第39話 金と権力で船と女とイキリとあと何か

「いや……、女が欲しければ娼館にでも行ってくださらないかしら?ここは冒険者ギルドですよ?」


うーん、冷静なツッコミ痛み入ります。


でもまあ普通に考えればそうか。


「顔のいい女冒険者」なんてオーダー、出す奴が普通はいないから、対応できなくて当然。


ノースウッドでの受付嬢であるスティーリアは、アレはあらかじめ俺が女好きであると言う前情報があるから対応できたんだろう。


いきなりここで対応してくれってのは無理な話か。


「じゃあ女だ、女冒険者。信頼できる奴を集めてくれ、面接がしたい」


「面接……?ああ、会って話がしたい、と?」


「そうだ。まあ十日くらいは待つから、その間に銅盾以上の、砂走船が動かせる女冒険者を見たい」


「分かりました。ですが、断られることもあるのでご了承を……」


ズン。


俺がカウンターに置いた金貨袋の音。


金貨にして千枚。円に換算すれば一億円と、ちょっとした領地の運営費並み。それを複数。


「申し遅れた、俺の名はドーマ・アッシャー。リーフェンハイム王国の辺境伯を、冒険者と兼業でやっている」


「……直ちに可能な限りの女冒険者を呼び出します。お待ちくださいませ、辺境伯様」


わあ、金&権力パワーって最高だなあ。




この世界での金貨千枚というのは、人一人が一生遊んで暮らせる程度の金額だった。


日本円で一億円と言うから「そんなんでもなくね?」と思えてしまうが、この世界の物価は大体アフリカ並みか、それ以下だからな。


四万円、つまりは銀貨四枚もあれば、一月普通に生活できちゃうのがこの世界の平均的な物価感覚。


その分、金属製品とか服とかの工業製品は日本で買うのの数十倍はするんだが。


まあつまり、依頼達成の時点で人生クリア確定の依頼、受けないアホは流石にいなかった……。


そうして、四十と数人程度の女冒険者が集まる。


「よし、とりあえず、お前とお前とお前」


「「「はい!」」」


「ブスだから消えろ」


「「「……はあ?!!!」」」


「俺は面食いなんでね、ブスは嫌いなんだ。消えろ」


「ちょ、ちょっと待ちなよ!いきなり呼びつけて」


俺は無言で悪の精霊デーモンを召喚して脅す。


『ゴアアアアアアアアッ!!!!!』


赤い瞳がギンギンに光り、鋭い牙が並ぶ歯列をガバッと開きつつ、この世のものとは思えない大声で威嚇するデーモン。


それにより、三十人ほどが気絶した。


「んー、肝が細い女も悪くはないが、倒れた奴らも顔はフツーって感じだ。失格」


残り十数人は、恐怖に震えて脂汗を流し始める。


……いや、二人ほど活きがいいのがいるな?


「君は?」


「アタイは、金冠位のガラシャだ。こっちはメンシア」


「ん、メンシア」


赤毛を適当に刈り揃えたベリショの頭に、黒い眼帯をつけた豊満な女剣士。


銀色の長髪を短くまとめた、細身で背の高い女魔術師。よく見りゃ耳長、ファーブラーのフェイ族だな。


顔は……、最高レベル!


「君達二人は合格だ」


「こいつらも連れてってくれ、アタイらの舎弟さね」


「「「「よろしくお願いします!」」」」


残りの十数人は、ガラシャの舎弟なのだとか。


顔は……、合格ラインは余裕で超えているな。


よし、合格!


「じゃあ、そいつらも全員雇おう」




とりあえず、物事には順番があり、段取りがあり、準備が必要だ。


聞けば、探索用の中型砂走船がガラシャらにはあるらしく、そこの心配は不要だそうだ。


だがしかし、船さえあればどうにかなると言う話ではないのは言わずとも分かるだろう。


魔道具の一種である砂走船を動かすためには、その燃料たる魔石、つまりは「魔力凝固結晶」が相応の量必要で。


俺と弟子を含めたおよそ二十人分の食料、水、雑貨も必要。


当然、船のキャパシティも有限であるため、一部を代替可能な魔道具……例えば魔石を嵌め込むと水を産む「泉の水瓶」や、火を出さずに熱を発する「焼石の円盤」など、船上生活に適した道具も必要だ。


まあ、食料はなんか色々と怖いので、俺らの分は出されても食わないが。


そうして前金を払って、一週間ほどの期間準備を経て……。


「行くよ、野郎共!出航だ!」


「「「「おーーーっ!!!」」」」


出発の時間だ。


尚、メンバーに野郎は俺一人しかいない。




あ、後ついでに、だが。


その待機期間中の一週間に、コレオ王子から手紙が届いた。


何でも、「予言の巫女」の手紙だとか。


内容は抽象的だが、要約すると「北西の未踏破領域に数ヶ月くらい行ったところにありますよ」みたいな感じ。


まあそりゃそうだ、予言の巫女様も「予言」ができるんなら、俺みたいなやべーやつが来ることは前々からご存じだっただろうよ。


だから、「直接来るな、用事はこれだろ?!」ってことなんだろうな。


顔くらいは見てみたかったもんだが、正直「砂漠の秘宝がどこにあるか?」くらいしか聞きたいことないもんなあ……。


それなら、巫女と会うのはまたの機会にして、宝探し優先で良いか……。




「へえ、うまいもんだ」


「はえー、すげーでやんす」


ガラシャの砂走船は、民間人が持つにしては大きめなスクーナー級。


二本のマストに縦帆がある、中型の船だった。


十五人程度の船員がいるが、そのうち五人は休んでおり、交代制で船を動かすようだ。


理由として、レベルによって身体能力が高まっているから、女でも一人で荒縄を引いて、帆の制御ができるみたいだから。


無論、砂嵐などで天候が荒れている時には、休憩中の交代要員も駆り出されるらしいが、少なくとも今は問題ないようだな。


陽気な舟唄をBGMに、俺は弟子と共に甲板にビーチ用の折りたたみ椅子を出してくつろいでいた……。


「甲板にいるんじゃないよ!邪魔だから船内に引っ込んでな!」


めっちゃ怒られた。


まあそれはそう。


仕方がないので俺は、舵をとっている船長のガラシャに近寄った。


「調子はどうだい?」


「だから、邪魔すんなっての!アンタが強いのは分かってるけどね、砂海の上ではアタイらに従ってもらうよ!」


「そう邪険にするなよ。強気な態度を見せて、船内という狭い空間で威厳を見せつけなきゃ拙いのは理解しているが、こちらは別にお前を軽んじて上から無理な命令をするつもりなんてない」


「分かってんなら、あんまり舐めないでほしいねえ。大きな声じゃ言えないけど、アタイはあまり気にしちゃいないんだ。けど、それじゃあ船員に示しがつかないんだよ」


そう言われるとまあ、うん。


そうですね。


「じゃあメンシアは?」


「メンシアもよしとくれよ。この子はアタイの副官で、この船の最大戦力なんだ」


「へえ、術師か何かか?」


「手の内をベラベラ喋ると思うかい?」


「では俺は手の内をガンガン開示していこう、信頼の証だと思ってくれて構わない。俺は、世に生まれた新しいスキルである『召喚』を体系化した『召喚術』の開祖でね。弟子を数百人ほどとって育てているんだ」


「……何のつもりだい?」


「信頼の証と言っただろ?いや本当に、裏とか勘繰らなくていいぞ、俺は何も考えていないからな。……それで召喚術だが、術理として、魔術とは異なり特別な魔法陣や形代などを使って、世界のどこかにある事物の影を引き出す、ということになっている」


「ん……、事物の影、何?」


おや、先程から何も言わずに佇んでいたメンシアは、興味あり気に俺に絡んできたな。


どうやら術師らしい、そういう魔法的な話に関心があるのだろう。


「言ってしまえば複製だな。鏡に映ったもう一つの写像と言うべきか……、本体とは何ら関係のない記録、情報の塊だ」


「ある事物の複製品を作り出し、引き出す?」


「そうだ。無論、召喚術も魔法の一種である為、粗雑な理解では扱えない。その為、召喚術は複雑な事物を引き出す際には長大な形代を欲する。例えばこの〜……」


「なるほど」


俺がそんな風に会話をしていると、痺れを切らしたガラシャが怒鳴る。


「だから、そう言う気安い態度がなあ!」


その時、地面が一度、大きくぐらりと揺れたではないか。


「お頭ーっ!左舷!砂蛇虫だ!」


砂蛇虫、分かりやすく言えば「サンドワーム」と言ったところか。


茶褐色のうねるミミズは、長さが見えているところだけで十数メートル。


そしてその太さは、人を頭から丸呑みできるくらいはあるだろう。


歯列に並んだ、黄ばんだ鋭い牙がギチギチと異音を上げる……。


「出よ、大地の精霊タイタン」


……ので、始末した。


「ああ、それと、俺の手の内をベラベラ喋る理由だが……。ご覧の通り、喋ったところで誰も対処できないってのもあるな」


唖然とするガラシャ達に、俺はこう言った。

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