第5話 とても治安のいい街だな褒めてやろう

はい。


冒険者ギルドに来た。


伝聞や本での情報、入ってみた雰囲気だが、大体一言で表現できるな。


『公認ヤクザ』の一言で。


……いや、実際にそうなんだよ。


国家の公認があるヤクザなんだ、冒険者ギルドってのは。


或いは、『民営暴力装置』とでも言うべきか……。


まあ、まともな集団ではないな。


間違っても、ミニスカを履いた爆裂魔法使いの女の子がやっていけるような世界じゃない。


ワンチャン、島の戦記の美人金髪エルフがいる世界ですらないかもしれんくらいだ。


男は基本、世紀末格闘漫画に出てくる雑魚モヒカンのようなのばかり。見た目の印象はゴリラ、ブタ、ハイエナみたいな奴らで、動物園を見てるみたいだな。


女は、男と見分けがつかんゴリラ女か、半娼婦の薄汚い売女か、明らかに話しかけちゃならないようなヤバい奴か……ってくらいか。


ただ、男女比は思ったより女比率が高いように感じる。


その辺は、スキルやレベルがあるから、良くも悪くも性差が出づらいって話なんだろうな。


「んぉあー……?おい、にいちゃん!一杯奢ってくれや!」


「いやいや大変申し訳ないんだが、金は銅貨一枚も持ってないんだ。そもそも男に奢る趣味はないんで、奢って欲しけりゃいっぺん死んでおっぱいデカい美女になってから来てくれ。……いや?小さくても良いな。おっぱいもケツも小さくて、抱いたら折れてしまいそうな美女ってのも良くないか?」


「お、おう」


俺は、絡んでくる酔っぱらい冒険者をいなしつつ、カウンターに進む。


……俺は正常な感性を持つ真人間なので、酔って絡んできた程度の相手に危害なんて加えんのよね。


直接なんかして来たんなら話は別だが。


いや本当に、いちいち喧嘩買ってたら逃亡生活なんてできないからね。


あいつら、特にヨーロッパ圏だと、アジア人と見るや否や無限に見下してくるから。


ポリコレだのなんだのと言ってんのは結局ごく一部の金持ちだけで、大半のヨーロッパ人中東人アジア人と言うか全民族は自分達以外のことガンガン見下してくるよ。


酷い時には、「ヘイ、イエローモンキー!ここには猿の餌はないぞ!」と店を追い出されたこともある。まあそいつも半殺しにしてから川に叩き落として、んで指名手配喰らって、その国から出て行くことになったんだけど。どこだっけな、フランスだっけか?いや、イタリア?スペインかな?三カ国くらいでやったような……?


まあとにかく、俺は賢いので、余計な揉め事は起こさないのだ。


「失礼、ここが受付でよろしいですか?」


「はい、冒険者ギルド、ノースウッド支部の受付はここになります。ご依頼ですか?」


へえ?


ギルドの受付は、ちゃんとした身なり(この世界基準で)の女なんだな。


ギルド側のハニトラとかを仕掛ける為に、ちゃんとした身なりの女を雇ってるとかか?


いや、恐らくは、模範的市民とは何か?を無頼漢である冒険者に示しているのか。


……邪推はやめておこう。


それより、冒険者ギルドに入会だ。


「いやいや、卑賤な身分である俺を依頼を出す側だと思ってくださるような素晴らしい職務態度の受付さんの予想を裏切るようで大変心苦しく思うんだが……、ギルド員になりたいんですよ」


「登録ですか?でしたら、氏名を教えてください」


名前?


んん、どう名乗ろうかな……。


苗字はないのが普通らしいから、名前だけ言っておくか。


「堂眞です、よろしくお願いします」


「ドーマさん、と……。あ、登録料に三千ベル必要ですよ」


「あーあーあー、いや本当に申し訳ない。心からお詫びしたいのですが、実は今持ち合わせが全くありませんのでして。狼の毛皮、吸血蝙蝠の羽、草原蛇の牙辺りなら、この街に来る道中で狩ったので持っているんですが、これを渡すのでどうにかなりませんかね?」


「ん〜……、まあ、三種類もあれば、状態が悪くても三千ベルはいきますかね。とりあえず、仮にこちらの番号札を渡すので、お待ちください」


「番号札?」


「はい、そちらの番号は311と書かれています。呼ばれましたら、あちらの買取カウンターの方へお行きください。それまで、冒険者証の手続きはこちらでしておきます」


「ありがとうございます」




その辺の椅子に座って、俺は呼ばれるまで待つ。


すると……。


「おーおーおー、ハンサムなにいちゃんよぅ、金持ってねぇのか?」


と、ゴリラみたいなゴリラ達に絡まれた。


複数の男達だ。


なので、腰の革袋……この世界での一般的な財布であるそれを、開いて逆さに振る。


「チッ、マジで何も持ってねぇぞこいつ……」


「アホらし、やめだやめだ」


「あーあ、楽して小銭稼げると思ったんだがなあ」


すると、男達は去って行った。


流石に、ギルドの真ん中で身包みを剥ぐほどのヤバい奴はいないらしい。


いや実際、服とか刃物とか割と高値で売れるからな。


この世界の金銭感覚だと、まともな服一式を揃えると現代日本で言う乗用車並みの値段するんだよ。大体数百万円くらい?


中古でも何十万円で売れるってこと。


買う時も、平民層は基本的に古着だな。


だから、野盗とかは身包みを剥ぐんだが……、流石に冒険者ギルドのど真ん中で他人から身包みを剥ぐほどの奴はいないのか。


本当に金銭のカツアゲをちょっとされただけ、と。


治安良い(バックパッカー並の感想)な!




「311番ー!」


お、呼ばれた。


行くか。


買取カウンターには、獣にナイフを突き刺したマークと、袋に入った植物のマークがある。


冒険者は殆どが文盲だから、こうやって、絵看板で知らせているんだろうな。


ええと……、ここか。


「おう、来たか。じゃあ、売るもんを出せ」


黒髭に白い毛が混じり始めた程度の中年男が、そう言いながら髭を撫でた。


俺は、背嚢から狼の革などを出す。


「狼の毛皮、吸血蝙蝠の羽、草原蛇の牙……。ほう、状態がいいな、狩人の心得でもあるのか?……いや、この切り口は魔法か!術師たぁスゲエな」


慣れた手つきで革を広げ、裏地を撫で付け、ランプに透かしつつ、買取カウンターの中年男はそう言った。


「おらよ、報酬だ」


お、ここで直接出されるのか。


……いや、普通は受付カウンターの方で貰うっぽい?


何が違うんだろうか?


……その辺は良いや。


ええと、値段は……、銀貨三十六枚?三十六万ベル?多くね?


「失礼、ご老人。いや、ご老人は失礼か?では親しみを込めて受付さんと呼ぼうか。では受付さん、訊ねたいんだが、こんなに高く売れるものなのか、これらは?」


「狼の毛皮はあったけぇからな、高いんだよ。けど、今は春も終わりだから、需要がない。だが、とにかく鞣しの処理がいいので加点して……、色々加味してこんな値段なんだ、文句あるか?」


「いや、その辺の知識がないんで勉強になったよ、ありがとな。んじゃ、次は冬前に持ってくることにするわ、次もよろしく」


「ああ、そうしな」


よし。




じゃあ、受付カウンターで……。


「受付のお嬢さん。はい、こちら三千ベルになります」


「確かに受け取りました。では、手続きの方を進めさせていただきます。その上でいくつか質問に答えていただきますが、よろしいですか?」


「もちろん、よろしいですよ」


「ではまず、貴方のスキルを教えてください」


「『使役(テイム)』ですね」


そういうことになっている。


「……え?!し、使役獣はどこですか?!野放しにしたりしないでくださいよ?!」


「ここです」


俺は、指を弾いて、シルヴェストルを呼び出した。


「これは……、精霊……ですか?!エルフでもないのによくやりますねえ……。分かりました、では、『使役』で。年齢は?」


「十八です。若造ですよ」


「出身地は?」


「東の、ダルモアの孤児院ですが……、もう潰れてますね」


「ダルモア!遠くから来ましたねえ。では、これで最後です。貴方の『信条』は?」


「はて、信条とは?」


「はい。まあ、あまり深く考えずにお答えください。本人確認のための合言葉のようなものですから」


そうか、では……。


「『好きなように生きて、好きなように死ぬ』で」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る