第17話 その頃の異世界転生者達

一方その頃、他の転移者達は……。


「くそっ、何で僕がこんなことを……!」


「おいっ、奴隷!サボってんじゃねえぞ!」


「ひいっ!」


鞭で打たれながら、石切場でクズ石を運ぶのは、日本人の少年だった。


「僕には、『転移(ワープ)』の力があるのに……!何でこの力は全然使えないんだよ……!」


そう、この世界への転移の際にワープのチートを望んだ少年である。


「何でチートを使っても、ほんの100メートルくらいしか移動できないんだよ!そんなの聞いてない……、詐欺だ!」


この少年は、ワープのスキルを何度か使ったが、ほんの一度使っただけで意識が遠くなり倒れた。魔力量が足りないからだ。


そこを捕まって、奴隷商人に売られたのだ。


「無敵のチートなんじゃないのかよ?!クソ、クソぉ……!」


ワープのスキルはもちろん、無敵のスキルである。


……スキルを鍛えてレベルを上げれば、という但し書きがつくが。


「もういやだ!こんなの!日本に帰りたい……!」




「私の人生、どうしてこんなことに……」


中年の男が、牢屋で泣いていた。


「知らなかった……、塩が国家の専売だなんて!言ってくれればすぐやめたのに!」


男は、『創造(クリエイション)』のチートスキルを持って転移した者だ。


創造のスキルは、構造を知っているものを魔力を消費して生成する、というもの。


この中年男は、流石に、科学技術の結晶たるパソコンなどは無理でも、塩や砂糖などの単純な構成のものや、ちょっとした金属のインゴット程度は生成できていた。


その量も、日に樽一つ分程度と、割りかし多かった。


一年かけてスキルレベルを上げて、樽二つ分まで生成量を増やすなどもした。


そして、商人として、そこそこ以上に稼いでいた……。


だが、それも、横暴な貴族に捕まってしまう結果に終わる。


塩は国家の専売、その塩を売っていたという罪で告発され、牢獄送りに。


牢獄では、無理矢理にスキルの内容を聞き出され、そして有用だと見做されると、「貴族の為にスキルを一生使い続けろ」と監禁された……。


「出してくれ!一生このままなんて……、嫌だ!」




「はあ、はあ……。薬草採取してきました……」


「はい、ではこちら報酬です」


「これっぽっち……?」


「…‥何か?冒険者ギルド規定の金額ですが」


「い、いえ!何でもありません……!」


この少女は、『鑑定(ディテクト)』のチートスキルを持って転移してきた学生だった。


鑑定スキルは、消耗も少なく、敵意の有無や有用さなど幅広い事柄が分かる便利なスキルだった。


それを利用して彼女は様々な情報を得て、あらゆる危険から逃げながら、とある街で生活をしていた……。


「……というより、討伐の方はまだなさらないのですか?依頼達成数は充分ですし、金額もまあそこそこ稼がれていらっしゃいますが、討伐ができない冒険者に『銅盾位』を任命することはできませんよ?」


「す、すみません、私、戦うのとかは……」


「……はあ、まあ、ご勝手になさってください」


呆れる冒険者ギルドの受付嬢に曖昧な笑みを返して、逃げるように帰った少女は、冒険者が泊まるには些か高価な、それでいて地球のホテルにはあらゆる面で届かない宿に戻り、一人で泣いた。


「何で私だけ!こんな辛い思いをしなきゃならないの?!」




「では、勇者様。今日はこちらになります」


「はい……、戦います……」


『勇気(ブレイブ)』という、勇者にのみ許されるオンリーワンのチートスキルを手にした少年はどうだろうか?


ここは、名前は伏すがとある国。


中小と言える程度の小さな勢力の国だ。


目に光がない少年は、屈強な騎士達に叩きのめされて無理矢理に鍛えられている。


「さあ、勇者様。こちらのモンスターを倒してください。倒すまで、食事はなしですよ」


「はい……、戦います……」


流石は勇者と言うべきか、圧倒的な力でモンスターを叩きのめし、順調にレベルを上げていた。


そんな勇者の様子を眺めながら、ドジョウのような髭を伸ばした貴族達が笑う。


「いやいや全く、勇者様な勤勉で助かりますなあ」


「いや誠にございますな!まさか我が国に仕えたいと、わざわざ城に来ていただけるとは!」


「勇者様のお力があれば、邪魔な隣国を根絶やしにして、銀鉱山の利権の割譲を……」


「いやいや!勇者様を『使う』のでしたら、やはり魔物戦でしょう!」


「勇者様の種も欲しいですな、我が国の貴族の血脈に、勇者の稀血を組み込みましょうぞ」


「しかし、勇者様は洗脳……いえ教育の影響で不能になってしまっている模様。いかがなさりますか?」


「なあに、オークの睾丸を使った媚薬を盛って、無理矢理に発情させればよろしいでしょう。勇者様もそれをお望みになるに違いない!何せ、我が国に仕えたいと、あちら側から仰られたのですから!」


「それはよいですな!では、失礼ながら、貴族の中でも他国の婚姻に使えぬ醜女や、未亡人を集めておきます!」


「ほっほっほ、結構結構!」




……よく考えて欲しいのだが、平和で安全な国、神からはボーナスステージ扱いされている日本で生きてきた人間が。


ぬるま湯で生きてきた、甘ったれた人間が、ちょっと大きな力がある程度で生きられれば、そこは中世世界とは言えないのではなかろうか……?


異世界転移とは言うが、言ってしまえばこれは「明日からアフリカの田舎の方に行って、これからそこで暮らしてね」みたいなものである訳で。


一般的な日本人に、それができるものはまずいないだろう。


無論、ドーマを始め、上手くやった者はいる。


だが、逆に言えば、ドーマほど上手くやれている者は、一人もいなかった……。

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