そういうことだ
そのあと、何が楽しいのか小澤は説明を続けた。
むろん腐った目で見てるかどうかの説明はない。わかり切っていることだから。
なんでも構想の最中に俺様にライバル校というのが必要だと判明し、そこでうちの学校、というか菅野の存在を知ったらしい。
コンバートによってトップ下の俺様と対決することが増えて、みたいな。
小澤の好みで言うと俺様と対決するためにコンバートした、みたいな話を期待したけど、その辺りを取材していくと、うちのサッカー部だけで充分面白くなりそう。
……そんな流れがあったようだ。
「でも、付属にはそれまでも取材に行ってたからね。それなりのコネがあるのよ。特に新庄君の彼女さんとはね」
それを聞いて、私は思わずため息をついた。
「そうか……それで彼女の方がこっちの作戦に乗り気になったわけだ」
彼女さんの声は内田真礼さんか、日高里菜さんで想定しておこう。
俺様の声が内田雄馬さんだから、これは仕方がない。
「ええ、私も驚くぐらい話が早かったわ。もしかしたら彼女さん付属でも偉い人の親類なのかも。彼女さんは存在感があって、取材していくとどうにも私の妄想の妨げになるというか……」
とんでもないことを言い出したが、小澤なのでそんなものだろう。
とにかくこれで話は終わりだ。あとは小澤がどっかに行くか、私が帰るか――。
「ね、私もちょっと気になることがあるんだけど」
ところが小澤がそんなことを言い出した。
鬱陶しいけど、さっきは私の質問に答えたくれたわけで、貸し借り無し、にするためには応じておいた方が良いだろう。
私は小さく頷いて先を促す。
「あなたのその声で勝手にネガティブになるあれ。西村さんは東山さんだっけ? その東山さんの声の力は今回関係なかったわけだけど――」
「そもそも関係ない。あんなものはただのオタクの妄想で――」
「――その東山さんが演じるキャラクターで、付き合い始めた後、ダメになる感じのパターンは無いの?」
え? 何? アニメの話?
それだけでスイッチが入ってしまうのはオタクの悪いところだ。
私の脳は勝手にリストアップを始める――。
当然「彼女、お借りします」が思い浮かぶけれど、あれは最初から付き合っているという感じにはならなかった。
けれど「カッコウの許嫁」は――あのアニメの東山さんのキャラはかなり強い。東山キャラで元気一番という感じのキャラでもなく、確か付き合うんじゃなかったかな。
アニメではそこまで行かなかったんだけど。確か。
でも、仮にその段階で東山キャラが勝ちヒロインに見えたとしても……あれは多分……。
「――あるんだ」
また小澤に心を読まれてしまった。
「……あるにはあるけど、元々それはオタクの妄想。関係ない」
「つまり、この先、西村さんと菅野君がダメになっても……」
いやなことを言うなぁ。
でもそういう可能性はあるわけだ。
そうなったときに、私がどうするかと問われれば――。
小澤が私の横に腰を下ろした。
私は黙ってそれを受け入れる。
小澤がにんまりと笑う。
そして、私も笑う。
――そういう事だ。
終わり。
声が負けヒロインフラグの幼馴染みが逆転勝利するまで 司弐紘 @gnoinori
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