第40話 実務的な話が結局一番大事
「……アンタ、本当に人間かい?」
冷や汗を一筋流しながら、こちらを見開いた目で見るガラシャ。
流石は、冒険者の最高位、「金冠位」と言ったところか。
見たところ、レベルにして50……、この世界基準であれば英雄と言えるほど。
それ故に、レベル換算にして80程度のタイタンを見ても、どうにか恐慌状態に陥らずに済んだのであろう。
他の船員達は、莫大な魔力と恐怖にあてられたショックで嘔吐したり、失禁したりしてしまっているのに。
そのガラシャの相棒たるメンシアも良い。
魔術の増幅器たる杖を握りしめ、前衛たるガラシャの背後へ周り、戦闘態勢に即座に入った。
術師らしい冷静な思考回路は惚れ惚れとする。
ああ、それで質問の返答だが。
「人間だよ、昔はね」
俺はそう軽く答えて、停船するように促した。
ガラシャは、倒れた船員を蹴って傍に退け、マストを全て畳む。
そして、俺を見て吐き捨てた。
「で?どうしたいんだい、元人間サマはさ……」
「宝探しがしたい」
「ハ、宝探し?砂漠の秘宝を?」
嘘をつくな、と言わんばかりの態度。
それはちょっと傷ついちゃうなあ?
「あの馬鹿でかい巨人に乗ればいい、アタイらなんて要りはしないだろ!何が目的なんだい?!」
「女のみの船に乗って、砂漠の秘宝を探し、綺麗な砂の海で暫し旅を楽しむ。おかしいか?」
「秘宝ったって、それだけの力があれば、何でも手に入るだろ?!」
「何でも手に入るから、過程に拘っているんだよ。秘宝の中身になんて興味はないね!秘宝を見つけるまでにどんな面白いことがあるか、その方がよっぽど興味ある」
一転、難しい顔をしたガラシャ。
「……何でウチを雇ったんだい?」
「女だから。腕の良し悪しなんてどうでもいい、ダメそうなら俺が圧倒的な力で助けるからな。道中に華を添えてくれる美女が一番助かる」
「アタイらに娼婦の真似事をしろと?」
「してくれるんなら大歓迎だ。けどまあ、嫁は三百人もいるからな、女には困ってない」
「何なんだ……、何なんだい、アンタは?!アタイには分からない!分からないよ……!!!」
「だから、さっきから言っているだろう?人間、何でもできると、あえて能力を縛り始めるものだ、とな。この世の全てが手に入るとなれば、『手に入らない不便さ』を楽しむしかないんだよ」
おっと、その完全な異常者を見る目。
最近はその目でよく見られるなあ。
うーん?
そんなおかしいこと言ってるかな俺?
「例えば今回も、『砂漠の秘宝』なんてものは、俺がその気になれば一瞬で見つかるだろう。同じ価値があるものだって、多分用意できる。だが、宝探しをするのに、あらかじめ宝の位置も中身も全て知っていたら……、どうだ?」
「……宝探しに、ならないだろうね」
「そうだ!俺は宝が欲しいんじゃない、探したいんだよ!女だってそうだ、女そのものが欲しいんじゃない、女と楽しい時間を共有したいんだよ!分かるか?俺は全能になった代わりに、『苦労をする喜び』を失ってしまったんだ!」
「……分かった、分かったよ。アンタは、アタイらの船で『宝探し遊び』をしたい。そういうことだろ?」
「ああ、そうなるな。だがもちろんアレだぞ?別に君らを侮辱してるとかそういうのじゃあないからな?少なくとも俺は、砂走船をこんな風に巧みに操ることも、人々に指示をすることも、力尽くでという条件なしではできんからな。力で代替可能な能力だったとしても、能力を持っているということそのものには俺は敬意を払う。それは本当だ信用してくれていい」
「……ああ、理解した。アンタが飽きるまで、それか宝が見つかるまで、アタイらはアンタに従うよ」
その後は、船員達は叩き起こされて、汚物の処理をした後に移動が再開された。
全員が俺のことを怯えた目で見てくるのでちょっと寂しいね。
あくまでも、宝探しに問題が出るほど舐められたら困る、ってだけで、基本的には仲良くしたいよ俺は。
そんな訳だから、積極的にコミュニケーションを取っていくこととした……。
夕暮れ時。
夕食の時間に、俺はガラシャとメンシアの二人と同じ食卓につく。
しん、と静まり返る食卓。
他の船員達も黙り込み、食事も始めない。
「……俺が怖いのは分かるが、別に粗相をしても怒ったりはしない。しっかり食事をして、明日に備えた方が良いぞ」
俺がそう言うと、船員達はおずおずと食事を始めた。
そして、目の前の二人だが。
「「………………」」
うわあ、めちゃくちゃ嫌そうな顔してる……。
「そんなに嫌われるようなことしたか俺?」
「まあ、ねえ……?」
「ん……」
んー……。
「例えば、だが。ガラシャの剣の腕ならば、今ここで剣を抜けば、メンシアも船員も共々斬り伏せられるはずだ。メンシアも、杖を抜いて不意を突けば、ガラシャの剣の間合いの外から圧殺できる。お互いがお互いを殺せる立場なのに、お前らは仲良くしてるじゃないか」
「アタイらはアンタに傷一つ付けられないんだがねえ?」
「ん、同意」
まあそれはそう。
「それを言えば、俺だって子供の頃には親兄弟より弱かった。けど、親兄弟を怖いと思ったことはないぞ」
「理屈の上ではそうだろうけどねえ……」
「不満があれば言ってくれ。俺はとにかく、楽しく宝探しをしたいんだ。不機嫌な奴らと旅をするのは嫌だ」
「まあ……、純粋に怖いだけさね。そのうち慣れてくるさ」
「そうか。じゃあまずは、お前らと仲良くなろうかなーって思うんだが良いかな?良いよな。だって俺ハンサムだし、お前らも実際は役得じゃない?俺は優しい紳士だし、床では特に紳士的だと名高いから安心だ」
「はっ、床で紳士な男なんているかよ!」
「いるさ、ここに一人な。嘘だと思うんなら試してみるか?」
「そのうちね、そのうち。まあ、少なくとも冗談が言える程度には人間らしさを捨ててないって分かって、少しは安心できたよ。さ、飯にしよう」
「ああ」
俺は、好物のデミグラスソースオムライスを召喚した。
付け合わせにメンチカツとコロッケ、茄子とパプリカのマリネ、ブロッコリーとベーコンのチーズ焼きにブイヤベース風魚介スープ。
飲み物は牛乳。
いやあ……、若返ったら食う量も油物への耐性も若い頃に戻っちゃってね。
俺はバリバリ格闘技をやっていた体育会系の好青年の為、米で言えば一日六合と、旧日本軍並みに食わないと身体が動かなかったんだ。
いやあ困っちゃうよ全くね。
……ん?
「ア、アンタ、それ……、どうやったんだい?」
「今朝説明したろ?俺は『召喚術』の開祖でだなあ……」
「あ……!事物の写像を生成して引き出す……?!」
メンシアが呟いた。
「そうだよ。普通に、飲食物を引き出してるだけだ」
「……それ、日にどれくらい出せるんだい?」
ガラシャが訊ねてくる。
どれくらい?
どれくらいと言われても……。
「街一つ分出せるようになってからは、限界を意識したことがないな」
俺がそう言うと。
「さっきまでの言葉は取り消すよ、旦那!ウチの厨房で働かないかい?!」
なんかいきなり手のひらを返された……。
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