第59話 ラッキークッキー狂気

あー……。


うん。


完全に分かったわ、こいつのスキル。


大体アレだ、とっても!ラッキーな感じの人……。


「うわあああああっ!!!死ねええええええ!!!」


「おっと、危ねぇ」


不自然な風向きの変化。


小さな旋風が砂を運んで俺の顔に。


足元に小さな書類。踏んで滑る。


ちらつく太陽、目が眩む。


逆に俺の攻撃は……。


「ほりゃ」


「悠太っ!」


仲間という名の肉盾がライフで受けるか。


「あ、うわっ?!」


たまたま躓いて、運良く斬撃を回避。


あーーー……。


「お前ウゼェなあ……?!」


「黙れェ!!!」


「え、何?ウザいって言われた経験が多い方?やっぱり地球では……。あ、いや、地球の頃の話は邪推しないって話だったもんな。いじめられっ子が運良く手に入れたチートで調子乗ってて草!とかは言っちゃダメなんだよな、すまんすまんまん」


「ッ……?!うるさいっ!僕は、僕は!」


「え?何?俺、悪党の言い訳タイムとか大好きだから、一通り聞いてからぶっ殺すようにしてるんだよね。言いたいことがあるならなんかゆって」


「僕は!みんなを守りたくて!」


「あ、ごめん。やっぱいいわ。ここでオモシロ悪党なら愉快な長文スピーチで上手い具合にこちらの気を引いてくれるからグッドなんですけど、お前のそれは壊れたラジオみたいに同じこと言うだけで何のエンターテイメント性もないよ。おもんな!死ねば?」


「うわああああああ!!!!」


うわ発狂した。


「異世界なんて気持ちよくオナニーするだけの道具だろ?なにムキになってんだ?」


「違う違う違う違うううう!!!」


「話がループしているが、お前もそう思ってるから俺と同じようなことしてんだろ。そういう自覚がないところが一番イラつくって言ってんの!分かる?」


俺がそうやって嬲り殺しにしていると……。


「だめーっ!!!」


いきなり、ガキが割り込んできた。


五歳くらいか?


女の子だね、かわいいね〜。


「リリア?!ダメだ!出てきちゃいけないッ!!!」


「そ、そこの、わるいおっさん!」


……んー?


「俺、おっさんなの?お兄さんじゃない?」


「うるさい!ユウタをいじめるナ"っ……?!!?!?!」


舐めたこと抜かしたんで、蹴り殺した。


仕方ないね。


「な、んで……?なんで、なんで!何でだあああ!!!リリアはまだ、五歳だったんだぞ?!お前、お前はぁっ!!!」


「このガキが死んだのもお前のせいだろ」


「お前が殺したんだろ!!!!」


あー……。


もうなんか、飽きてきたな。


話が通じないわ、マジで。


「何回言わせんの?頭脳がまぬけとかそういうレベルじゃないよねこれ。もう一回言うぞ、お前が悪い」


「お前、お前!お前がぁ!!!」


「お前の『教育が』悪い」


「……ぁ?」


さっきも言ったけどさあ……。


「この世界のガキは、躾と称して親から殴られて、下の歳の弟妹の子守りをやらされて育つ。褒められることなどまずなく、親の財産として扱われ……、半分は大人になる前に、飢えや病気で苦しんで死ぬ」


そうなんだよね。


中世暗黒期プラス、モンスターが湧いて出る世界だぞ?


子供の命に価値なんてねえよ。


「……で、大人になれても、次男三男は水飲み百姓として兄に一生こき使われて奴隷扱い。もしくは、飢饉でもありゃ売られて奴隷落ち。それが、この世界の平均的な子供だよ」


「じゃあ……、じゃあどうしろって言うんだ?!その、『この世界の普通の子供』になるように、リリアを虐待しろとでも言うのかあっ?!!!」


「虐待って認識がまずイカれてんだよ。それが、この世界の子育てなんだわ」


即ち……。


「圧倒的強者には媚び諂い、危険からは逃げるか耐えるかして、自分の権利などこれっぽっちも振り翳さない……。それが、この世界の平均であり、正しい生き方だ」


「そんな、そんなのは……、間違っている!!!」


「うん、そうだろ?俺もそう思う」


「………………は?」


「で、世界に逆らうんだろ?常識に喧嘩を売るんだろ?……そんな悪党が、なんでまともに生きられると思うんだ?」


「あ、あ、あ……、あー!あーーーーー!」


俺は、ガキの死骸を指で摘む。


「これなあ、相当に猫可愛がりしたろ?そのせいで、自分に価値があると、殺されないと、皆が優しくしてくれると勘違いしちまったんだ。お前は単に、ペットを飼ってるつもりだったのにな?」


「違う、違う、違う!やめろ、違う、やめろおおおお!!!」


「違わないだろ?お前、本気で子育てやったのか?オシメは替えてやったか?ミルクは温めたか?夜泣きに対応したか?してないだろうが。所詮お前は、子供の可愛らしい部分のみを見て、都合がよく捉えて、そこだけを愛したんだ。いや、愛したフリをした。その方が気持ちいいもんな?」


「違う、違う……!もう、もうやめてくれ……!」


「こんな役立たずで生意気で礼儀がなってないクソガキを飼ってたのは……、アレでしょ?体格的にお前がどんなに粗チンでも、このレベルのガキには挿れらんないもん、『妹』とか言ってたんでしょ?将来的に洗脳教育でハメ穴女ハーレムの一員にしようってんだろ?俺もやってるから分かる分かる」


「やめろ……、やめろ……!」


「加えて言えば、子育ては施政者の仕事じゃない。この世界の施政者、君主たるものは、他者から恐れられてナンボだ。時には手を汚し、他者から奪う必要もある。お前はそういう後ろ暗い部分を全部外注してんだろ?クソにも程がある」


「あ、あ……」


息も絶え絶えな悠太くん。


辺りを見れば死屍累々。


もう、肉盾になってくれる「仲間」もいないねえ?


「自覚しろ。クズなんだよ、俺もお前も。だが、自覚がある分、俺の方がまだマシだ」


心が折れたらしく、悠太くんは剣を手放した。


んー……。


なんか、思ったより面白くなかったな。


確かに、嬲り殺しモードとは言え、俺相手に十分は保たせたのは、本当に凄い。賞賛に値する。


今の俺は、ドラゴンを五秒で畳めるからな。物理的に。


そんな俺に対して十分はマジで凄いよ。


けどさあ……。


「夢遊病患者と戦っても、面白くないんだよねー……」


現実感がない奴、ってのかな?


この世界を、悪い意味で現実だと思ってない奴。


なまじ、強力なチートで全てがうまくいっていたからって、舐めていた奴。


そんなつまらん男を殺しても、「面白くない」な……。


……よし!




「召喚、生命の精霊フェニックス……!」

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