第34話 実は結構真面目に修行つけてやっておいたんだわ

ザニー。


身長135cm、体重は30kg程度。


顔つきは少々大人っぽいな。少なくとも、体格ほど幼くは見えない。


服装は、タンクトップ型の見せブラに、やたらと短いヘソ出し半袖ジャケット、そして男の子みたいな短パン。


鉄板入りのブーツを装備させ、頑丈な剣鉈と、腰に巻くタイプの小物入れを持たせている。


そんなこの子に俺が教えたのは、ごく初歩的な剣道と居合道、そして護身術。


それと……、実戦型の召喚術だ。


対するは大猿鬼。


言ってしまえばホブゴブリンのようなものだが、一般的なファンタジーのそれとは少し違って、猿やゴリラのように腕が長くて全身から毛が生えた、茶焦げた獣である。


こいつらは、木から作ったような棍棒や、石を持って投げつけてきたり、ともすればどこかで拾ってきた刃物を持っている。意外と馬鹿にならない相手だ、少なくとも「雑魚モンスター」なんかではない。


だって少なくとも、人間は猿より弱いからな。動物を舐めちゃいかんぞ、奴らはヒトなんぞよりよっぽど強靭で素早い。


……この世界の人間は、レベルの高低によってかなり戦闘能力に差が出るが、レベル1の一般人は地球人と大差ない力しか持っていない。


要するに、その辺の村の中に大猿鬼が出たら、割と結構な被害が出るぞ、ってこと。


ゴリラパワーと小学生並みの知能を持った猿とか、普通にヤバいだろ?そういうことだ。


さあ、そんなモンスターと、我が弟子はどう戦う?


「行くでやんす!」


おっ、剣鉈を構えたな。


特製の剣鉈は、小太刀のように反りがある。対バケモノ用に分厚く重いので、小太刀ではなく剣鉈と呼んでいるのだが、形状的には小太刀に近いと言えるだろう。


構えのスタイルは、半身になりつつも右手で剣鉈を正眼に構えて、左手は鞘に添えている小太刀術のオーソドックスなもの。


『グギャガギャ!』


そこに、身長170cmはあろうかというムキムキのゴリラ、大猿鬼は、その手に棍棒を持って殴りかかる!


「やあっ!」


それを、振り切る前に、力が乗り切る前に迎撃するような形で剣鉈を振るい、制止したザニーは……。


「くるりっ、と!」


『グガ?!』


剣鉈の「反り」を利用して、相手の棍棒を巻き取る。刀術でよく見る動きだな。俺が教えたんだが。


そして、無手になった大猿鬼の膝を斬り立てなくする。膝の皿を叩き斬ってやりゃあ、関節のある生き物は脚一本を無力化できるだろうからな。


ザニーの背の低さもあり、膝や膝裏を狙っていけと教えてある。


『ギャッ!』


そして、体勢を崩して片膝を突いた大猿鬼の首を……。


「えいっ!」


『ギッ……』


半ばまで断ち切る。


うん、上出来。


『ギャギギ!』


『グギャガギャア!』


おっ、今度は二体だ。どうする?


右手の剣鉈で、一体の鉈を受けて……。


左手では印を結んだな。


ああ、あれは召喚の印だ。


召喚術は、どうやら魔術とは異なり、呪文詠唱……「音」ではなく、文字やハンドサイン(印)などの「形」を重要なものとしている。


言葉で現象を起こすのではなく、文字や魔法陣、そしてこのような印を結ぶことで召喚術を発動できるのだ。


ぱ、ぱ、ぱっと。


結んだ印は「日輪」「独鈷」「大金剛」。


名前は九字切りのそれだが、片手でやる特別な印。


呼び出されるは火の精霊ザラマンデル。


しかし、「現象の概念そのもの」と言える精霊は、制御することは難しい。


故に、印による、「制御をしない召喚」……「簡易召喚」だ。


ほんの一瞬だけザラマンデルを喚び出し、「火を吹け」と命令を一つだけして、即座に送還。


これにより、応用力を犠牲にして完全に「術」として完成させた……。


『ゴアアアアッ?!!!』


業火に包まれた片方の大猿鬼は、己の肌を掻きむしって叫ぶ。焼け死ぬのは辛いぞ、肺に火が入って呼吸が苦痛となり、苦しみ抜いて死ぬのだから。


それと同時並行で、上から鉈を振り下ろしてきた大猿鬼の一撃を、剣鉈を翳して受けたザニーだが。


今度はその受けた剣鉈を、鉈の刃に擦り付けるようにしつつ思い切り間合いを詰めて、相手の鉈の鍔元に刃を持っていき、手首を斬りつける。


『ギャッ?!』


手首の内側、筋の部分を切断すれば、生物としての構造上手を握ることはできなくなる。


そうして武器を落とした大猿鬼の、喉を引っ掻くようにして斬り、呼吸を止めて仕留める。


うーん、上出来。


……いや?


だがまだ終わってないな。


どうやら、騒ぎと血の匂いを嗅ぎつけて、大型の魔物が出てきたようだ。


『シュロロロロ……!』


えーと、なんだったか?


センザンコウって知ってる?


ほら、要はアルマジロみたいなのだ。


……アレを、数倍くらいデカくしたバケモノだよ。


頭から尻尾の先まで3m強、細長い口から出る舌は弾丸のように素早く、鋭い爪と、生半可な矢玉を弾く甲殻を持つ獣。


名前は確か……、穿城鱗獣、だったか?


この辺りの平原でエンカウントするモンスターの中ではトップクラスに強い存在だ。


あらまあ、運がないねえ。


で、どうするのかな?


おっ、腰の物入れから……、巻物を取り出した。


巻物を開いて、召喚魔法陣の真ん中に血を垂らす……と。


「召喚、鵺!」


ほう。


なるほど、なるほど。


……式神か。


俺がいつも小間使いにしている精霊達は、アレは実は、人間に制御できるような代物ではないらしい。


火の精霊水の精霊などとは言うが、要するにアレは「根源」で、俺のイメージの器に注ぎ込まれた「原初」そのものだそうで。


人の身で根源を操るなんてそうそうできんと、何人もいる弟子(嫁)達はそう言っていた。


……であれば、自分でも制御可能な個体を指定して召喚すればいい。


並行世界、可能性の海の果て。那由多の彼方から取り出された理想的な魔獣個体。召喚術の原点は「自分が欲しいものを三千世界のどこかから参照して複製する」こと。


「自分で制御可能」な、「理想的な能力を持つ魔獣」の「注文書」がこの巻物。


これは最早、召喚獣ではなく、自身の欲する存在を長々と巻物一本分に書き込んでいる、言わばプログラム。


故にその名を、式(プログラム)の鬼神(妖怪変化)、「式神」とする……。


『キィェ⬛︎⬛︎ェエ⬛︎⬛︎⬛︎エ!!!!!』


式神、鵺は、悍ましい鳴き声をあげながら、鋭い虎の爪で穿城鱗獣の顔面を抉る。


『シュロロローーー!!!』


負けじと、穿城鱗獣も、弾丸の速さで細い筒状の口から舌を射出。


当たれば、その名の通り城壁すら貫くだろうその一撃を、鵺は獣らしい反射神経で横っ飛びになって避ける。


そして。


『キィッェ⬛︎エ⬛︎⬛︎ェッ!!!!』


口から稲妻を吐き出して、穿城鱗獣の神経を焼いた。


流石に、高圧電流に耐えられる肉体ではないようだな。


頑強な鱗も、電撃には無意味なのだ。


『ジュボ、ロロ、ロ……』


目鼻から赤黒い血の泡を噴き出し、失禁しながら倒れ伏した穿城鱗獣。


死んだ、か。


それを確認すると、ザニーは鵺を送還し、俺に褒めろと無言の圧をかけてくる。


まあうん、褒めるけどさ。




……冷静になって考えると、これ忍者では????

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