第48話 歩いている死骸
一年の航海。
ここに来るまで色々あったな……。
まず砂蛇虫の大群に襲われたが、まあ俺は強いので問題なかった。
砂吐獣や砂鬼などのヤバいモンスターの襲撃も乗り越え、砂嵐や高熱領域も突破した。
その際に、死にかけた船員の子が怯えて、俺に縋り付いてきたりしたものだ。
……船旅は長く、孤独で、過酷だった。
ガラシャとメンシアも含め、船員達の精神と肉体は、辛い旅路によって容易く追い詰められた……。
なので、これ幸いと俺は、弱みにつけ込むようにスーパーダーリンを演じてやった。
死にかけた船員をかいがいしく治療し、介護して、慰めた。
寂しがる船員を抱きしめながら隣で寝てやった。
船員達の気晴らしにと、ホームシアターで映画を見せてやった。
言っちゃ悪いが、メンシアはともかく、ガラシャと船員の女達はまともな出自じゃない。
他人の優しさや温もりに飢えていた彼女達は、徐々に俺に情愛を向け……、「身持ちを崩す」という言葉が似合うような、ダメなタイプの依存を深めていった……。
やったぜ。
そして、だ。
「な、何だありゃあ……?」
「ん、三角」
「うおー!デカい三角でやんすー!」
「おお、『ピラミッド』か」
古代の秘宝、その在処を突き止めた……。
黄金のピラミッド。
馬鹿みたいにデカいそれは、目測でもギザにあるそれがオモチャに見えるくらいの……、人類に作れるようなサイズ感ではないものだった。
そもそも素材は何だよ?自重で潰れないかその馬鹿みたいなデカさだと。
超時空の要塞くらいあるんじゃねーの?デカ過ぎるわマジで。
あれだと、てっぺんには酸素ないんじゃね?
……まあいいや。
とにかく、この、鍵。
俺は懐から、コレオ王子から受け取った秘宝の鍵を取り出す。
鍵は、手のひらサイズの円盤で、オレンジ色のエネルギーラインが走る幾何学模様のDISCだった。
そのオレンジが、燐光……、鮮烈な光を発する。
「うお、ピカピカしやがる。いかにも、『ここがゴールですよ!』と言わんばかりだな」
どうやら正解らしい。
よし、探索してみよう。
船員達を船で待機させて……。
「やだ、行かないで旦那!」
「旦那と一緒に行くよ!」
「アンタを死なせるもんか!あたしも行く!」
「最悪、私が盾になるからね!」
……全員ついてきたな。
ちょっと依存させ過ぎたか?
まあいい、とにかく進もう。
黄金のピラミッドだが、近寄ろうと船で接舷したら、ピラミッドの1キロ前位で船底に何かがぶつかった。
どうやら、ピラミッドを囲むように陸地があるようで、砂の上しか走れない砂走船はここで降りて、ピラミッドまで歩くことにする。
見ると、石造りの廃墟が広がっているが……、砂塵による風化で、建物の原型はもう分からない。何だったんだろうな、ここは?
サーベルやハンドアックスを抜き放ち、片手で持って腰を落としながら、周囲を睨みつける船員達。
まあ、うん。
明らかに嫌な予感がするもんなあ……。
この世界では「魔力」という不思議パワーもあるし、レベルが上がることで魔力が高まり身体機能が高まるのは周知の事実。
で、ある程度戦い慣れている戦士は、相手や周囲の魔力を感じ取り、「こいつには勝てそうもない」とか「なんか嫌な予感がする」とか、そういうことを察せるのだ。
故に、ここにいる船員達は、この場の嫌な空気を感じ取り、ビンビンに警戒している訳だな。
こういう時は大抵……。
『オゴアァ……!』『ヴヴー……!』『フシャア……!』
「ほら出た」
「「「「うわああああ?!!!」」」」
出るよね、こういうホラーなの。
砂塵が舞い、足元が見えないこのピラミッド前陸地。
その足元から、ボロ切れを纏ったミイラのようなものが立ち上がる。
デッドがウォーキングしているな、怖い怖い。
船員達は、巨大モンスターには耐性があるが、こういうゾンビっぽいのを見るのは初めてらしく、かなりビビり散らしている。
「狼狽えるな!たいして強くないぞこいつら!」
俺は叫んで鼓舞しつつ、軍刀を抜き打ちして一体のミイラを斬り伏せる。
「旦那に続けーーーっ!!!」
「「「「お、おおっ!!!」」」」
ガラシャの号令と共に、船員達は武器を振り回す。
しかし、相手の数が多い。
百や二百じゃきかないぞこれは。
一旦退却するか……。
「火の魔法で吹き飛ばす!退がって!」
メンシアが炎を撒き散らして、その隙に手近な建物に逃げ込んだ……。
「あの、ついてこなくていいよ?俺一人でなんとかできるし……。いや、本当に」
「そりゃわかってるけど……!でも、心配なんだよ!」
「ん、それに、船員達を船に残しておくのも危険」
うーん、まあ、俺が強過ぎるから、足手纏いがいるくらいの方がやりごたえがあっていいかもしれない。
俺は軽く飯を出して食わせて、言った。
「一時間休憩、その後に全速力でピラミッド……あの三角を目指す!」
「「「「おおーっ!!!」」」」
いや、真面目な話、そうしないと詰むのだ。
もう既に、大量に湧いて出たミイラマンの群れに退路を塞がれており、戻ることはできないからな。
ここで籠城してもいいが、船員達がストレスで発狂してしまうだろうし、とっとと突っ込んで終わらせよう。
無論、能力をフル活用すれば、次の瞬間にでも即座に終わらせられるんだが……、やっぱりそれは面白くない。
あくまでも、一冒険者として、攻略させてもらう。
さあ、そろそろ行くか……。
「行くぞ!」
「「「「おーっ!!!」」」」
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