第20話 実は俺、東京バナーナよりバームクーヘンの方が好きなんだよね
レベルはもういいや。
アホほど上げたもん、飽きた。
これでまあ、他殺される心配はないに等しくなったので、好き勝手生きようと思う。
えーと、何だっけ?
スティーリアは俺に貴族になって欲しいんだっけ?
じゃあ、なるか。
「つまり、ですね。貴族になるために必要なのは、『武勲』か、それに近い『功績』なんですよ」
ガキを産んで引っ込んだ腹の上で手を組みつつ、俺に答えるスティーリア。
「功績、ねえ。参ったな、爵位って金では買えない感じ?ネット通販で買えたりしない?」
「んん……、まあ、そうですね。直接的に、爵位が店舗の展示棚に置いてある……などということはありませんが、間接的な爵位の購入、と言えることは可能ではあります」
ふんふん、なるほど。
「当ててやろうか?……政略結婚、ってところだろ?」
「流石ですね。そう、政略結婚です。落ち目でお金のない貴族家の娘を娶り、爵位の継承を約束してもらう代わりに、金銭的な援助をするというものです」
「んー、良いね。美少女に金銭的援助とか、してみたいわなあ」
「ですよねー……、旦那様はそういう事仰ると思っていました。ですが、それは少し難しいですね」
「えー?何で?」
「どこかの家がそう言った政略結婚をした、という噂は常にどこかで耳にします。ですがそれは、大体は『終わった後』の話なんですよ」
「……ふむ?続けて?」
「そう言った貴族の細かい事情について、我々平民が知ることは叶いません。それはまあ、弱っている貴族も多い……と言うか殆どの貴族の家計はきついと、経済を学んだ者として予想はできますよ?ですがそれを公の場で口にするのは、どう考えても危険ですからね」
「そりゃそうだ。酒場のバカ話程度に『あそこのお貴族様はケチだ!』とかならまあ殺されはしないだろうが、大々的に『どこどこの貴族が金に困っているぞ!』などと、そんなことを言いふらしている奴が長生きできるとは思えないもんなあ」
「はい……。ですから、精度の高い『貴族の情報』は、我々平民には得る手段がないのですよ」
「んー、お前の実家は?ここ、王都でデカい店をやっているんだろう。その伝手はどうなったんだ?いや、頼るのは申し訳ない話だがな」
「ああ、それなんですが……、これから実家の方に行く予定でして。同行していただけますか?」
俺はスティーリアに連れられて、王都の大通りにある商店に来ていた。
前にいた街、ノースウッドの冒険者ギルドよりも大きい建物に構えるは、『ウルキア商会』……。
スティーリアの実家だ。
「良いですか、旦那様?お父様は、私のことを愛してくださっていますが、冒険者と婚姻したと聞いてお怒りです。ここは私に任せてください」
「それは無理かなあ。俺、あんまり言われっぱなしだと我慢できないから……。反射的に殺しちゃうかも……」
「……分かりました。ですが、何とか命ばかりはどうにかなりませんか?」
「ああ、いきなりはやらないよそりゃ。まずはちゃんと話し合うから……」
俺とスティーリアが話し合っていると……。
「スティーリア!」
髭を生やした中年男が現れる。
「お父様、お久しぶりです」
「ああ……、なんてことをしたんだ、お前は!お前の結婚相手は、ヘンドリック商会の若旦那にする予定だったんだぞ?素晴らしい好青年で、お前にぴったりだったのに……!」
「その点については、非常に申し訳なく思っています。ですが、旦那様は実に素晴らしいお方で……」
「馬鹿なことを言うな!お前は賢い子だろう?冒険者など、長じても精々が貴族の私兵止まりだ!それが分からんお前ではあるまい?!」
「旦那様は熟練の術師です」
「む……、そうか……。いや、だがしかし、冒険者などをしているということはモグリなのだろう?信用できるものではないぞ!」
「ノースウッドの森の『王種』を一人で討滅した術師でも、ですか?」
「……まさか、本当なのか?確かに、ノースウッドでは、今まで一度も討伐されたことのなかったノースウッドの魔狼が倒され、復活するまでの空き時間に森を開拓しているとは聞いたが」
あー、そんな話もあったな。
モンスターは繁殖でも増えるけど、自然発生もするんだよ。
自然発生したばかりのモンスターは、倒されると『魔石』という力の結晶だけを残して消えるんだ。
自然発生したモンスターは、食事をして肉をつけ、そして繁殖することによって初めて生き物となり、倒した時に血肉を残すようになる……みたいな感じだ。
だからモンスターは、いくら倒しても無駄というか何というか……、すぐに自然発生してしまうんだが、『王種』は少し特別だ。
王種ってのは、所謂『ボスモンスター』のことで、こいつを倒すとしばらくの間モンスターの自然発生が収まるんだそうだ。
自然発生の再開までは年単位の時間がかかるらしく、その間に開拓するってのは常套手段なんだとか。
ついでに、王種はその人類未踏地域……あーまあ要するに『ダンジョン』の核のようなもので、そのダンジョンの絶対者として君臨している。食物連鎖の頂点と言うか、ダンジョンに発生した他のモンスターを食べたりして、大きな力を溜め込んでいるんだ。
だから、一度王が殺されると、新たな王が生まれるために、次の頂点を巡ってのバトルロワイヤルがダンジョンのモンスター達の中で開催されるっぽい。
それもあってか、割と結構長い間、平和が保たれるんだとか。
「それをやったのが旦那様ですよ。しかも旦那様は、『王種』の討伐で得た賞金の全てを、私達が住む館の購入と、私達の出産の為の、大教会での治癒術師を雇うのに使ってくださいました。……果たしてその、ヘンドリック商会の若旦那は、私にそこまでお金をかけてくださるのでしょうか?」
「むむむ……!それは分かった。だがしかし、今後はどうするのだ?『王種』討伐の賞金ともなると、一生暮らせる程度の金を得たはず。それを、そのような無計画な使い方をしてしまうような計画性のない男では、商人の家系として考えると困るぞ」
うーん、正論。
無駄とは言っておらず、無計画な金の使い方が良くないという意見はまさしく正論で、正しいな。
いきなり大きな館を買ったり、無計画に妊娠させて、大金をかけて慌てて出産の準備をしたりする前に、色々やることがあるんじゃないか?と。
もっと根回しとかしろよ!と。
そう言いたい訳だ、お義父さんは。
「うんうん、正しいよ。『人間』の価値観では、な?」
「き、君は何だね?」
「旦那だ、スティーリアのな」
「き、貴様が!」
いきり立つお義父さんの肩を掴み、この部屋……応接室の座席に無理矢理座らせる。
「人間の世界では、いくら戦いが強い奴でも、ある程度の社会性は持って生きなきゃならない訳だ。家族が狙われたら?食べ物はどうする?着るもの、寝るところは?娯楽だってタダじゃない。子供はどうする?妻は?いや、そもそも結婚できるのか?できたとして、次の世代にどうやって遺産を遺す?……人間は、どんなに強くても、こうやって色々考えて、色々配慮して生きなきゃならない」
「……ああ、そうだ。君がどんなに強くとも、結局は王都の精鋭騎士団に囲まれれば何もできずに殺されるし、もっと言えば龍種と戦えば無惨に食い殺される。人間の持てる『暴力』の力など、その程度のものだ」
「だが俺は違う」
「何?」
「俺は、『超越者』だ」
「……まさか!建国王と同じ?!」
お義父さんは、目をひん剥いて驚いた。
『超越者』など、伝説の中でのみ出る言葉故に。
「知っているか?『超越者』とは何か。人間如きでは、天地がひっくり返っても害することの叶わない絶対者、半神、神に近き者。そう言われているが実際はこうだ……。『最強の暴力』!ただそれのゴリ押しで、欲しいものは何でも手に入る!」
「そ、そんな、馬鹿な!『暴力』のみで、そんなことができるはずがない!どこかで必ず、手の届かない部分が出てくるに決まっているだろう?!」
「身内が狙われても、俺の力があれば安全だし、報復に国ごと滅ぼせる。周りにどんなに嫌われたとしても、暴力で周りをぶん殴れば、全てのものが平伏して、必要なものを差し出す。女達は、『超越者』との血縁を欲しがり、挙って股を開くだろう。そして上がり過ぎたレベルは、『俺が飽きるまで』という、人間の枠を遥かに飛び越えた長寿を約束する。故に、この力を、立場を、他人に委譲することについて考える必要はない……。何も、問題はない」
絶句してしまったお義父さんに、俺は。
「おっと、すみませんね。嫁さんの家に初めて来たってのに土産も用意せず……。こちらをどうぞ、『召喚:東京バナーナ』」
菓子を渡しつつ、遅れながら挨拶をした……。
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