第41話 A級犯罪おかずスティール

「おいおいおい、それならそうと言っておくれよ!難しい言葉ばっかりでよく分からないけどね、つまりは酒も食い物も好きなだけ手に入るってんだろう?!それなら、どんな女でも諸手を挙げて歓迎するさ!」


「ん、それはつまり、自身で食料を生成して、それを糧に魔力を出力できると言うこと?かの大魔導師ユリシーズがその生涯の最後に提唱した『第一魔力円環法則』による『永久存在』に至った?」


ギラギラする目とキラキラした目を向けられる。


「まあまずは食事にしよう、俺は腹が減った。ザニー、食べて良いぞ」


「いただくでやんす!」


んー、デミグラスソースオムライスは美味いなあ。


ほぼビーフシチューのデミグラスソースに、ふんわりした卵とチキンライス!


ビーフシチューでご飯を食うのはなんか違うと違和感を覚えてしまうのだが、ビーフシチューでオムライスはセーフだなと思えてしまう謎よ。


特盛のオムライスを食べつつ、副菜にも手を伸ばす。


コロッケうめー!


コロッケはねえ、学生時代によく買い食いしていたコロッケパンが好きでなあ。


歳食ってからは、日本のチェーン店の立ち食い蕎麦屋にあるコロッケ蕎麦が好きだった。


立ち食い蕎麦とかうどんとか、そう言う店って海外にも進出してるからな。


寿司とかは魔改造され過ぎて食えたもんじゃないけど。


そんなことを思いながら食事を楽しんでいると、目の前の二人も、船員達もじっとこちらを見ていることに気付いた。


「……ん、おいしい」


ひょい、ぱくっ。


メンシアは、ごく普通に俺の目の前にフォークを伸ばして、おかずをスティールしてきた。


おかずスティールは大罪だぞ。しかも見ている本人の目の前でのパワースティールは犯罪的な犯罪だ。


……しかし、よく見れば、船員達の手元にあるのは堅焼きのビスケットに干し肉、それとデーツらしき干した果実くらいしかない。


この砂漠の気温では、保存食なんて干物以外には碌に用意ができないんだろう。


「ああすまん、配慮が足りなかったな。俺は飢えた人間の前で分厚いステーキを食べる系の趣味が好きではあるのだが、これから俺の手足として働いてくれる従業員達の前でそれをやるほど空気が読めないアホって訳ではないんだ。こちらをどうぞ」


俺はそう言って、船員達に大鍋のビーフシチューと食器を与えた。


「「「「おおおっ!!!」」」」


究極的な話、やっぱり飯なんだよな。


慢性的に食料が足りず、餓死がありふれたこの世界で、美味い飯を腹一杯食わせてくれる奴こそが親であり頭目であり、主君なのだ。




おかずを大分スティールされてしまったので、追加でおかずをいくらか出さなくてはならなかった。


特にこのメンシアって女はヤバい、罪悪感もこちらの許可も一切なしに無限にスティールしてくる。


顔がいいのでおかずスティールくらいは許せてしまうのだが、あまりにも「強い」プレイングに言葉を失ったね。パワーを見せつけられてしまった。


ガラシャは粗野に見えて、一言断りを入れてからスティールするのでまだマシ感がある。


その後、メンシアに召喚術を教えてくれと乞われたが、食品の召喚はコスパがあまり良くなく、「自分で食べ物を出してそれを糧に生きていける永久機関人間」になるには、膨大な魔力の総量と回復力がないと無理だとは伝えた。


とは言え、好きな果物を一つ出す程度ならば、負荷的にも一流の魔導師からすればまあ問題ない程度だからな。


少しだけ教えてやった。


それと、ガラシャとは剣の勝負も少しやらせてもらった。


純粋な剣の試合なら、身体能力を同レベルまで落としてやっても俺の方が強いんだが、ガラシャはアレだな。


多分こう、剣士だけど剣を使うタイプじゃないな。


ゲリラ戦とか、小細工とか、そう言うのが上手いタイプだ。


実際、身体の各所に隠した小型ナイフとか、口に含んだ針とか、そう言うのを駆使して小技で崩してから、豪剣で仕留める戦法が得意っぽい。


うーん、同レベルまで身体能力を落としたらと言う前提で、殺し合いをして勝てるかはちょっと分かんないかもしれん。


因みにガラシャは、俺の剣術や組み打ちを見て「騎士団の隊長並み」だの「普通にやったら勝てない達人」だのと言っていた。


まあ俺は普段から散々自画自賛をしまくるが、実は他人から見た俺は、俺の自己評価より更に凄いらしい。


「だってそうだろ?とんでもない金持ちで、顔も身体も良くって、辺境伯でさ。その上で無双の剣士で超越者で魔法の一分野の開祖?床では優しく、敵には苛烈、頭も回って、下々の民への理解もある。おまけに、囲った女には好きなだけ贅沢させてくれるときたもんだ!」


「ん、大抵の女は靡く」


二人はそう言って笑う。


弟子もまた、こう言った。


「あっしみたいな孤児からすると、腹一杯食わせてくれるだけでもついて行くには充分過ぎるでやんすねえ」


「へえ?お弟子さんは無欲だねえ。いや、リカントは少しの餌をやれば死ぬまで働くらしいし、そういうもんか」


「ん、リカントは獣よりは上等。餌をやれば恩義を忘れない」


「いやー、恩義を忘れないのはリカントの文化ってより、そうしないとあっしらは生きていけないんで……。人間に使われるとしても、『義理堅いリカント』って話なら食いっぱぐれないでやんすから」


イメージ戦略ってことか。


聞けば、リカントにはリカントのルールがあるらしく、強盗だのをしようとするリカントは仲間内で袋叩きにされるんだとか。


「へえ、獣にも色々あるもんなんだね」


「はいっす。因みに、個人的には床で優しいのが嬉しかったでやんすかねー?あっしの知り合いだったリカントの孤児は、身体が出来上がってないのに無理に身体を売って、無理やりねじ込まれたせいで裂けちゃって、その傷が原因で死んだんで」


うーん、マジでドライだよなこの世界。


結婚ってか、恋愛って概念が希薄で、まあイケメンだの可愛いだの、それはもちろんあるんだが、それが結婚する時の勘定に入ってこないって言うか……。


要するに、凄いブサイクでも、ちゃんと働く能力があれば結婚できるんだよ。


恋愛、絆、顔の良し悪し、関係の積み重ね……。そう言うものはほぼないが、「働いて資産がある」ってだけで信用となり、その信用が大きければ大体結婚なんてどうにかなる。


そもそも結婚の意味合いも違うからな。


好きな人同士が愛し合って〜なんてことをこの世界で言ったらガキ扱いどころかワンチャンイカレポンチ扱いでもおかしくない。


結婚ってのは契約、家と家との繋がり作り。利益100%でやるもんだ。


そもそも、女の子達に相手を選ぶ権利もないしな。親が決めるんだそう言うのは。


そんな中、冒険者になるような女ってのは、家との繋がりが切れた無頼漢(女だが)なんだよ。


無頼漢の女達はそもそも、自分の腕で働いて食うことしか考えてない。


先のことなんて分からない、老いて身体が動かなくなるまで働いてその日暮らしを延々と続けようってんだ。


それ以外に考えられないのは、学がないからだし、技能もないから。


まあ、家無しフリーター生活から金持ちのイケメンに拾ってもらえるならなんでもするでしょそりゃ?って話だな。


日本にもいるらしいじゃん?普段は漫画喫茶の個室で寝て、夜な夜な水商売で働く、先のない女達が。


そんな女がセレブに拾ってもらえるとなれば、「愛人でもいいので養ってください!ワンワン!」くらいは言うだろ?現代日本でもさ。


この世界では、そんなレベルでもまだ「幸せ」と言えるんだから地獄のレベルが違うんだが、まあ良しとしよう。何も良くないが。


「……で、お前らみたいなのが男娼を買って孕んで、産んだガキをその辺に捨てて、お前らみたいな根無草の無頼漢を再生産してる訳だ。終わってんなあ、この世界」


「ハッ、じゃあどうするってんだい?世の中を変えて、みんな幸せな世界を作ってくれるとでも?」


「そんな義理はないな。世界の守り手だの、支配者だの、聞こえは良いが実際は面倒なだけだぞ?お前だって、この十五人の部下を乗せた船一つでいっぱいいっぱいだろ?」


「ああ、確かにねえ。十五人でいっぱいいっぱいなのに、何千何万人いるか分からない世界の全てだなんて、面倒がみきれないよ!」


だから俺は、俺が必要なものだけを救うんだ。


できるできないの話じゃなく、精神衛生第一に、ってな。

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