第7話 アホがアホたる所以は大体アホみたいな話だよな

思いがけず大金を手にした俺は、ホクホク顔で帰宅しようとして……。


「へへへ……」


「おい!見てたぜぇ?」


「稼いでんじゃねえか、こっちにもお裾分けが欲しいなあ?」


チンピラ冒険者に絡まれた。


おっと、これは流石に逆らわなきゃいけないな。


自分からいきなり急に殺しにかかるやべーサイコパスではないのだが、これから殴られますよって時に黙って突っ立ってるアホではないからな俺は。


「おっ、斬新な切り口の物乞いだなあ!ほら、銅貨をやるよ!これでパンでも買うといい!なあに感謝はいらないよお前らみたいな底辺のクズには俺みたいな強くてハンサムで性格も良いナイスガイが施しをやらなきゃならないってのが社会福祉だからな!」


俺はそう言って、懐から出した銅貨をポンと投げる。床に。


「あぁ?舐めてんのか?!」


「新入りの分際でよ!」


「んん、申し訳ないが『舐める』って表現は適切じゃないな。それじゃ自分達が俺を脅かすことが可能な脅威ですよと言っているように聞こえてしまうぞそれは良くない。お前らは逆立ちしても俺をどうこうできんのだから、もうちょっと弁えて謙虚に生きた方がよろしいのでは?とアドバイスを送ってやろう」


「ふざけんな!」


「話が長いんだよ!」


「殺せ!」


男達は、ついに武器を抜いたので……。


「来い、シルヴェストル」


実力行使だ。


俺は、風精霊を呼んだ。


そして。


「シルヴェストル、奴らの周りから空気を無くせ」


『了解!びゅーん!』


風の精霊に、真空状態を作り出せ、と命じた。


「あ?……かっ?!か、かはっ、ひい、ひい、ひい……!!」


「なっ、何だ?!息が……、ひゅー、ひゅー……?!」


「息ができねえ……、吸っても、空気が……!」


徐々に空気を減らしてゆき、窒息させる……。


風精霊を使った対生物の戦闘は、これが一番早いと思います。




そしたら後日、「得体の知れない術を使う謎の術師」とか噂されるようになった。




術師はなあ……。


どうやら、中世の所謂『魔女』みたいな扱いらしい。


魔法の力があるが、何をやるか分からないヤバい奴、みたいな……?


例えるなら、少年探偵団のいる学校の近所に住んでいる発明家を名乗る老人……とか?


要するに、凄いけど、冷静に考えて自分の家の子供を近づけたくない人と言うか……。


尊敬されるが、畏怖もされるってこったな。


わざわざモグリの術師に関わろうとする奴なんざ、相当な変わり者かバカの二択ってことよ。


「んぎゃっ?!転んだぁ……」


……なので、俺の背後をつけてくる何者かも、相当なバカなのである。


何だか知らないが、誰かが追いかけてきているな。


「ワンワンワン!!!」


「犬ぅ?!ひい〜!あっち行け〜!」


隠れているつもりのようだが、途中で転んだり、野良犬に吠えられたりしているので、完全にバレバレだ。


まあ、害はなさそうだし、無視しておくか。


森に入って、と……。


この辺かな?


「ウィスプ!偽装を解いていいぞ!」


『ピィ!』


ウィスプ、光の精霊。見た目は羽の生えた光の玉。そいつが出てきて、回転すると。


大量の皮鞣しの道具と、乾燥中の鞣し革の群れが出てきた……。


光の精霊『ウィルオウィスプ』……。光を操る精霊だな。


つまりは、光の屈折率を変化させて、この作業場を隠していた訳だ。


更に……。


「レプラコーンも出てこい!」


『ガウッ!』


ツノの生えた小さな半獣人。これが、狂乱の精霊『レプラコーン』だ。


レプラコーンにもここの偽装を手伝ってもらっており、その狂乱の力で近づく奴の感覚を狂わせて追い出していたって訳よ。


さて、じゃあ。


「今日も革を鞣すか……」


仕事を始めることにした。




ゲーノモスは土の精霊。


クロム液、鉱物性の薬液にある鉱物成分を操り、いい薬液を合成する。


ニンフは水の精霊。


液体を自在に操る力で、薬液を揺らして獣皮に纏わせ、包んで洗い流す。


シルヴェストルは風の精霊。


びゅうびゅうと風を吹かせて、獣皮の表面の虫を吹き飛ばし、乾かす。


ザラマンデルは火の精霊。


温度を管理し、獣皮が腐らないように適切な温度を保つ。


俺自らが手を出すことはあまりない。


手を指揮棒のように動かして、指示をするだけだ。


「ぎゃあああ?!!!熊あああっ?!!!」


「ガウウオオオオッ!!!!」


たまに、こうして邪魔が入ることがあるが……。


一つ、指を弾いて。


「殺れ」


命令をすれば。


『『『『!』』』』


精霊が動いて、邪魔者の首を落としてくれる……。


風の精霊が首を斬り腹を裂き。


土の精霊が腑分けして。


火の精霊が肉から余分な熱を奪い。


水の精霊が洗い流す。


そうして、ほんの数十秒で解体された熊を、俺が指示して更に処理させる。


「肉から水を抜け、肝も絞って乾燥させろ。皮は毛皮のまま売ろうか。おっと、ゲーノモスは岩塩を出してくれ」


干し肉は食用、干し肝と熊の血は薬用で高く売れる。


儲けた儲けた。


またもや、ホクホク顔になっている俺に……。


「うおおおおっ!強いっ!カッチョイイ!ハンサム!弟子にしてくれでやんすぅぅぅ!!!!」


なんかアホの子が来た……。

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