第57話 最も邪悪な存在が敵だと燃えてくるね!

忘れている人達のためにあらすじを説明しよう。


まず俺は、世界で一番金持ちで強くてハンサムでセクシーで賢くて貴族で商人でナイスガイ。今は趣味で旅行中だった。


で……、なんか目的があったような気がするが、とりあえずスルーしてサブクエを拾いに行き、本筋を忘れたところだな。


それは仕方ない。


この世界はどうやら、治安と人心は後漢末期か南米かってレベルの終わりっぷりを華麗に見せつけてくださっていらっしゃるのだが……、その実、洋ゲー的謎クエストがよく生えなさる。


いや……、現実世界だって、探せばいくらでもクエストなんて生えてるんだよな。


神室町は確かにフィクションだが、人と関わっていればそれに近い人生にはなるはず。


ヤクザと殴り合ったり、銃撃戦に発展したり、女の子に囲まれたり、ドラム缶に詰められて沈められそうになったり、海外逃亡したり、何人か殺したり……、普通に生きていればなるんだよそんなのは。


家に籠るだけでクエストが生えますか?アナタ?


籠るだけでは何ができる?と、俺はいじけるお前に教えてやっているんだよ。愛と勇気は言葉だが、感じられれば力になるって訳だね。


「そういう訳だ。分かるか?」


そんな話を、俺は、目の前の若い男の前で言った。


男。


二人いるな。


洗脳能力を持った、黒髪の男。なんかこう……、目を合わせるとオレンジの件について告発されそうな感じはする。


いやそいつはイギリス人なのでは?という感覚はまあもちろん分かるが、こう……、なんか……、雰囲気が?


つまりはイケメンなんだが、所作の方がイケメンではないので、多分神に強請って無理矢理イケメンにしてもらったんだなーと。そんなことが窺えてしまって悲しいね。


あの神、チート以外にも言語理解と読み書き能力にプラスして、健康維持能力もくれたし、更に俺なんて若返りもできちゃったからな。ついでにイケメンにしてくれ!って頼んだら通りそうってのは分かる。


けどイケメンってのは人にしてもらうもんじゃなく、自分でなるもんだからね。なんていうか、魂がイケメンじゃない奴は、外見だけイケメンにしても無駄だよ。


ブスは整形してもブスってことだな。ブスなんだから整形するならイケメンじゃなくて仮面のライダーになった方が火力高まってアドなんじゃない?


まあ、俺は転生してもしなくてもイケメンだから、ブサイクの気持ちは分からんわ。


で、リーダー。


こちらも男。


だが、なんかこう……、のっぺり黒髪ナヨナヨなで肩チビガリ坊やって感じ?主体性が無さそうで、「俺またなんかやっちゃいました?」とか言いそうな、なろう主人公のイヤな部分煮詰めた奴みたいな感じがするな。


「え、えっと……、はじめまして。僕は斎藤悠太って言います。『地球同盟』の……、盟主、なのかな?一応?そんな感じです、はい」


「で?」


「ぼ、僕達は、運悪くこの世界に転移してしまった人達を保護してて……、それで、みんなで頑張って、街を作ったんです」


「で?」


「その、貴方も、もし良ければ……、ここで生活しませんか?」


「で?」


「え、えーっと……」


ふむ、分かってきたぞ。


このリーダーのつまらん男。


こいつに「悪意」はない。


下っ端共は、この世界のことを見下して、この世界の人間を虐待することで、前世今世含めての辛い人生という名のチンチンを慰めるオカズにしているが……。


こいつには、そんな意思はない。


本当に、人助けしようと思っているし、しているのだろう……。


「あ、そうだ。貴方の名前は?」


「貴様らに名乗る名は無い」


俺は、クロノス星のロボット生命体共が大逆襲してきそうなテンションで言葉を返す。


「え?!えーっと……、嫌われちゃったかな……?どうしよう、宗馬さん?」


宗馬と呼ばれたのが、隣の洗脳男だな。


「大丈夫だ、悠太。俺が『説得』する。……さあ、俺の目を見ろ」




瞬間、俺は、この洗脳男の頭を殴って叩き潰した。




「……え?……は?」


困惑する悠太くん。


「失礼、ムカついたんで殺したわ。許してくれ、日本人同士仲良くしよう。人類皆トモダチ」


「な、にを……?!」


んっんー……。


「お前はまあ、アレだな。『自分を悪だと思っていない悪』……、最もドス黒い悪だな。同じ悪党として憧れるよ、参考までに聞きたいが今までどうやって生きてきたんだ?」


「お、お前っ……!よくも、僕の仲間を!仲間を傷つける奴は、絶対に許さないっ!!!」


と、剣を抜いて斬りかかってくる悠太くん。


流石レベル100だな、かなり速い。


でもそんなんじゃこの俺には全然全く届かないんだよね。


俺は刀を抜き……、振り下ろす!


「ご主人様!危ないっ!」


ん?


おお、いきなり天井裏から降ってきた女リカントが、身を挺して悠太くんを守ったぞ。


女リカントは代わりに、俺の一撃を受けて袈裟斬りに両断されたが。


「リカ?!そんなっ……!」


あーはいはい、御涙頂戴。


めんどくさいから会話イベントスキップするね!


さあ死ね、もう一撃……。


……っと?


「逃げてください!悠太さん!貴方は我々の希望なのです!」


最初に会った男が現れて、俺に組みついてきた。


……あー、段々分かってきたなこれ。


「異能生存体……いや違うな、もっと悍ましい。お前のチート能力、それは、言うなれば……」


「ぎゃああああっ!!!」


足止めしてきた男を斬り殺し、俺が刀から血を振り落とした頃には……。


「悠太さんを守れ!」


「悠太お兄ちゃんは私が守る!」


「悠太!オレがついてるぜ!」


有象無象がゾロゾロと。


まるで、悠太くんを守るように、「世界そのものが動いている」みたいだ……。


ああ、そう、つまり……。




———「『主人公補正』、と言ったところか」

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