第38話 砂の都に着きました
着いたぞ。
砂の都ジャムールに。
砂色の石材と粘土できた住居が建ち並び、日に焼けた赤褐色に近い色の肌をした人々がたくさん行き交う。
街の中央には大きな大きなオアシスがあり、地下水脈から湧き出た水で湖ができている。
そこの麓に城があり、そこがジャムールの王城なんだそうだ。
そしてそのオアシスからずいーっと伸ばされた水路と、水路の脇に果実の木やサボテン、蔦植物がずらりと並ぶ。
アレが、この街の農業ということらしい。
そして、砂蜥蜴という二足歩行の大きな足をしたトカゲ(恐竜?)が家畜として飼育されていて、それが馬車を牽いて荷運びをする。
この砂蜥蜴は、見た目に反して身体が軽く、足がとても大きくて、砂の上でもある程度歩けるため、砂漠の地では馬の代わりに使われているらしい。
街の端では大小様々な砂走船が百に届くくらいの数停泊しており、男のリカント奴隷が物凄い量の荷物を運ぶ……。
苦力のように、バカみたいな量の荷物を背負って、粗末なパンツ一丁のリカント達が荷運びをする訳だな。
彼らはこの国でもしっかりと被差別対象で、ちゃんと人間様に道具扱いされている。
だが例え、道具扱いだとしても、リカントは身体能力の高さを活かして仕事にありつけるし、大切にもされるから、まだマシではある。
仕事がない人間よりかは、奴隷でも働き口があるリカントの方が食いっぱぐれないだけいい立場という訳だ。奴隷と言えば酷い扱いのように思えるけど、この世界には奴隷以下の存在なんてごまんといるからな。
例えば……、シャドウフォーク。あれらは基本的に生まれた瞬間に殺されるから数は少ないのであまり見ないが、リカント以下の扱いがデフォだ。見た目がアレなので。
一方で、ファーブラー達はまあ、そこそこの扱いであることが多い。
手先が器用なドヴェルグ族や、魔力の運用に長けるフェイ族なんかは、普通に市民として認められていることもある。
そして、目を惹くのはやはり、これだ。
「うはあー……、すごいでやんすー!」
街のど真ん中の大広間にある、大バザール。
ゴザのようなものに得体の知れない魔道具を並べる謎のジジイ、屋台で何かの焼いた肉を売るババア。
もうちょっと良い感じのところは、木材の支柱に革の天幕で陽の光を遮り、ペイズリー柄っぽいアラビアン風な絨毯を敷いて、そこに品物を並べている。
ゴザに謎のアイテムを並べるジジイとか、ゲームやアニメなら何かしらのイベントが起きるのは確実。
ちょっと良い感じの店には魔法のランプとかあるかもしれない。
残念ながら衛生的にヤバ過ぎる飲食物はちょっと無理だが、売っているものには興味があるな。
ああ、楽しそうだ……!
おっと、その前に。
「ザニー、逸れると困るから、手を握ろうな」
「はいでやんす!」
んー、ナチュラルに恋人繋ぎしてくるぅ……。
かわいいね♡
一生おもちゃにしてやるからな、弟子!愛してやるぞ!
おもちゃ系ヒロインことザニーと共に、大バザールの店舗を冷やかす。
地球産の道具はめちゃくちゃ便利だし品質もいいので、地球産の道具があれば困ることはないんだが……、この世界の魔道具は意外と面白いのが多い。
「ライター使えばよくない?」「カメラあるじゃん」「銃でよくね?」とか、まあそれはそうなんだが、それはつまらないからな。
毎回言っているが、コンソールコマンドで何でもかんでも解決していたら、ゲームとして面白くないのだ。
詰まってもいないのに強制クエストクリアとか、レベル上げをボタン一つで!とか、そういうのやると大抵すぐ飽きてしまう。
何でもできるってのは、何も楽しめなくなるってことだもんよ。
そんな事を思いつつ、ザニーと共に露店を冷やかす。
砂漠は暑いからな、冷やかすくらいが丁度いいだろう?
魔道具屋でちょっとした魔道具を買って、あとは意味もなくランプとか買っちゃって、砂漠の工芸品らしい絨毯なんかをたくさん買う。嫁らへのお土産だ。
そして、バザールにてこんなものを見つける。
『地図屋』か?
木組みの屋台に刺さった、丸められた羊皮紙。
この辺の地図を買って、何か意味があるのか……?
……いや、これは、そうか。
地図と言うより、『海図』だな?
砂漠の海の海図だ。
どうやら、砂海は、海流のように場所によって流れが異なるらしい。
だから、何にも考えずに砂走船で出発!なんてしていたら、砂海の流れに連れ去られて砂漠で遭難……と。
てっきり、だだっ広いだけの砂漠を見て回るのかと思っていたんだが、意外と複雑なルールがあるっぽいな。
砂の流れ、風向き、水と食料とそして砂走船のエネルギーの量。
星と太陽から位置と時刻を割り出し、昼暑く夜寒い砂漠を計画的に駆け抜けていく……。
なるほど、難しい。
確かに俺は、密航したり、奪った船で不法入国したり、難民に紛れて国境を越えたり、そういう経験は多少嗜んではいる。
だが、砂の上を走る船の操作法は、流石に知り得ない。
故に……。
「そうだ、スカウトしよう」
またもや、パーティメンバーを募集することとした。
もちろん女を。
「冒険者ギルドはどこにでもあるなあ」
はい、やって来ました冒険者ギルド。
全国的な組織なんだったな、そういや。
この世界の治安の悪さは、地球世界のそれとは一線を画すレベルなんだよ。
何でかって言うと、やはりモンスター。
ただでさえ成熟していない社会なのに付け加えて、魔物の群れが定期的に湧いて国や街を滅ぼすゴミカス以下のクソプロビしかこの世界にはないのだ。
だから、平気で族滅戦争もやるし、数少ない開拓された可住領域を巡ってマジでヤバいレベルの苛烈な争いもやる。
そんな訳で、難民やら食い詰め者やらは無限に居て、兵力は常に無限に欲しい。
そこに、冒険者ギルドができる余地がある訳だな。
当たり前だ、まともな社会なら、国家にまつろわないならず者武装集団なんて許す訳がない。
だが、まともじゃない社会だから、冒険者ギルドはここにあるんだよ。
ギルドの外観も、内装も、大きさは異なれどリーフェンハイムと殆ど変わらない。
土地によって同じ組織の建物の外観や内装が大きく異なるのは不便だものな。
役所が東京じゃ百階建てビルで北海道じゃ平屋の和風庭園!なんてことはないように、冒険者ギルドには酒場を兼ねたテーブル席と、受付や買い取りのカウンターがある、二階建ての石造りの建物だった。
「ご依頼ですか?」
受付嬢、豊満なボディが特徴の妙齢の美女が、色っぽい声でそう言った。
「いや、冒険者だ」
俺は、懐から『銀剣位』の冒険者証を取り出して見せつけつつ、返答する。
そうすると美女は、一瞬、目を見開いてから、すぐに取り繕って答えた。
「驚きましたわ、冒険者らしくありませんので……。いえ、それで、何用ですか?」
「『砂漠の秘宝』を探しに来た」
「なるほど……、では、徒党の人員探しを?」
「そうなるな」
「条件はいかがなさいます?」
「評判が良い、ちゃんと働く、リカント差別をしない。それと……」
「当然の話ですね。それと?」
「……顔のいい女が良い」
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