第22話 バカに振り回される皆さんかわいそう

もう超越者になって、どんなことでもできるようになったので、他人の都合を考える必要はなくなったと言える。


もちろん、俺から見てみっともないことはできないが、これは良いだろう。


「出よ、破壊の精霊『バハムート』」


『Guuurrrr……Guuooooooo!!!!!!』




黒い鱗、輝く黄金の瞳、100mをゆうに超える巨体ながらも空を飛行する巨大で強大な最強クラスの召喚獣。


破壊の精霊、バハムート。


その後ろを追うのは、バハムートと負けず劣らずの巨体を誇る人型。


大地の精霊タイタン、重力の精霊ヘカトンケイル、嵐の精霊フレズベルグ。


バハムートの両脇を固める、これまた大きな四足獣と海龍。


力の精霊ベヒーモス、海の精霊リヴァイアサン。


月の精霊ニャルラトホテプ、死の精霊デス、混沌の精霊カオスに、闇の精霊ディアボロス。


一体だけでも、国一つを滅ぼせる精霊を複数召喚し、俺は王都を練り歩く。


当然、冒険者やら騎士団やらが止めに来るな。ワラワラと群がってくる。


それに対して俺は、ザラマンデル、シルヴェストル、ゲーノモス、ニンフを、それぞれ千体ずつ……いやこれは分裂させているのか?とにかく、そうやって並行して顕現させ、全員を死なない程度に痛めつけた。


そして最後は、王都の真ん中にある王城を包囲し、正門をぶち破って中に入り……。


「こんにちはごきげんよう、王様姫様王子様。こちら、召喚士のドーマと申します……」


玉座の間に、脚を踏み入れた……。




「貴公……、何者だ」


玉座に腰掛ける王は、歳の頃四十と少し位の中年。


しかし、気苦労によるものか、髪の色素は抜け始まっており白く、顔の皺も多く、だが、背の高く背筋の伸びた男だった。


重ね着によって太く見えるが、腹が少し出ているくらいで概ねは健康的な肉体を持ち、その腕の太さを見るに、剣の腕も冴えていそうだ。


そんな王は、鋭い視線で、赤いマントを除けて杖を握りつつ、俺に訊ねる。


「さっき言ったでしょう?名前はドーマ、銀剣位の冒険者で召喚士。血液型はO型趣味は読書とスケッチで好きな食べ物はコロッケそばとオムライス。これでよろしいですか?」


「……何用だ?」


「用件ですか?ああ、安心してください。別にあなた方を皆殺しにして国を乗っ取るだとか大魔王になるだとかそういうアホくさいことは考えていないので。まあ別にできるけど。ただ俺は、王様に一つちょっとしたお願いをしにきただけなんですよ、害意はありません。実際、ここに来るまで冒険者も兵士も騎士の方も、誰一人として殺してはおりません」


「ふむ……、して、その願いとは何か?申してみよ」


「爵位が欲しい」


俺がそう宣言すると、王様は隣にいる禿頭の太ったおじさん……宰相だか大臣だかそういう感じの人に声をかけた。


小声でのやり取りである為、聞こえない。いや、聞こうと思えば聞けるけど。


因みに、宰相らしきおじさんは、俺のことを何かしらのマジックアイテムで見ていた。


モノクル型のマジックアイテム……恐らくは鑑定の魔法がかかっているものだろう。


俺のレベルを見てしまったらしく、宰相は卒倒寸前の蒼白い顔をしていた。


「『レベル200』……、超越者か」


なるほど、宰相から聞いたのか。俺のレベルの鑑定結果を。


「ええ、レベル上げを頑張りました。半年もかかりましたよ」


「……何故、爵位を望む?」


「たらし込んだ女が、俺のことを貴族にしたいと言っていたのでね。暇潰しに貴族でもやってみようかな、と」


「き、貴様!この国を、ひいては貴族をなんだと思っている!」


思わず、玉座の間にいた何人かの貴族が声を上げるが、王様はそれを手で制して「やめよ!」と注意した。


「うーん、もしかして、おたくの貴族様方はそのレベルの政治的思考しかできない感じですかね?困ったな、ここまでアホとは思っていなかったぞ……?」


「言いたいことは分かる。だが、一介の法衣貴族に大局を見よ、とは余は言えぬよ」


ふぅん?


王様はそう言って、俺が貴族になるべき理由を周りの法衣貴族達に説明し始めた。


「よいか?そも、超越者とは、その名の通りヒトの枠から外れた強者。人の形をした龍王のようなものよ。その意思には、例え国とて逆らうことはできぬであろう。しかし逆に言えば、超越者の加護があらば、それは龍王の加護を得るに等しい」


王様の説明は続く。


「それに、己の国に住む強大な超越者を召し使えようとせぬのでは、余の瞳が曇っていると他国に喧伝するようなものだ。そうならば、他国の間者がこの者の周辺に溢れ、この国が乱れる原因となろう」


そして最後に……。


「であれば……、形の上だけでも爵位を与え、事実上の同盟関係を築くのが最もよいだろう。超越者は純粋な『力』にて全てを手にすることができるが、しかして『面倒』はあるからな。その『面倒』を国で引き受ける代わりに、超越者には我が国の守り神になっていただく……。そういう訳よの」


そう言って、手に持った錫杖で床を突き、一つ息を吐いた。


納得したのかしてないのか、それは分からないが、とりあえず法衣貴族達は黙ったので、王様は俺に向き直って言葉を続ける。


「待たせたの。して、爵位の件だが……」


「ええはい、良いですよ何でも。王様の言う通り、要するにこちらが欲しいのは面倒を避ける為の窓口なので。爵位はまあ方便みたいなものですね、その歴史の重みだとかそう言う話には一切興味がないので悪しからず」


「ふむ。しかし悪いが、領地は与えられぬ。戦の絶えぬ世で、与えられる領地はもう全て臣下に与えてしまった故な。代官や文官の用意もできぬ、そんな余裕はないのだ」


「領地は欲しくなったら自分で作るんで良いですよ、どうとでもなるんで。とりあえずは法衣貴族の武官とでもしておいてください。働けと言うなら隣国を地図から消し去るくらいはやりますが?」


「……いや、結構。ここに、余の権限において、召喚士ドーマを男爵に授することを宣言する」


「おお、ありがとうございます。書類上の手続きとかあります?」


「もちろん、ある。それについては……、ウォルコット卿!」


「ぇあっ、は、はい!」


王様が呼んだのは、三十手前位の若い貴族の男。


藍色のチュニックを着ているが、その丸まった背中や光の無い瞳は、疲れ切ったサラリーマンを彷彿とさせる。


苦労人という言葉が似合う男だった。


「ウォルコット卿、男爵の手続きの手伝いを任せる。決して失礼のないように」


「は、はひっ、はぃい……!仰せつかりましたぁ……!」


胃をギュッと服の上から掴むようにして押さえながら、半泣きで跪くウォルコット卿。


かわいそう……。

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