいだから、大人しく、というかごく普通の手続きを踏んで、私に会おうとしていたようだ。


 教室には入り込まずに、扉近くにいたクラスメイトに私への取次ぎを依頼する。

 この段階で、うちのクラスはざわついていたようだ。何しろ我が校のヒロインが現れたわけだから、浮き立つ気持ちもわからないではない。


 逆側の扉から出ていこうとしていた私が、そのざわつきで少し立ち止まってしまったことは確かだし。

 そして立ち止まった私を発見すると、クラスメイトの……確か小此木君が呼びかけてきた。


「中島~、呼ばれてるぞ。小澤さんが用があるって」


 説明が下手くそだけど、この時初めて小澤さんが訪ねてきていることを知った私。

 当たり前に困惑したよね。


 私の勝手な想像では、小澤さんは仮想敵みたいな扱いになっていたから、攻め込まれた、みたいな感覚になってしまったわけで。

 すぐに「それはおかしい」と自分でツッコんで冷静になりはしたけど、そうなると次にはどうすればいいのか? という問題が発生する。


 かといって、ここで逃げ出すのはどこからどう考えてもおかしな話だから、結局小此木君に呼ばれるままに、もう片方の扉に近付いていくしかないんだけど。


 それにつれて、小澤さんの姿を確認してゆく、と前に色々された説明が実に的確だったことが確認できた。

 ロングヘアで、カチューシャで、背は高めで、シュッとしている。


 それに思った以上に美人だった。

 怜悧、という表現はこういう時に使うのだな、と納得できる感じ。


 思わず圧倒されかかったけど、それに思わず反抗してしまうのも厨二の心構えの持ち主としては正しいはず。

 私は、逆に攻め込んでやる、という心持ちで、


「あの~……私が中島ですけど……何か御用ですか?」


 と言ってやった。

 ああ、言ってやったとも。


 そうすると小澤さんは私を見てニコッと微笑んだ。

 そだね。確かに、魅力的だったよ。受賞まで目立たなかったという証言にはやっかみが含まれているんじゃないだろうか。


 そして、私にとっては決定的な瞬間が訪れた。


「いきなりごめんなさい。私は小澤って言います。お願いしたいことがあるので、少しいいかな?」


 その声を聞いて、私は雷に打たれたような衝撃を味わってしまう。

 何しろ小澤さんの声は「エクスカリバー」だったのだから。

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