第55話 吹雪の国『フソウ』
最も恵まれた世界の一つ、二十一世紀の地球、日本。
様々な世界があるが、その中でもここは、トップクラスに豊かで平和なところだった。
現存しているありとあらゆる世界の平均的な文化力文明力を持つ世界が、ドーマ達が送られたあのファンタジー世界であるので、相対的に見れば日本なんて天国と言って良い有様。
何せ日本では、基本的には、飢えずに成長して、病気になっても治してもらえて、好きなことを学びつつ大人になれて……。努力量による差はあれども、好きな仕事をして、自己実現を可能とするからだ。
少なくとも、不作で飢え、子供の頃から親に殴られつつ働き、何も学べずに育ち……、結婚相手すら親の都合で決められて、怪我や病気であっさり死んでゆく世界と比べれば……、日本は本当に天国そのものである。
「はあ、はあ……!あ、ありがとうございます!助かりました!」
「いえいえ!同じ日本人の仲間じゃないですか!」
『転移(ワープ)』のスキルを持った奴隷少年が、ビジネススーツを着た女性に助けられていた。
この少年は、ドーマと同じタイミングで転移してきた、日本人転移者の一人である。
『転移』スキルを転生時に女神から受け取った少年は、スキルレベルやレベルについての知識を持たず、鍛えることを怠り、人攫いに捕まって売られて……。
今はこの鉱山で、奴隷として酷使されていた。
少年は人生に絶望し、世界の全てを恨みつつ、鉱山主や他の奴隷に虐められる日々が続き……。
今日、遂に過労で死ぬ。
……というところで、いきなり、ビジネススーツを着たボブカットの女性が現れて、マシンガンを構え、射撃した。
「はあ、はあ……」「ぐふっ……」「血、血が、止まらねえ……!」
そのマシンガンは、地球で言うところのウージー短機関銃……。
ファンタジー世界にはまずあり得ない、科学による産物。
それを二丁持って構えたスーツの女が、他の奴隷も鉱山主も皆殺しにしたのだ。
当然、少年は驚いたが、その女の言葉を聞いて、安堵した。
———「私達は、『地球同盟』です!日本人の仲間を、救いに来ました!」
そう、地球同盟。
この世界に送り込まれた日本人の転生者は、実は、ドーマ達三、四十人程度ではないのだ。
前の世代、前の前の世代……と、少なくとも五百人は超えるほどには転移者がいた……。
そんな、前の転移者が、この女なのである。
「私達、地球同盟は、同じ日本人地球人同士で助け合うための組織なの。貴方みたいな有用なチート能力持ちには、是非仲間になってほしいな!」
「な、なるっ!俺も仲間に入れてくれ!」
……日本人も、全員が完全な無能という訳ではない。
こんな世界でも、何とか上手くやった者は何人かいるし……、最初に選んだチートスキルが当たりだった場合もある。
そんな者達が集まってできた互助組織が、『地球同盟』なのだった。
だが……。
「辛かったでしょう……!この世界の下等な人間達に虐げられて!」
少年が回復ポーションをしゃぶるようにして飲むのを眺めながら、スーツの女はニヤリと微笑む。
「あ、ああ……!そうなんだ!あいつら、俺のことを……!」
「この世界の人間は、日本人とは違って碌な教育を受けていないクズです。非人間なんですよ!」
「ああ、話が通じないやつばかりだ!」
「……大体にして、おかしいじゃないですか?異世界ですよ?異世界チートができないなんて、世の中の方がおかしいでしょ?」
「そうだ!普通、異世界に来たんなら、チートでもっと……、尊重されるべきだろう?!ハーレム……とまでは……言わないけど!もっと、人間らしい生活をするのが『当然』だ!!!」
「そう!そうなんですよ!……だから私達と一緒に、この世界を『導く』んです!」
だが、地球同盟がまともとは、誰も言っていない。
「え、導くって……?」
困惑する少年にキラキラした瞳をしたスーツの女が語りかける。
「いいですか?この世界は間違っているんです。本当なら、私達のような優れた人間は、尊重されて尊敬されなきゃおかしいんですよ。でも、そうなっていない……。それは、この世界の人間達が愚かだからです!」
「た、確かに……!」
「そんな愚かな奴らに、私達が教育をして、私達をトップとした世界を作っていく……!これが、自然な形というものでしょう!」
「そうだ!チート持ちが頂点の国を作るのは、当たり前だ!」
「それに、このことはこの世界の歴史にも証明されています!この世界にある多くの国は、私達のようなチート能力者が作ったパターンが多いんですよ!だから私達の行いは、先進的な民族としての、聖なる行い、義務なんです!!!」
「その通りだ!俺達の国を、国を作るんだ!」
「フフフ……、では、行きましょう!地球同盟の本部……、吹雪の国『フソウ』へ!」
吹雪の国、フソウ。
氷の属性を持つボスモンスターが存在しており、国の外周を強力な吹雪で覆っている雪国。
しかし国の中心部は、別のボスモンスターにより春模様であった。
複数のボスモンスターが同一箇所に存在しているのは、『支配(ギアス)』のチートを持つ日本人の力によるもの。
国の位置的には、学術都市バレアの隣にあることになっているが、その吹雪によって立ち入る者は殆どいない……。
そんな陸の孤島で、日本人達は生活しているのだ。
ここで、自分達にとって都合のいい国を作り、暴虐の限りを尽くしていた……。
「この貴族の娘は可愛いな。捕まえて『教育』して、俺のハーレムに加えていいか?」
「だったらこっちの護衛の騎士は俺にくれよ。『教育』すれば、仕えるべき主人は俺だって分かるだろうし」
「この子可愛い〜!私の執事にしよーっと!」
それは、この世界の人間に対する、復讐を兼ねてもいた。
この世界の美しい異性を洗脳して跪かせて、性的に搾取し、自身を賛美させる。
「おらっ!働けっ!」
「俺達の糧になれて光栄だろ?」
「俺達は、やがてこの世界を支配するエリートなんだぞ?お前らみたいな異世界人は、俺達に従うのが正解だ」
容姿が醜いものは、隷属させられて、農業や鉱業などに従事させられ、死ぬまで働かされる。
ここにいるのは……、日本人ではなく。
邪悪なる侵略者であった……。
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