第11話 修行シーンが面白い漫画は良作の法則

「さて、じゃあ教えるが、お前は頭が悪過ぎてお話にならない」


「ひ、ひでぇでやんす!まあ事実だからしょうがないけど!」


俺は、森の作業場で、ゲーノモスに作らせた石の椅子に座ってザニーと相対していた。


話す内容は、まず、ザニーの基本性能の話だった。


「いいか?術師ってのはどう足掻いても勉強が必要だ。文字の読み書きや計算ができなきゃ、お話にならねえ。文字や数字を媒介にしたり、詠唱によって術を調整する際に数理的な知識が求められたりするからだ。だから、まずは読み書きなどの勉強から始める」


「え?良いんでやんすか?!」


「何が?」


「勉強を教えてくれるなんて、凄いでやんす!読み書きなんて、スラムじゃ顔役のジジイしかできなかったすよ!」


あ、なるほどね。


勉強ができるって、本来、幸せなことだもんな。


「ああ、教えてやる。けどな、それでも、お前が身につけられるのはそう多くない。お前はアホだからな」


「へい!アホでやんす!」


自信満々に言うなよ。


「だから、俺が使いやすくて簡単な術から教えていく。先ほどは知識だの何だのと論理的っぽい話をしたが、とりあえずは役には立たないが簡単な術からやって、感覚だけ掴んでもらおうと思う。それで良いか?」


ビルドはやっぱり、魔法戦士型になるだろうなあ……。


術一本でやってけるほど、この子に才能はない。


その辺、スキルの力で分かるのだ。


だからもう、術は補助と割り切って、基本的には肉体を使って戦う感じのビルドでまとめようと思う。


「もちろんでやんす!教えてもらえるだけ、あっしは幸せでやんすよー!」




「んじゃ、まずは毎日三時間、読み書きの勉強だ。術はそれから……、と言いたいところだが、簡単なのを今一つ教えてやる」


俺は、召喚術に使う文字……『召喚文字』を書いてみせた。


この世界の文字はルーン文字っぽい表音文字なんだけど、召喚文字は古代中国語っぽいような象形文字なんだよね。


だから、知らん人は解読とか全くできんだろうねこれ。


それで、俺は紙に「ひかり」と書いて見せる。


すると、そこから、ごく小さな光精霊ウィルオウィスプがぽわーっと出てきて、軽く光った。


そんだけのショボい術なんだが、ザニーはえらく目を輝かせていた。


「すげー!」


「よーし、お前もやってみろ。ほら、こう書くんだぞ?」


「こうでやんすか?……あっ、光った!すげー!」


嬉しそうに何度もウィルオウィスプを召喚するザニー。


「やり過ぎると魔力切れでぶっ倒れるからなー」


俺はそう言いつつ、ザニーにこの世界の文字を教える勉強をさせた……。




無論、俺もただ、全自動皮剥皮鞣しマシーンとなっている精霊達を、ただボーッと眺めている訳ではない。


役に立ちそうな知識を吸収する為に、本を召喚して読書に励んでいたのだ。


読書は良いぞー?どこでもできるし、教養は他人との会話の取っ掛かりになるしな!


マジね、話つまんない奴は存在そのものが罪だからねえ。


それに、ちょっと突っ込んだ医学知識とか、この世界の有名な詩篇とか、役に立ちそうだからな。


ちゃんと、この国の宗教の聖典も読んだぞ?


知識は力なんだよなあ……。


「師匠〜!できたでやんす!」


お、来た来た。


「んー、ここが違うな。頑張れよ、アホだがやる気は感じられるぞ!」


「はーい!」


ぐしぐしと、ザニーの頭を撫でて褒めてやる。


何かこう、ガキ臭過ぎて抱けるかどうか不安に……いや無知シチュと思えば興奮してくるわ。良いね!


ほら、妹とかでもやっぱり欲情はするじゃん?


俺にも再婚した親父の連れ子の、義理の妹がいたんだけど、五歳くらいから一緒にいてさあ。


でも、普通に可愛くてさあ……。


手ぇ出して孕ませちゃったんだよね♡


まあ実家から勘当されたわね。


その後、自力でバイトして大学行って、証券会社に勤めるも、クソ上司を衝動的に殺して以降海外で逃亡生活……って感じ。


よく考えれば……いや、よく考えなくてもクソだな俺。


でも仕方ない、こうやって好き勝手生きるのが最高に気持ちいいんだもん。


快楽に勝るものはこの世にないんだよ。


……っと、そろそろ時間だな。


「ザニー、勉強は一旦終わりだ。よく頑張ったな褒めてやる」


「はーい!」


「これからは、本体を鍛えてくぞ。頭良くてもフィジカルがカスな奴は何やらせても駄目だからな。実際、運動すると頭も冴えるんだ、鍛えるぞ」


「ふぃじかる?」


「あーすまん、まあ簡単に言えば、身体を鍛えるってことだな。さあ行くぞ」


「はいでやんす!」


とりあえず、拳法の型でも教えてやるか……。


俺が拳法の師匠にやらされた、クソみたいな面白修行はやらんでええ。


女の子だからな、自分の身を守る程度の力がありゃ良いだろ。


基本的には俺が守れば良いんだし。


それと後は、剣道の小太刀の形も仕込むか。


小太刀の理由?


この子もう十三歳でしょ?


成長期終わってるから、このまま一生発育不良チビのまんまだろうなーって。


だから、長物持たせるより、小太刀型で護身術を徹底的に仕込んだ方が為になるでしょ。


無論、そう説明もした。


「はえー、なるほどー。あっしはもう背が伸びそうにないから、チビでも戦える剣術を教えてくれるでやんすね!」


「そうだぞ、お前は俺に従っておけば良いからな。でも、分からなかったらちゃんと聞けよ?」


「聞いて良いでやんすか?!普通、剣術とかそういうのの技って、見て盗むもんなんじゃ?」


「馬鹿言え、そんな非効率なことやってたら、お前みたいな凡人は一生芽が出ないぞ。手取り足取り教えてやる、そうじゃなきゃお前は伸びない」


「うう……、凡人ですまないでやんす……」


「良いって別に、可愛けりゃ問題ねーのよ。俺もまだ若いしな、躍起になって良い弟子探す歳じゃねえ。そもそも俺はあと千年は生きるつもりだし、技術の継承に価値を見出している訳でもないしで、その辺はあんまり考えてねーのよな」


「……なんか、複雑でやんす」


ちょっと憮然とするザニー。


あらまあ、かわいいこと。


俺は、ザニーを抱き上げて、頭を撫でてやった。


「お前は本当に可愛いなあ!」


「ぬわー!師匠〜?!」


「俺はお前のことが好きだぞ。だから、嘘をつかないんだ。嘘の言葉で褒めてもらって、後で後悔する姿を見たくないからな。お前だってそれは嫌だろ?月並みなセリフだが俺はお前のことを想って言ってやってるんだ」


「師匠……」


「良いか、何度も言うが、お前に才能はない。お前はリカントだから、術師に向いてないんだ。でも、それでも、それなりに強くなれるように、俺が鍛えてやる。分からなかったらちゃんと言って良い、どんなにバカな質問にでもちゃんと付き合ってやるからな!」


「師匠……!」


するとザニーは、大声で泣き出した。


「あっしは、あっしは!そんなことを言ってもらったのは初めてでやんす!あっしに、こうして、正面から向き合ってくれた人は、師匠だけでやんす!」


んー、泣き顔もかわいいね♡


「師匠、あっしは、あっしは!一生ついていくでやんすぅぅぅ!!!」

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