第36話 エンカウント王子様ってか?

パレードの場からビャッと逃げて、ごく普通に砂走船の見物をしている俺は、良い感じの施設を見つけた。


砂走船のレンタルショップだ。


別に買っても良いのだが、どうやら砂走船は受注生産型らしくて、在庫がほぼないのだとか。


この世界そういうとこあるよね。


例えば服とかも、型紙という概念がまだないから、その人その人に合わせたオーダーメイドしか作れない。


物品を大量生産して大量消費するような社会にはまだなってないんだよな。


まあ、俺が要求するようなスペックの高い砂走船は、どの道高級なカスタム品になるらしいから買えないのは確かなんだが。


そもそも、この国でしか使えないからな、砂走船。水や土の上は走れないらしいし、需要がそんなにないのかな?


であれば、レンタル。


レンタル品ならば、良い感じのが見つかるであろう、と。


そういう訳だった。


「いたぞー!」


「包囲しなさい!」


そして逮捕された。




「いやいやいやいや、良いねえ君。好感が持てるよ素晴らしい。この僕ほどではないがハンサムだし、強そうだし、女の子の趣味もいい。似た者同士で仲良くなれそうな同志だね?あああ申し遅れて申し訳ない。僕はこの国で一番かっこよくてお金持ちで賢い素敵な王子様の『コレオ・アディオ・エディオン』だよよろしく頼む」


なっ、何だこいつぅ……?!


キャラを被せてきやがった!


日に焼けた肌と銀髪である点は俺と違うが、長身長髪のイケメンって点でも俺とモロ被りだし!


こいつは許せんなあ!


「んーんんんんん、失礼。誠に恐縮だが、俺は俺よりお喋りな男は嫌いなんだ。お喋りな女もおしゃぶりが上手い女も大好きなんだがな、残念ながらお前は男だ。別に仲良くしようなどという気持ちは特にないが、教育中の弟子兼愛人の手前、礼儀正しく敬意を払ってお答えしよう。俺はリーフェンハイム王国の辺境伯、ドーマ・アッシャーだ。よろしくとは言わんよ」


なので俺は礼を尽くした挨拶でマウントを取って対抗することとした。


すると、相手側……コレオ王子も目を細め、こう返してくる。


「素晴らしい!やはり似た者同士だね、御友人と呼ばせてもらってもいいかないや寧ろ今後はそう呼ぼう。それでは御友人、君は話すのは好きだが聞くのは嫌いで、特につまらない話は聞きたくない派閥の人間ではないだろうか?僕もそうだからよく分かるよ、なので一つ有益な提案がある」


「ほう?面白いじゃあないか、つまらなかったらその瞬間に割と結構ドン引きするくらいに暴れるがそれでも提案する勇気と元気と溢れるパッションがあると言うのなら……、言ってみろ」


「王族専用の砂走船……、乗って行かないか?」


ふむ。


「45点、赤点回避だな」


もっと諧謔を利かせると良いでしょう、って感じ。




俺は、燦々と太陽が照りつける砂漠の上を、クソデカ砂走船に乗り込んで疾走していた。


結局、コレオ王子の誘いに乗ったのだ。


レンタルの砂走船は、大型のものは予約が必要で、小型のものはバイクのようなもので運転し続けなきゃいけないらしくダルい。


自動操縦型で、ある程度の大きさがあるとなると、貴族用の予約必須タイプが必要なので、こうして王族専用の砂走船に乗れたのは僥倖だった。


「コレオ様ぁ♡」


「おお、ミザリィ!今日も可愛いよ!」


「コレオ様、素敵ぃ♡」


「ガラテア!んー、魅惑的な香りだ!」


だーがしかし、所構わず自分のハーレムといちゃつくバカ男と共に行動するのは嫌だな。


王子?知らん知らん、立場よりもその人本人を見なきゃならないだろ?


……それは良いとして、砂漠の景色は良いものだな。


流砂が舞う砂の海、それに含まれる石英に、強い太陽光が照り付けて反射する。星のかけらが散りばめられているかのようで、言わば真昼間から見れる天の河。


気温と乾燥以外は気に入ったな。良い土地だ。


「王子〜?どうして、あの男を船に乗せたんですか?」


金髪長耳のファーブラー、言ってしまえばエルフのような容姿の、フェイ族の女が、しなを作ってそう言った。


すると、コレオ王子は、胸を張ってこう答える。


「これは個人的な見解なのだけれど……、男の格とは、連れている女の子で分かるものだと僕は思っているんだ。彼の連れであるリカントを見てごらんよ?髪から爪の先まで磨かれ、可愛らしい服で身を包み、質の良い武器を持たされ……、そして何よりも、身体全体で主人への愛を体現している。こんな素敵な女性に心から愛される男はそうはいない、格下などとはとても思えないな」


「人外趣味同士の仲間だと思ったからではなかったのですか?」


「ううん……、僕は別に、君達のような人外が、人外だから好きという訳じゃないんだ。貶す訳ではないが、人外種は基本的に知能や知識があまりない。けどその代わりに優れた身体能力や魔力を持っている。そんな君達は、僕に対して感謝と敬意を忘れずにひたむきに働いてくれる……。気に入る理由はそこに尽きるというものだよ、そこに種族は関係ない」


「なるほど!確かに、我々のようなリカントやファーブラーに対しても優しい男となると、信頼できるのは分かります!」


「そうとも、人の本性は弱者を相手にした時に分かるものさ。自分より弱いからと嬉々として虐め始めるような奴は下衆だ、僕は下衆とは友人にならない。下衆とは、お近付きになるだけで害になるからね」


「素敵ですコレオ様!」


なるほど?


差別をすることが悪いのではなく、差別をするような性根の腐った人間を近くに置くと碌なことにはならん、と言う話か。


それについては完全同意だ。


身近な例とすると……、そうだな、一緒に飲食店に行ったとして、その同行者が店員に対して横着な態度をし始めたら距離を置いた方がいい、みたいな?


飲食店の店員とかそういうこちらに逆らえない相手に対して怒鳴りつけたりするタイプの奴ってやべー奴じゃん。そういう感じの話だろう。


俺?俺は弱いものイジメは好きだが、非がない弱いものは虐めないぞ?


悪くない弱い奴を虐めるのはただのカスじゃん。


悪くて弱い奴をなぶり殺しにするのがエンタメでしょ?


「……にしても、本当にかわいいね、君の恋人は。イタチの氏族かな?武器も使い込んでいる、伊達や酔狂で持たせている訳ではないようだ。本当の意味で弟子として可愛がりつつも愛していることが伝わってくるというものだよ。特に身繕いは実に素晴らしい、どういう香油を与えているのかな?」


「飛行都市謹製のシャンプーとトリートメント、化粧水と軟膏、ムダ毛処理用の毛抜き薬と、防虫効果のある香水だな。我がアッシャー辺境伯領たる飛行都市では、先進的な美容品を各種取り揃えている。是非ご購入の検討をお願いしたい、今なら試供品を無料でプレゼント」


こういう地道な営業が後々に響いてくるんだよな。


俺は、時空の精霊に頼んで持ってきてもらった試供品を押し付ける。


「ふむふむ、これは良い。にしても、飛行都市のアッシャー辺境伯は噂には聞いていたよしかし、こういう噂は大抵尾鰭背鰭がついて訳が分からなくなっているものだが直接見て噂通りの超人だと確信できたねははは」


そう言いながらコレオは、手に持った羊皮紙を隣に立つファーブラーの女に手渡して礼を言っていた。


ああ、さっきからそのファーブラーの女は、俺のことを鑑定してきていたもんな。


レベル200越えに度肝を抜かれたらしく、終始青い顔をしていたが。


その鑑定結果を羊皮紙に書いて、コレオ王子に渡していたんだな。


しかし……、その鑑定結果を見ても顔色ひとつ変えないこのコレオ王子。


中々やるじゃない?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る