第58話 日本人がナーロッパで「普通の暮らし」とか舐め過ぎでは?

漫画の受け売りとかではなく、本当にドス黒い真の悪とは、自分が悪いことをしているという自覚のない「善意の悪」である。


いや、独善と言うべきか?


分かりやすいように現実世界の出来事で喩えよう。


例えば、反ワクチンの非科学的思想を持った親。


ワクチンは毒だと言い張って、我が子にワクチンを打たない。


これで子供は、現代では罹ることが考えられないような病気になって苦しみ、親を、世界を、恨んで恨んで恨み抜いて死ぬ。


例えば、カルト宗教の信者。


クソ以下のしょうもない思想に傾倒し、自分家族友人の財産や、時には命や貞操すらも売り渡す。


本人はそれで幸福になれると信じているが、実際のところ、そいつに微笑む神は周りに苦痛と貧困を齎らす最悪の疫病神である。


例えば、日本のような平和な国における、革命主義者。カルト的な自然保護活動家や動物愛護団体などの利権団体。


平和な国で政変だの革命だのを唱えて、周りの人間の足を引っ張り、デモやら何やらで周りの人間に迷惑をかける。


有名な絵画や歴史的遺産を汚したり、車の前に立ち道を塞ぐ。ちと古いがゲバ棒振り回したり真面目に働く警察に火炎瓶投げつけたりな。


本人は大層なお題目を掲げてはいるが実現性はなく、今あるもの、堅苦しい制限の中精一杯やっている人々に唾を吐く。


他者が「こうすればいいのに」と思う時、そこにはできない理由がある。チートの先輩の言葉が身に沁みるわぁ。


その通りで、政治問題だの環境保護だの動物愛護だの、人も企業も可能な限りやってんだわ。その上でうまく行ってねーの。


最適解をお届けするようなディスティニーなプランには反対する癖に、社会や企業は常に最適解以上を出さないと許さない!とか、サイコパスを超えたサイコパスだろ。ムラサメ研究所の四番目の女くらいのレベルで狂ってるぞ。いや、ロザミアの方か?


あー……、理解できるだろうか?


悪いことをやっているという自覚のない悪党は一番邪悪……、いや、こう言い換えられるな。


「そう、一番……、『ムカつく』んだよ。死んでほしいんだ、お前らみたいなのには」


「僕は、僕達は悪いことなんてしてないっ!!!」


悠太くんが叫ぶ。


勇ましいね、そこもまた癪に障る。因みに、俺の癪はピンク色で自由自在に伸縮し、おまけに喋るホタルもついてくる。


「お前が、お前の手下共が何をやっているのか知らないとか、そういうアリバイの話はどうでもいい。だが、知っていたとしても、知らなくても、どの道お前は悪党だろうが」


「ふざけるなっ!僕は、僕は……!」


「何だ?遅れた文明の末法中世ナーロッパに来て、先進的な日本の道徳観やら技術やらを押し付けて、偉くなったつもりだったのか?それならすまない申し訳ない、一つだけ言いたいことがあるんです、あなたはクソだ」


「そんなつもりは……!ただ僕は、みんなが豊かに暮らせればと!」


「豊かに?この土地の風土に合わない農業や酪農を、チート能力とやらで無理矢理歪めて定着させていることがか?それとも、中途半端な電化が?」


「環境汚染には気を遣っている!」


「そうじゃねえよ。この世界にはこの世界の進歩が、進み方ってもんがある。それを外から来た人間が無理矢理押し付けるのキモいじゃん。現地民ぶっ殺して西洋の『先進的』な文化をお伝えしたコンキスタドールやブリテンと何が違うん?」


「ひ、人助けをした!たくさんの人を!」


「あー?ハメ穴女が欲しかっただけだろうがよ。分かるよ分かる分かる、この世界は貧しいもんなぁ?ちょっと美味い飯と金銀財宝をちらつかせりゃあ、女共は股開いて媚びる!気持ちいいよなあ?二重の意味で」


「そ、そんなんじゃない!僕は、ただみんなを守りたくて!普通に暮らしたいだけで……!」


「女神も言っていたが、三千世界でトップクラスに裕福な地球日本での暮らしをしたいって?この、クソみたいに貧しくて、治安もクソない世界で?」


「そ、それはっ……!」


「普通に暮らしたい?なら、毎日休む間なく働いて、田畑を耕し、何にも楽しいこと面白いことを知らずに一生を終えればいい。この世界の普通の人はそうやってるぞ?だがそうしない、何故か?」


俺は、無駄にカッコつけてレスバ・パワーをチャージした。


機動戦士ロボットアニメでそうしろと学んだから、俺はレスバ強者なのだ。なーに、負けそうになれば「それでも守りたい世界があるんだ!」と強弁して物理で勝てばいい。


「……何故か?それは簡単、『その方が気持ちいい』から、だ」


「そ、れは……」


「いや、分かるとも。俺も同感だ。この世界の馬鹿共と言ったら、チートなしでも潰すのは簡単で、法律も大したもんじゃねえからやりたい放題できるもんな?金、女、地位!欲しいものは何でも手に入り、強大な力で気に食わねー奴を虐め殺せる!最高だよな!」


「ち、違う、違う!僕は、僕はそんなんじゃ……!」


「違わないね!人間は大好きなんだよ、そう言うのが本能的にな。……まあ、『どうせ転移する前はいじめられっ子だったんだろ!』とか『モテなかったんだろ!』とか邪推はしないであげるけども、日本じゃできねえアクティビティだもんな?金暴力SEXに好きなだけ浸るのは」


「ぁ……」


「俺もお前も同じ穴の狢、人殺して、血に塗れた手で女を抱く異常者だろうが。何を正義の味方ヅラしとるんじゃ猿ゥ!」


まあ異常者ではないと個人的には思うんだけどね。


だってさっきも言ったけど、人間誰しも、気に食わん奴を虐め殺して、女を侍らせて美味いもの食うの、楽しいじゃん?


欲望に忠実なだけで、異常ではないんじゃない?


大体にして、それがこの世界は合法で、気を抜いたら俺もそれをやられる側に回る可能性だってあるんだから。


いつ自分が、身内が復讐されてぶっ殺されるか?そのリスクを許容した上で暴虐やってんだから色々とイーブンだろ。別におかしくねーよ。


……けど、レスバで勝って気持ちよくなりたいので、とにかく瞬間最大風速の詭弁とお気持ちを叩きつけてやった。


やりたいことやったもん勝ちなんだよね!青春なので。


さて、悠太くんはどう出るかなー?


「違う……、違う、違う、違う、違うゥ!!!!ああああああああああ!スキル発動、『運命(フェイト)』!!!!」


あらまあ、逆上。


ん?これ逆上なのか?


俺が言ってるのは正論に見せかけた詭弁なので、逆ギレも何もキレて当然なのでは?という疑惑があるようなないような……?


まあいいや、気持ちがいいのでこのまま殴ろう!

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