第56話 勘違いするなよこの世界は俺が遊ぶためにあるんだ

俺は、目の前の日本人を見る。


黒髪黒目。


顔つきもアジア系。


この世界は人種的には白人系が基本で、黒髪だったとしても地中海系などが殆ど。アジア系はほぼいない。


何より目を引いたのは、この男の服装。


日本式のビジネススーツを着込んでいるのだ。ああ、過去のトラウマが……いや特にないが、激務のビジネスマン時代を思い出して、なんかこう若干嫌ですわね。


おまけに、喋る言葉も日本語だな。


この世界ではこの世界の言葉を、俺達は話せるように、転生の際に知識をインストールされたはずだが……、わざわざ誰にも通じない日本語を引っ張り出してきてそれで喋ってるっぽい。


確実に日本人だろう。


え?顔?


いや……、フツーなんじゃないの?


男の顔とかあんまり気にしたことないからな……。


まあ、不細工ならキモいなーとは思うけど、そういうレベルの手のつけようがない不細工ってそんな多くないだろ。


人間、骨格レベルで崩壊しているヤバめの不細工でもない限り、身繕いして髪を整え、肌を手入れして髭を剃るくらいしておけば、ある程度は見れる顔になるもんだ。男ならな。


よく変な「自称モテ男」みたいな奴らが筋トレして見た目に気を遣え!と偉そうに言うがこれはマジで、男はある程度、不快でない程度の容姿さえあれば大抵はなんとかなる。


大体にして地球の女は男の顔より財布の分厚さの方が重要視してくるからさ。顔とスタイルとトークのみでナンパするのって、そういう「自称モテ男」にすら無理だから……。いや、俺はできるけど。イケメンなので。


そんな感じの悲しい現実の話をすると、目の前の男も、日本における一般社会人レベルの整いっぷりなので、この世界の基準だと小綺麗でカッコよく見えるのかも?いや、知らんけど。


で……、えーと、何だっけ?


「『地球同盟』……?」


だっけか?


何言ってんだこいつ?


「はい、地球同盟です」


「はあ?ああ、あれか?宗教勧誘。おかっぱに眼鏡のおばさん二人組がぺっらい聖書もどきを持ってきてインターホンから毒電波流してくるやつでしょ?知ってる知ってる、俺は詳しいんだ」


「ふむ……、その物言い。やはり、日本人ですか」


ニヤリ、と笑う謎の男。


なんだそのツラ?確定でクリティカル攻撃でも出すつもりか?状態異常にするぞコラ。


「だったら何だ?アメリカ人が良かったとでも?ロシアか?フランスか?アジア人はポリコレ界のアウターカーストだもんな、ポリコレパワーが足りないってことか?じゃあ今から黒人のゲイのレズのトランスジェンダーになってやるよ、性自認は月で年齢はトランスエイジ赤ちゃんだ」


「いえ……、貴方はこれで救われました。もう、大丈夫ですからね!」


「……は?」


え?


マジで宗教勧誘なんですかこれ?


「酷いものでしょう?あの女神に、何も説明されず、チート能力だけを押し付けられて……、こんな最悪の世界に連れてこられて!」


あ、人の話を聞かなかったんだ、こいつ。


あの女神様、聞いたり相談したりしたらちゃんと答えてくれたんだがなあ。


日本人ってそういうとこあるよね。


人と話さないのよあいつらは、マジで。


コミュ障なのは構わないけど、それでこうやって生活に支障が出てるんだからざまあないぜ。


いやマジで、キモいわー。


「私達、地球同盟は、あの女神によってこの世界に連れてこられた転移者の集まりです。地球人同士、皆で助け合って暮らしています……」


はあ、そうですか……。


「先ほどから、私達は貴方を見ていました。貴方のチートは実に有用ですね」


「覗き見とは良い趣味だな、日本人の奥ゆかしい文化ってことか?分かるよ、俺もよく趣味で嫁の入浴シーン眺めてるもん。いつでも脱がせられるけれども、無防備なシーンを覗くのが楽しいんだよな」


「……分かってますよ。貴方も、この世界で辛い思いをしたのでしょう?同じ日本人の仲間の前で、そのような態度をしなくても良いのです」


辛い思い……?


いや……、特には……?


むしろ、結構楽しんでるけど……?


ワンチャン、地球よりも過ごしやすいまであるな。


だって地球では、未成年の良いとこのお嬢さんを何十人と集めてセックスパーティーなんかやった日には何らかの法に触れることはまず間違いないのだが、この世界では力さえあればそんなことをしても文句言われないんだもの。


嫌いな奴も堂々とぶち殺せるし、メスガキからババアまで幅広く侍らせられるし、王様の胃を破壊することもできるし、最高だよ。


めっちゃ楽だし、楽しいわ。


「さあ、私と共に行きましょう!」


パッと、吹雪が晴れる。


はえー、すっごい演出……。


こういう盛大な告白は断りにくいから、相手の迷惑になるし、あんまやらん方がええんやね。


ほぼ内定しているような仲なら良いんだろうけど、急に手の込んだ告白をするのは脅しみたいなもんだから良くないね。


成金とかが良くやりがちだけど、恋愛はお互いが楽しむ目的でやる協力プレイなのであって、相手を屈服させるPvPではないのだ。


つまり俺は、こういう断り辛い演出をしてくる奴、だいぶ嫌いだってことね。




俺は無理矢理街に連れ込まれて、弟子&護衛と共に街の案内をされた。


「どうですか?素晴らしいでしょう、この国は!」


んー、まあ、昭和くらい?


平成には達してねえくらいか。


「俺の空中都市の方が上だな」


「……ほう?あるのですか?上下水道に、農奴に、先進的な医療が?公衆衛生が?」


「空中都市にだってありますよ……。この都市とは比較にならないほどの高度なインフラがね……」


俺は、主人公ヅラをして言った。


ぶっちゃけ、ちょっと興味はあったのだ。


日本人転生者が集まって協力して、大きな国を作った!


それはいい。


中々面白そうでもある。


……だが、この程度だ。


全員、英雄クラスであるレベル50は超えているが、100の限界を突破している訳でもなく。


スキルレベルはまあ5以上だが10には達しておらず。


総じて、弱いものイジメだけをして強くなっている感じだ。


俺はそう言った。


「ははは、これはおかしなことを仰る。弱いものイジメを、貴方はしていないのですか?」


は?


何言ってんだこいつ……?


「弱いものイジメは最高に楽しいから定期的にやってるに決まってんだろ!ただ俺は、お前らみたいな自分を強いと思ってる奴がムカつくだけで……!」


え?俺?


俺は良いんだよ、この世界で一番強いだろうし。


「……は?」


「これは権利の侵害だろ!俺が俺の趣味でオレツエーしてチヤホヤされるのが当たり前だけどよ、なんでお前らは俺の世界で勝手にイジメとかやってる訳?何様のつもりだよ?」


俺?


俺は良いんだよ、神様だから。神様のつもりだから。


「……私達のリーダーと会いなさい。そうすれば、そのおかしな考えも変わるはずです」


ふむ……。


まあもう、ステルス召喚獣を配置しているからネタバレするんだけど、このリーダーって奴がレベル100あって、その側近が洗脳系のチート持ちらしいですね。


なんか洗脳するつもりらしい。


はえー、おもしれー。


おもしれえので敢えて行ってみようか。

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