第8話 弟子は女以外とらない予定なので安心安全

俺が宿泊しているのは、実は宿ではない。


その辺で口説いた女の家だ。


「おかえりなさい、ドーマさん♡」


「ああ、ただいま、エリカ」


で、今回転がり込んでいる家の家主は、エリカという女。


三十手前くらいの未亡人だな。


なんかこう、本編前に死んでる主人公の母親みたいな、溢れる人妻セクシー感!って感じの女だ。


ちょっと強引に押したら、簡単に家に上げてくれたぜ。


逃亡者バックパッカー時代も、よく女の家に転がり込んでたもんだ。


女の家に転がり込むと、飲食費と家賃が無料で、プラス抱ける女もついてくる!お得!


……無論、ヒモはちょっとアレなので、お気持ち程度には金を渡すが。


金の稼ぎ方?


カンフーマスターだのカラテマスターだのと自称して、現地のヤクザに取り入るとかかなあ……。


実際、俺は子供の頃から空手柔道剣道をやってて、全部四段は持ってるし。


カンフーマスターも、一時期中国の山奥で、拳法家の爺さんと暮らしてたからな。


まあそのおっさんも単なる酔っ払いだったんだけどさ。


えーと、名前なんだったかなあのジジイ?


蘇化子……だっけ?


まあいいや、もう会うこともないだろうし。


とにかく俺は、そうやって暮らしてきたのだ。


落ち着けないが、これはこれで楽しいぞ!


「エリカ……」


「ドーマさん……♡」


エリカも全然若くて可愛いしな。


この世界だと三十手前の女はババア扱いらしいが、俺は全然行けますわ!


それにアレだ、いつかエリカの元から去るつもりだし、それまでにこうして金を作って、エリカが一人でも十分暮らせるだけの蓄えを……。


そんなこと考えながらエリカと抱き合っていると……。


ドンドン、と。


ドアが叩かれた。


……「師匠ー!ししょー!開けてくれでやんすー!」


ああ、あのアホの子。


着いてきちゃったんだな。


「え、えっと……、どなた?」


エリカが応対する。


「へっ?!あれ?師匠は?」


「師匠……?うちのドーマさんに何か……?」


うちの?おやおや、エリカったら。


嫁気取りかよ?かわいいね♡


結婚なんぞしねえぞ俺は。クソめんどくせぇ。


「あ!師匠!」


俺に手を振る、薄汚れたガキ。


声的にメスガキか?


ってかマジで汚ねえな。


茶色のモジャ毛の塊で、身体はぺたーんどころかすとーん。


チビで発育不良、服は薄汚れたワンピースみたいなの。いや、ワンピースに失礼だな、貫頭衣だこんなもんは。


で、人種は……、一般的に忌避される獣化人(リカント)であるようだ。犬猫っぽい獣の耳と尻尾がある。


総評、スラムのガキンチョ……。


エリカも、流石に汚いガキに眉を顰める。


だが、ここで「消えろクソガキ!」とか言い出さない辺り、人間ができてんな。


弱者への態度はその人間の本質が出るってもんよ。


分かりやすく言えば、ファミレスの店員にタメ口利くような男とは別れた方が良いよ!ってことだな。


で、メスガキ。


「お願いでやんす!あっしを弟子にしてくだせえ!」


こーんなことを言い始めたじゃああーりませんか?


ふーん?


「なるほどね。お顔を見せてもらえるかなー?」


「へ?へい!」


前髪をわしゃーっとかき上げた、リカントのメスガキ。


その面構えは……。


「おお!可愛いじゃん!」


かなりよろしいんじゃねえの?


お目目が二重でぱっちり開いていて、歯並びも良いし。


頬に古い切り傷があるのがちょっとアレだが、まあ別に気にならん。


総評、すっげえかわいい。


「エリカ、良いか?」


「え、リカントを飼うんですか……?」


「ああ、だがちゃんと髪を切って身体を洗わせる。お前の迷惑にはならないようにすると約束するよ」


「それなら、まあ……。でも、私のことも可愛がってくれないと、ダメなんですからねっ!」


「もちろんだ、エリカ。愛してるよ」


エリカにキスをしつつ、リカントのメスガキをシルヴェストルを使って外に出し、ニンフで丸洗いする。


「がばぼぼぼ?!がばばばぼ?!!ぼばばばがば!!!!」


ニンフの作り出した大きな水球に、俺はダニ避け薬用シャンプーを召喚してぶちゅーっと垂らす。


すると、水球は、汚れを吸って茶色い泡玉に……。


「こりゃ、何度か洗わないとダメだな」


一旦、ニンフに水球を消させる。


「んべっ?!ぜはーっ、ぜはーっ、はーっ……!い、いきなり何するでやんす?!死ぬかと思ったでやんすよ!」


「洗ってんだよ、ほら、二回目行くぞ」


「へっ?ちょっ、待っ……、んがぼぼぼぼ?!!」




計四回ほど丸洗いした後、ヘロヘロになったメスガキを、エリカに預けて髪を切らせる。


エリカは、どうやらロングヘアに切ったらしく……。


「おお、可愛い!実にスウィート!スウィーティーだなオイ!」


「うう……、本当に死んだかと思ったでやんす……」


メスガキは、ロングヘアの美少女になった。


やったぜ!


「お前、名は?」


「あっ、へい!あっしは『ザニー』!これから師匠に頑張ってお仕え?するでやんす!よろしくでやんすー!」


えっ、ザニー?ヤバくない?大丈夫なの?


……まあこの世界にザニーはないか。


とにかく、美少女を一人、弟子にした。

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