第35話 砂漠へ……

召喚ができる魔法剣士、要するに忍者じゃん?


今まで気づかなかったけど、これ忍者だよ!


かなり忍者だよこれ!


確かに、正面戦闘より、敵からの逃げ方とか、食べ物や飲み水の確保方法とか、そう言うのを優先して教えた。


術も、わざわざ相手に「ファイアーボール!」だのと教えてやるのは無駄じゃん(笑)、などと言って印による召喚術や、形代に文字を書き込んだりする式神術も教えた。


組み打ちや刀術も教えたが、そんなのより話術や交渉で戦闘を回避し、時には変装をしてでも逃げろと教えた。だって俺の弟子って全員俺の愛人なんだもん。怪我してほしくないし……。


そうしたら、出来上がっていたのは、生存力に特化した和風魔法剣士……忍者だった!


……まあ、別に問題はないのでいいんじゃないかな。




「んー……、そろそろ砂漠っぽくなってきたな」


「砂漠でやんすかー、どんなのなんすかねー」


「砂がいっぱいあるんだぞ」


「砂浜みたいな?」


「水はないぞ」


「うえー、喉が渇くでやんすー!」


雑な話をしながら、俺は弟子のザニーと北の砂漠へ。


そろそろ砂漠っぽくなってきたなー。


砂漠っぽくなってきたというのは、なんか砂地が増えてきたなーみたいな、そんな意味だ。


草花の背の高さは低くなり、藪や木々も低く、地面はざらざら砂っぽく。


まだ緑は視界に入るが、後半日もしないうちに砂しかないエリアに到達するだろうなと予測できる。


そうしてしばらく歩くと……。


「ん?師匠、あそこ……」


おや?


弟子が何かに気付いたな。


弟子の視線が向いた方向に進んでいくと……。


「おお、『船着場』か」


砂漠の上を走る船、『砂走船』の船着場があった……。


「おおー!ホントに砂の上に船があるでやんすー!」


砂走船は、船と言うよりかはスノーモービルとかジェットスキーみたいな感じだな。


無論、大きいタイプのものもあるが、基本的にはスキーのような板で砂の上を滑るものっぽい。


「おー、良いね。アレで砂の上を滑って移動する訳だ」


「あー、確か、砂場は歩けないんでやんすね?でも、見た感じ別に大丈夫そうでやんすが……?」


ザニーがそう言うと、近くにいた資材運びのおっさんがいきなり話しかけてきた。知らん人にガンガン話しかけてくる海外のノリだ。


「あんた、他所から来たのかい?」


「ああ、そうだ」


「『砂海』の上を歩くって?はは、まあやってみな」


おっさんの指差す先は、確かに砂の海。


「行くでやんす!」


ザニーが走って突っ込むと……。


「おわーーー!!!」


初雪のように粒子が細かい砂に足を取られて、一瞬で砂の海に飲まれた。


そして、まるで溺れたかのように、砂まみれになって砂海から這い出てくるザニー。


「死ぬかと思ったでやんす」


んー!


アホでかわいー!


土の精霊ゲーノモスに命じて、砂粒子を操って綺麗にしてやる。


「ははは!砂海の砂はきめ細かくて、歩くのなんて無理だ!溺れたくなけりゃ、素直に砂走船に乗るんだな!」


そう言っておっさんは、資材を背負って、ザニーに「飼い主の兄ちゃんと仲良くな!」と温かい言葉をかけて去っていった……。


「ふんふんふん、じゃあとりあえず、砂走船を手に入れて、ジャムールの王都に向かってみるか」


「王都でやんすか?」


「ああ、王都に太陽神殿があるんだそうだ」


……その辺は実は因果関係が逆で、太陽神殿があるところが王都になったんだそうだが。


それは良いだろう、とっとと砂走船を見つけて……。


「あっ!アレはなんでやんすか?!」


おっと、また何かを見つけちゃったバカ弟子が駆け出しちゃった。


もー、かわいいんだから!




「王子ー!」


「コレオ王子ー!」


「王子ー、こっち見てぇ!」


おやおや、大名行列だな。


「おー……!師匠、これってパレードってやつでやんすよね?初めて見たっす!」


「そうか?そういややったことないし、今度飛行都市でエンタメ目的のゲリラパレードでもやるか?」


「やるっす!」


しかし……、コレオ王子ね。


爽やかに手を振っているが……。


乙女ゲーで例えるなら、転校してきた主人公に初日からガンガン話しかけてくる糸目関西弁のチャラめ元気キャラみたいな感じだ。


「キャラ被ってるな……、殺すか?」


キャラ被りは許せん、殺すべきか?


いや、でも俺の方がイケメンだしな。そして強いし。


総合的に見て俺の方が上だ、殺すのは勘弁してやろう。


俺がお前とキャラ被りしてる訳じゃない、お前が俺と被ってるんだ。


あんたが犬に似てるんじゃなく、犬の方があんたに似てるのさ、みたいな理論で自分を納得させる。


だがまあ……。


「しかし、王子は何でリカントやファーブラーを飼っているのかね?」


「奴らはマヌケだが力はあるからな。護衛に最適だろう」


「兵士を死なせるよりかは、奴らに死んでもらった方が世のためだもんな」


獣に変ずる力を持つ半獣人『獣化人(リカント)』。


呪われし者『呪印人(シャドウフォーク)』。


スキルとはまた別の異能を持つ奇形『超人(ファーブラー)』。


侍らせている女達のチョイスはイエスだね。


……それはいい。


だが、この人混みはいつになったら消えるんだ?


もう十分も待っているのに、パレードは通り過ぎない。


俺は人生と心に余裕を持った大人のナイスガイだが、他人が原因で待たされるのは大嫌いだ。しかも男となると許せん。


なので……。


「押し通るぞ、ザニー」


「ふぇ、あ?あああーーーっ!」


ザニーの腰を掴んで担ぎ、そのままパレードを横切ろうとした。


するとまあ、当然。


「何奴?!」


「貴様、我が主人のパレードを!」


兵士に囲まれ……って、兵士も全員女リカントと女ファーブラーかよ!


どうしよっかな、女を殴るのは少々申し訳ない。


……スルーしてジャンプで逃げるか。


「ホップ、ステップ、ジャンプ!」


かーるいす!


「逃げたぞ!追えーっ!」


はい、逃げた。

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