第21話 パワーは全国全世界の共通言語なので……

「……分かった。つまり君は、全てを焼き尽くす『暴力』を持つが故、どんなことでもできる、と。そう主張するんだな?」


スティーリアの父親、恰幅のいい丸い腹の、髭を蓄えた中年。


ウルキア商会会長、名前はグレゴリー。


茶焦げた色の口髭、その毛先を指先で擦り合わせるように弄っている。ストレスの表れかな?


「そう言ったんですが、ご理解いただけませんでしたかね?」


俺は茶も出されないので、仕方なく自分で茶を召喚し、飲んでいた。


隣のスティーリアにも、紅茶を飲ませておく。


「……その、差し支えなければでいいんだが、それは何かね?スキル、なのかね?」


「それ?」


俺は、茶請けにヴァンハイムのバウムクーヘンを召喚する。これ、外側にホワイトチョコのコーティングがしてあって、凄く美味いんだよ。


もう、こういう小物の召喚じゃあ魔力をほぼ消費することがないからな、ガンガン使っていこう。


幸いにも、レベルが圧倒的に高過ぎて、健康を害することがまずないからな。


「そ、それ、それだよ君。一体、どこから物を出しているのかね?!空間系のスキルか?!な、なら、私の元で商売をやらないか?それならば、そちらの方が私としても安心できるんだが……」


ん、ああ。


『召喚(サモン)』についてか。


まあもう別に隠さなくても良いかな。


強くなったし、擬態する意味ねーもんな。


「これは『召喚(サモン)』って言って、女神に最適なスキルをくれってお願いしたら貰えたスキルだな。なんか、俺専用に作られたスキルらしいね」


「め、女神?」


「女神が言うには、並行世界含めて世界のどこかに存在する事物ならば、その写像(コピー)を取り出して自在に操作できるって感じと言われたな」


「理解できん、どういうことだ……?」


「だから、世界のどこかに有る物を取り出して、自由に使えるってだけだよ」


「え……?!そんなスキルだったんですか?!聞いてませんよ!」


スティーリアが言った。


「ああ、ごめんごめん。話してなかったわ」


「使役獣も、食べ物も、建物も……、あれは全部、空間操作で隠し持っていたのではなく、その場で創り出していた……ってことです?!」


「そうなるね」


「そんな、それじゃあ……、『神の力』ですよ……?!」


スティーリアはそう呟いた。


「じゃあ、神の妻になれたと喜べば?」


俺はそう言って、バウムクーヘンに口をつける。


うん、やっぱりこれ、美味いわ。


優しい甘味と、バターの風味。


甘味の強いホワイトチョコレートの部分を齧ってから、それを渋めの紅茶で洗い流すと、さっぱりして気持ちがいい。


「あまり理解はできていないが……、その力があれば、いくらでも儲けられるんじゃないか?それならば……」


んー、全然理解できてないじゃん。


「良いですか?『暴力』ってのは、どこでも何でも誰にでも通じる共通の貨幣のようなものです。それを、金銭に変換してから、また権力や暴力に買い換えるのは無駄なんですよ。『暴力』で万物を買い叩けるんでね、俺は」


「だ、だが、聞くところによると、『物を呼び出す』とか、『創り出す』ようなスキルなのだろう?それが何故、暴力に繋がるのかね?」


ん、ああ。


そうか。


この世界にはまだ、銃どころか大砲すらないんだ。


核ミサイルの脅威がーなんて言っても通じないだろう。


んー、そうだな。


こう言っておくか。


「『龍』を喚び、使役できます」


「なっ?!何だと?!!!」


流石に驚いたようで、お義父さんは立ち上り、大声を出してしまっていた。


この世界のドラゴンは、地震雷火事台風、それらと同列の圧倒的災害だ。


人間がどれだけ束になっても敵わず、まとめて薙ぎ倒され、滅ぼされる……。


つまり、「いつでも都市直下型の大震災を起こせます!」とか、「いつでも壊滅的ハリケーンを起こせます!」とか、そう言っているに等しい。


「龍だけでなく、それと同等の階位の召喚獣を、十や二十ではきかない数を同時に使役できます……と言えば、何故俺がここまで偉そうなのか理解できますか?」


「あ、ああ……。分かった、君は強い。王家の抱える騎士団も、魔法師団も、龍には流石に敵わないだろう……」


「屋敷には、隠れさせておりますが龍並みの召喚獣が隠れており、何かあれば飛び出て邪魔者を殺します。女子供にも、龍よりは劣るとは言え、何体も召喚獣を取り憑かせております。故に、何も怖くない」


「……分かった。こうなっては、私が認めようが認めまいが、スティーリアの相手は君だろう。それで、私に何をさせたい?」


おお、話が早い。


「情報をください。それも、貴族の」


「貴族の、情報?何故……、と聞いても?」


「ああ、個人的な欲望ですよ。なんでも、資金難の貴族が、爵位の譲渡を引き換えに令嬢を売り渡すようなことがある、と聞いたので。俺も、貴族令嬢を買いたいなあ、と」


「……攫うとは言わないのかね?その、『暴力』で」


「えぇ?常識的に考えてくださいよ。嫌がる令嬢を誘拐してものにするなど、お互いが不幸になるだけでしょう?泣き喚く女を殴りながら犯したって、俺は面白いとは思えませんからね」


「なるほど……。しかし、そんな情報は私にもない。落ち目の貴族がどこかくらいは、金の流れを追えば分かるものだが、そこと交渉の余地があるかまでは流石に分からんよ」


ふむふむ。


そうか……。


「ああ、助かりました、感謝の念が絶えませんよお義父さん。名残惜しいですが俺はそろそろ行きますね」


「ど、どこへだね?」


そんなもんは決まってる。


「王城へ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る