所詮、血塗られた道

「待って。そもそも。陽子ちゃんに小澤さんを紹介しても大丈夫だろうか? っていうのが最初にあったはず」


 けれど私はそれに抵抗した。


「小澤さんが腐っているかどうかなんて、この問題に関係ある? まさか腐ってるから、大丈夫なんて……」


 そんな理屈は成り立つのだろうか?

 この場合、立派な人物かどうかは問題じゃなくて、小澤さんが菅野と付き合いたいとか言い出さないか? という部分が問題。


 ……あれ?

 そう言えば「仲良くならない方が良い」とか言ってたな。今まで忘れてたけど、あれは……。


「うんうん。それはわからない。で、それはともかく腐ってるの?」


 私がちゃんと思いだそうとしているのに、加奈が繰り返し要求してくる。

 うん、この加奈モノマニアを先に片付けないとダメだな。


「いや、それは中島の感触の話なんだろ? で、どうだったんだ? 読み終えたんだろ?」


 そして江上は果たしてどっちの味方なのか。

 だけど、先に片付ける必要性は感じていたところだ。私は「凄剣」のあらすじ、というか断った上でラストまでの説明をする。


 佐賀藩に砲術を修めた美形な若者がいて。そして、それを狙ってくる外国からの刺客を向かえ討つ時代遅れの剣士。剣士はそれに成功するも、誰にも知られずに、働きを知られることなく死んでしまう。


 大体こんな感じだ。


 聞き終えた加奈は腕組んで、ふ~む、鼻息を荒くしながらこうコメントした。


「――間違いない。腐ってるわ」

「あ、やっぱりそう感じるんだ。俺もBLについてはよくわかんないから、何となくそれっぽいとは感じるんだけど」


 それでも「凄剣」を感じるって言うんだから、男女の性差が問題じゃなくて、オタクか、それ以外か、あたりが基準になるのかもしれない。

 私は最初からそういう感じはしていたわけで。


 だけど義務的に反論してみる。


「一応、そういうシーンは無かったよ」

「それも、いい傾向だと思うんだよ」


 何故か江上が私の反論に再び反論してくる。


「『Free!』があっただろ? あれってBLファンから言わせれば、全部揃ってるので、妄想するにしても行き届きすぎて、かえって敬遠してしまう、なんて話を聞いたことがあるんだが……」

「ああ、そうね。確かにそういう話は聞いたことがあるわね――そうだとすると、小澤さんはよっぽどの上位者って事になるわよ」


 加奈が江上の言葉にさらに上乗せしてくる。

 それはもう、陰口の域に達してると思うんだけど、私は目的を見失わなかった。


 だからこう尋ねる。


「そんな上位者が、改めてサッカー部の何を書きたいんだと思う? 小澤さん、菅野とは仲良くなりたくないって言ってたのよね」


 と、半分陰口をさらに陰に落としてみる感じで。

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