第6話 手に職をつけていると冒険者みたいな賎業はやらんでいいな!

そんなこんなでもらった冒険者証は、獣革に焼印文字で「名前」「年齢」「出身地」「スキル」が書かれている。


裏には、どうやらギルドの暗号文らしきものがあり、これで本人確認をするようだ。


言語理解のスキルでも読めないことから、どうやら本格的な暗号なんだなと理解する。まあ、知らんでも困ることじゃないし、これはいいや。


「で、早速、依頼だな……」


依頼だ。


と言っても、冒険者は底辺のカスなので、文字なんて読めない。


某有名最終幻想のように、お強いモブをハントする掲示板があるとか、そんなことはないのだ。


まあ、掲示板に討伐対象の絵と少ない文字のみが描かれた依頼票くらいは出てるが、あれは基本ハズレ依頼しかない。美味しい依頼は、冒険者に直接、ギルド側が声をかけてくる。


なので基本的に冒険者がやるのは恒常的に出ている依頼……。


「討伐」「採取」「狩猟」の三つである。


そんな訳で俺は、薬草を採取しに……。


……ん?そうだ、召喚スキル。


「『召喚:薬草』」


……出るじゃん。


こーれは無限稼ぎ法見つけちゃったカナ?




結論から言おう。


そんなことはなかった。


薬草は確かに、良い値段で売れた。


召喚スキルで一度に出せる量が、三千ベルで売れたくらいには。


そして、その薬草召喚一回分の魔力消費は全体の10%程度……。


一日三万ベル、この世界での食事が一食で千ベル程度であることを思えば、普通に生活する分には充分だろう。


だーがしかし、俺には常に精霊を召喚しておき、スキルレベルを稼ぐと言う縛りがあり、尚且つ安全マージンを取る為にあまり召喚を使い過ぎることはできないという事情がある故……。


結局のところ、稼げて一万と少し程度。


これなら、普通に働くのと変わらない。


なので。


「やっぱり狩猟よなぁ……」


俺は、ノースウッド北東部の森に来ていた……。


森。


ノースウッドの森と、そのまんまの名で呼ばれるここは、木こりの街であるノースウッドの主要産業である林業のための大切な森なのである。


かなり広い森の為、早々刈り尽くすこともないだろうし、何より「魔力」という不思議パワーの作用がある世界なので自然の力は相当にお強いので、何十年もの間、木材収集の場として愛されて来た……。


……んで、当然ながら、ここにもモンスターは出る。


木に登って上から奇襲してくる「夜蛇」「黒蜘蛛」に、オーソドックスな「猿鬼(ゴブリン)」、厄介な「森狼」や、木に擬態する「木人(エント)」と、危険は多い。


こういうモンスターは、潰しても潰しても湧いて出る。絶滅などしないのだ。


実際、この世界ではこんな話がある。


昔、強い貴族が、自分の領地にいるモンスターを絶滅させようと、数千の兵士を揃えて大討伐をしたんだとか。


しかし、その日のみはモンスターが領地から消えたが、一週間もすれば少しずつモンスターは増えてゆき、一月もすると元通りになってしまった……、と。


どうやら、そういう世界のルールらしい。


まあ、それだからこそ、独立した武装勢力である冒険者ギルドみたいな組織が、国家から公認を受けていられるんだけどな。


無論これには抜け道として「王種(ボス)討伐」なるものがあるらしいが、それについては聞けなかった。時間がなくてな。


とにかくそんな感じで、狩りが儲かるんだ。


狼の毛皮がこの前に諸々抜きでもうん十万ベルくらいで売れたからな。


毛皮は貴重だから、狙い目なんだな。


この森にも「硬角鹿」や「灰穴熊」なんかの毛皮が売れそうなモンスターが多い訳だから。


狩るべ狩るべ。




「そういう訳で、頼んだ」


『分かったよ!びゅーん!』




狩った。


いやもうね、一言で精霊達が全部良きにはからってくれるのでとても楽。


けど、皮鞣しの作業自体は俺がやらにゃならんのよなあ……。


あ、皮鞣し?


逃亡中に、モンゴルの皮鞣し工場で働いていてな。


鹿くらいなら解体できるし、薬品と道具があれば皮鞣しもできるぞ。


はい、そんな訳で、ダニ殺し薬品に鹿の皮をつけて洗いまーす。


ぞろぞろダニが出てくるが、こいつらはカスなのでヤクでぶち殺す。


死ねオラっ!


そして、皮の内側の脂肪をゾリゾリ剃って、クロム薬液を……。


……よく考えたらこれ、皮鞣しって時間かかるなこれ。


でも、皮だけ召喚って、まだなんか上手くできないんだよな。


それに、鞣し作業をしていない完品の工業製品的毛皮は、出来が良過ぎて怪しいし、結局自分でやるしかねえ……。




で、しばらく後。


完成した鞣し革を乾燥させて、綺麗に纏めてからギルドに持ち寄った。


「……お前、本職だろ?」


買取カウンターの中年男は、そう言ってこちらを胡乱なものを見る目で見てきた。


「いやいや、高評価はありがたいが、実際のところ本職と言えるほどの技能はないよ。ただ、数年くらいはそういう仕事をしていた経験があるってだけだ」


「余程の職人に師事したんだな。こりゃあ……、相当な出来だぜ?一枚につき、金板一枚は払っていい」


ってことは……、百万ベル?革一枚で?


今度は、こちらが胡乱な顔をして返す番だった。


この毛皮がこんなに高く売れりゃ、ここにあるのだけで一千万ベルはゆうに超えるぞ?


そんな俺の無言の訴えを感じ取ったらしく、中年男はこう返した。


「これはな、見たこともない技法の鞣しだ。普通の鞣し革より色艶が良く、柔らかくて手触りもいい。少しでも珍しいものを欲しがる貴族様が見れば、俺達下々の者が必死んなって働いてるのがアホ臭くなるくらいの金を払ってくれるだろうぜ」


「そうかい。そりゃ悲しめば良いのか喜べば良いのか分からんね。働いてるのがアホ臭くなるのはまあムカつく話だが、そういう奴らが買ってくれるから儲かると思うとなあ。んじゃ、全部買い取れる感じ?」


「一気には無理だ。三枚までなら払えるが、それ以上は一月後に持ってきてくれ」


「OKOK、分かった。そんじゃあ、とりあえず三枚を渡しておく」


「よし、じゃあ金だ。金貨は使いづらいだろうから、半分は銀貨にしておいたぞ」


「んー、助かる」

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