第37話 キャラ被り野郎と交渉してみる

コレオ王子の考えていることは分かる。


俺が信用できる存在で、付き合うことで利益も得られるだろうから、恩を売っておきたい。


それに尽きるだろう。


俺としても、キャラ被り云々は抜きにして、話がちゃんと通じる上に変に媚びてこないまともな権力者なので、伝手を作っておくことに文句はない。


利害は一致しているな。


であれば……。


「コレオ王子、ちょっとばかし頼みがあるんだが?」


「御友人、何でも言ってくれたまえよ」




「『予言の巫女』に会いたい」




頼んでみるのもやぶさかではない。


「予言の巫女!予言の巫女と言ったかな、御友人?よりにもよって、王族にも伍する権力者に、使者も出さずに会わせろ、と?貴族であっても、予言を聞くのに年単位待たなくてはならない予言の巫女に?」


「できないか?」


「可能か不可能かで言えば可能ではあるとも。だがそれはあくまでも理論上の話で、実質的には不可能に近いね」


「三流エンジニアみたいな話し方だ。非専門職の取引先に技術上の難点なんて説明してもわかってもらえないに決まっているだろ?無理なら無理と言え」


「無理ではない。しかしその場合、御友人に対しては失礼ながら信頼が足りないんだよ。信頼は命より重いと言ったね僕は。信頼とは積み重ねるものであり、出会ったばかりの君のことは信用できるが信頼はしていない」


ふむ、言いたいことは分かる。


個人的に気に入ったから親切にしてやるということと、自分の仕事上の利益に反するから提案を断ること、それが同時に起きるのはおかしな話じゃない。


むしろそれが理性ある人間として当然の話。公私混合は人情家ではなく感情を自己処理できないクズ。個人の好き嫌いで取引先への対応を変える社長とか、怖くて従えないって訳だな。


まあ俺も「できれば」って感じで言ってみただけなんで、特に断られたことに対して怒りはないが。


「しかし、しかしだ、御友人。君には、それを押し通すだけの力がある。僕は残念ながら、力でねじ伏せられたら何もできないんだ。僕は王子なのでね、戦う力には自信がない」


「ふむ、それで?」


「人間の最も優れているところは会話で意思疎通ができるところだよ御友人。交渉によって互いの落とし所を探って、互いが得をする結果を得られる訳だね」


「おーおーおー、よくお勉強しているな満点花丸を与えてやろう。だーがしかし、自覚しているだろうがしかし、あえて俺は聞いてやるぞ?……交渉ってのは対等な立場同士でやるもんだ」


「おやおやおや?見込み違いかな、などという言葉をわざわざ言わせないでもらいたいな御友人。無論それは心の底から心底理解しているとも。けれど僕が言いたいことは、それこそ君も理解しているだろう?故にこちらもあえて言って差し上げよう……、それだけの力を持ちつつ、濫りに行使しないということは、自らを『ヒトの枠』に収めようとしての結果だろう?『ヒト』を辞めてしまっては面白くないだろうからね。であるならば、僕はそこに交渉の余地を見出す。違うかな?」


ふーん、やっぱり頭が回るな。


戦略ゲームの偉人枠みたいなもんかこいつは。


確かに俺は、世界征服をやれるだけの純粋な戦闘能力がある。


けどそれをしない。


その理由は、俺は特に魔王になろうなんざ思っていないからだ。


レベル200越えだが、あえてレベル100ユニットのような動きをすることを心掛けている。


チートコマンドを使いまくって、コンソールでやりたい放題やってしまっては、どんなゲームにもすぐ飽きてしまうからな。俺は「ヒトの枠を超えない」という縛りプレイでこの世界を楽しむことにしたんだ。それを見抜かれた訳だな。


なるほどなるほど、ならばそれなら良いだろう。


「ふむ、それは認めよう。けれどもだけど、かと言って、交渉できる要素が何か増えた訳ではないぞ?そこんところはどうするつもりなのかね?」


「鋭いご質問に肝が冷えてしまいそうだ。砂漠ではピッタリだね!その点については君が欲しそうなものを貸し出すことで対価としよう!」


「ほう?それは?」


何か……、円盤のようなものを投げ渡された。


金色の金属製で、手のひらサイズの円盤。オレンジ色の精巧な紋章が描かれている。


かなり強くて複雑な波長の魔力も感じるな。


何らかの魔道具か?


「『砂漠の秘宝』……、その一端だよ」


ふん、ふん、ふん……。


「話を聞こうか」




話がまとまった。


コレオ王子は、権力のゴリ押しで巫女の予言を待つ予約者をキャンセルさせ、その分の枠を俺に渡す。


そして更に、「砂漠の秘宝」……、その恐らくは「鍵」である円盤を、一時的に俺に譲渡。


ここまでが俺のメリット。


そしてコレオ王子側のメリットはこう。


コレオ王子は、俺から攻撃されないという身の安全と共に、俺が見つける予定の「砂漠の秘宝」の半分をもらえる。


俺はぶっちゃけ、欲しいものは大体何でも手に入るので、手に入るものの量に興味はない。


宝箱を見つけて開けるのが好きなのであって、中身には正直どうでも良いのだ。


で……、そうそう、「鍵」な。


コレオ王子から受け取ったこの複雑な紋章が描かれた手のひらサイズの円盤だが、これは恐らくは「鍵」であるらしい。


つまり、「砂漠の秘宝」とは、宝物庫か何かにあるらしく、それを開くための鍵がこれなんだとか。


それも、魔法の研究者の予想ではあるらしいんだが、本当にそうなのかは分かっていないらしいが。


だが少なくとも、この国では数多の冒険者が砂走船に乗って、この国のどこかにあるという「砂漠の秘宝」を求めて駆け巡っていることは確かだったし、国が多額の懸賞金を提示しているのも確かだった。


ただ、砂漠の秘宝はもう三百年近く見つかって居ないから、国はとっくに諦めているってのが真実らしいがな。


実際、その秘宝の鍵らしきものをコレオ王子がお守り代わりに持ち歩いていたあたり、諦めている説はマジっぽい。


ただ発見時の賞金だけは、国の宝物庫にあるらしいとはコレオ王子が言っていた。平民なら一生遊んで暮らせる額らしいが、国家運営という観点で見ればそこそこの金額に過ぎない、だそうだ。


まあ、何にせよ。


国ですら諦めている秘宝を俺が華麗にゲットしたら、めっちゃ面白いよな!!!


面白さは全てに優先する!


さあ、やるぞー!

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