第10話 末法世界はヒャッハー側からすると生きやすい世界

「さ、さ、三百万……、三百万……?三百万って、いくらでやんす……?聞いたことのない単位でやんす……?」


銀貨満載の革袋を白目を剥いているザニーに持たせて、俺は帰宅する。


エリカの家にだ。


いやあ、被差別階級であるリカントの孤児であるザニーも泊めてもらうなんて、申し訳ない気持ちで胸がいっぱいだぜ!


……んー。


帰宅して、俺はエリカに聞いてみた。


「エリカ、嫌なら嫌って言って良いんだぞ?弟子は可愛くて好きだが、お前に飽きた訳じゃない。不満はちゃんと口に出してくれよ」


と。


ロリも必要だが、今んところエリカの方が重要度は高いしな。


アレなら、ザニーを宿に押し込むと言う手もある。


普段なら俺は押せ押せで「俺の言うことを聞け!」と支配的な男性を演じる(その方が女は喜ぶ)が、今回のこれは事が事だ。


人種差別とか、民族差別とかそう言う話だからな。


貴族とかの徹底した奴だと、リカントとは同じ空気を吸いたくないみたいなのもいるらしいし。


好感度調整は主人公の義務だからね、仕方ないね。


合わない人間とはとことん合わんからな、人間って生き物は。無理に仲良くする必要なんかないよ、距離置きゃええよ。


だがしかし。


「いえ、実は私、あまり気にしてないんですよ。その理由として……、私は昔、冒険者だったんです」


はえー?


「元々、回復術が使えるくらいのシスターでして。一目惚れした冒険者の元旦那と駆け落ちしたような形でこの街に来たんです」


あ、そうなんだ。


冒険者は実力主義の世界だからな。


獣に変ずる力を持つ半獣人『獣化人(リカント)』でも、呪われし者『呪印人(シャドウフォーク)』でも、スキルとはまた別の異能を持つ奇形『超人(ファーブラー)』でも……。


冒険者なら、冒険者としてやっていける能力があれば、馬鹿にされない。むしろ尊敬すらされるのだ。


まあほら……、ミュータントはナントカメンとかナントカンジャーズとかに入ればヒーローになれるけど、一般社会では排斥されるよね、みたいな話。


「ですので、ザニーちゃんについても、私から言うことはありません。……でも、若い子に構ってばかりで私のことを忘れてしまうのは、嫌ですよ?」


んー、可愛いねえ。


三十路そこそこのおばさんが、十八の俺に甘えるとか、背徳でいいよね!




まあそんな感じで、エリカとは『仲良く』している。


避妊?申し訳ないけどそんな技術はこの世界に存在しない。


望まれない子供?何言ってんの?子供なんて邪魔なら捨てりゃ良いじゃん。と言う倫理観。


と言うより、女の立場はめちゃくちゃ低くて、レイプされたら「レイプされるような油断してる女が悪い!」とか言われるレベルよ。


現代人から見りゃクソ以下だが、中世世界なんてそんなもん。


むしろ、人権だの倫理観だのの価値観が出てきたのなんて、地球だって歴史を辿れば「ここ最近」の出来事なんだよな。


ってか、ワールドワイドな視点で見れば、そんなにまともな倫理機構があるのって先進国くらいのもんだし……。


……闇が深い話はやめよっか?


で、話変わらないんだけどさ、この世界は倫理的にカスだから、女も結構地球的視点で見ればカスな女多いんだよね。


具体的に言えば、反ポリコレ的な話になるんだが……。


この世界での女は、基本的に男の「付属品」とか「装飾品」或いは「トロフィー」みたいな扱いなんだよ。男尊女卑ひっでえからね。


でも、トロフィー側にはトロフィー側のプライドがある訳で。


つまりは、「私はこんなに稼げる男の所有物なんだぞ!」とマウント取るのが、この世界の女の基本的動作なんよね。


この女、エリカも、俺という「若くしてクソ稼いでる実力派術師」を「支えている良いオンナのアタシ」という優越感があるだろうな。


自分の見込んだ雄が偉くなる、イコール、自分が偉くなったと感じられるって訳だ。


つまり、「ワシが育てた」ってことよ。


ついでに言えば、優れた男が女を侍らせるのも当然の世界だから、俺がこうしてザニーを迎え入れても文句は言われない。


ってかそうじゃなきゃ、エリカみたいなエロい身体した美女が放置されてる訳ねーよな。


結婚適齢期が十代半ばで、未亡人は早死にする夫を伴侶に選んだバカ女の印で、女である時点で立場が低い……みたいな、この三点が無けりゃ、こんな美人のヒモになんてそうそうなれんわ。


いやあ、倫理観がなくって楽チンな世界だこと。


他の転移者達もすっげえ楽しんでるんだろうなあ……。


クソ、ムカついてきたな。


勇者のガキとか、めっちゃモテてんだろやっぱり?


俺もなぁ、勇者んなってお貴族様の美少女に種付けしてぇよなぁ……。


あ、でも実際そうなったら権力闘争云々に巻き込まれると思うんで、怠いから嫌です。




まあ、その辺のことは考えても仕方ねーわ。


とりあえず、前を見て生きよう。過去は振り返らない、その時楽しけりゃなんでも良いのだ!


うーん、じゃあそうだな……。


とりあえず、ザニーの好感度を上げておくか。


美味いもん食わせて太らせてるが、発育不良の細過ぎる身体は中々どうにもならんね。


半年くらいは手ぇ出せんなこりゃ。


悲しいね……。


だが、来るべき日に備えて、いつでも手を出せるくらいの好感度にはしておきたい。


「よーし、来い弟子」


「はいでやんす!」


いつもの、森の作業場へ。


「んで、お前は勝手に弟子になってきたが、何になりたいんだ?プリティでキュアキュアな感じのアレか?」


「そりゃもう、師匠みたいなすっげー術師でやんすよー!」


ハァン?


「はあ?お前は、身体能力に優れるリカントだろ?リカントが術師に?……そもそも、幾つだっけお前?」


「十三歳でやんす!」


うおっ、ロリぃ!ナイスぅ!


だがしかし、十三歳ならば、早熟なリカントはほぼ成体だろう。


事実……。


「十三歳でも、お前は、下手すりゃ大人の女に匹敵するくらいの身体能力があるだろ。なんでわざわざ種族としての強みを活かさず、正反対の術師なんてやりたがるんだ?」


「……カッチョイイから?」


んー、アホ!


まあ、女はアホなくらいが可愛いからね。


だって男はもっとアホなんだもん。自分より賢い奴となんて話が合わねーよ。


俺はあんま気にしないけどさ、一般論の話でね?


にしても……、カッチョイイから、か。


その辺のモチベは大事だよなあ。


幸いにも俺は『召喚』スキルなら他人に教えることもできる。


そうそう、スキルって教えられるっぽいんだよね。


スキルってのは、この世界では、生まれたら必ず一つだけ付与される『才能』のことだな。


例えば『大工』のスキルがあれば、誰にも習ってないのに家具や家の造り方が分かって、スキルレベルが上がればより高度な建築物も建てられるようになる……。


調べたところによると、この世界ではモンスターの襲撃とかで定期的に国が滅んだりするから、復興を楽にするために神が齎したんだ!みたいな説が有力らしいな。


確かに、定期的に国が滅んで、その度に原始時代からやり直してたんじゃ馬鹿馬鹿しいからな。スキルで知識や技能を吹き込んでおいて、復興を楽にしてるんだよーってのは納得できんこともない、か。


そうそう、そうなんだよ。


スキルを持っていると、そのスキルのレベルに応じた知識技能が勝手に頭ん中に入って身体に染み付いてる……、それがこの世界のスキルってもんだ。怖いよな、だって意味わかんねーもん。


でも、だからといって技術ツリーを築くことが意味がないって訳じゃないんだよな。


スキルだが、その手に入れた知識技術を他人に教えれば、その相手がそのスキルと同じ事ができるようになる……ってのはちゃんとある。


スキルがないとできません!とかではないんだわ。装備制限とかジョブ制限とかない。


別に、スキルが『魔術(マジック)』だからと言って剣士になれない訳じゃなくて、剣の勉強と練習を頑張ればできるようになるよー、ってことね。


だから、俺がザニーに術を教えられるか?と言えば、可能っちゃ可能なのよ。


ただ、向いてはいないし……、それとリカントの技能と身体能力を活かさないのは勿体ないなーってのもある。


召喚スキルの知識を伝授しながらも、それなりに戦えるように鍛えてやるべきかね?


今んところやらにゃならんタスクは、金稼ぎまくっていつでも旅に出れるようにすることと、鍛えまくって強くなることのみ。


ぶっちゃけ暇だし、師匠ロールプレイで馬鹿弟子を可愛がるのもアリだよな……!


「よーし、じゃあ教えてやるよ!よーく聞け!」

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