第15話 ヤればデキる!良い言葉だな!

ノースウッドに来てもう一年。


金の話をすれば、もうとっくに都市の職人の生涯年収くらいの額を稼いだ。


冒険者としては、『銀剣』の位に達し、既にベテランの冒険者として周囲から一目置かれ、尚且つ指名依頼もじゃんじゃん来ていた。


マジでもう、順風満帆って感じよな。




「あの……、ドーマさん?私、デキちゃいました……♡」


愛人のエリカ。




「ドーマさん、孕んじゃいました♡責任、取ってくださいますよね?」


冒険者ギルドノースウッド支部、受付嬢のスティーリア。




「ドーマ。お前の子ができたぞ。産むが、良いよな♡」


「アタシもよ、アナタ♡強い子を産むからね!」


知り合った銅盾位女冒険者、ヒルザとダイアナ。




んっんんんーーーーーーーーーー。


逃げていい?




まあうん、避妊とかしてないもんね。


そうなるよね。


全員、最悪は、自分一人で育てるつもりはあるっぽい。


この世界はそんなもんだからね、都合が悪い子供とか、普通に捨てられるからね。


不具の子とか、物狂いとか、そうじゃなくても食わせられない子供とか平気で捨てる。


避妊しないけど、避妊する必要がないくらいに子供の命が軽いんだよ。


……いやしかし、それでも、女に孕ませたテメェのガキを捨てろと命じるほど終わってないよ俺も?!


よ、よし!こうしよう!


全員が安心してガキを産めるように、回復術師の手配をする!


そして、子供が成人するまで育てられるくらいの金を作ってやる!


せめて金くらいは出さにゃならんだろ。俺も好き放題中に出したんだから……。




「そんな訳で俺は、一発ドカンとデカく稼ぐ為に、森の奥地まで来たのだった」


「師匠!あっし、勉強したんで分かるでやんすよ!そういうの、死亡フラグって言うんでやんすよね?!」


「大丈夫、私は死なないわ。精霊が守るもの」


「死ぬやつでやんすよねそれ????」


死なねーよ!平気平気!


「良いかザニー?狙ってんのはこの森の主。かつて領主が百人の兵士と共に追い立てたが、半数以上の兵士を殺されたという大魔獣。その名も、『極雷狼王』だ」


噂によると、熊くらいでかい蒼白い狼で、常に帯電してて、雷を放射してくるバケモンだとか。


森の奥地を縄張りにしていて、そこから出ることは滅多にないが、一度出てくると三桁くらいの死傷者を出すクソ害悪モンスターなんだとさ。


ご領主様は当然に、この狼王に懸賞金をかけていて、その金額は先先代の領主からの引き継ぎで積み上がり……、なんと三億ベル!


今手持ちの金全部と、三億ベルもあれば、愛人の子供達全員に充分な遺産を残してやれるはず……。


「やるぞ、弟子!」


「は、はいでやんす!」




まず、森の奥地に翼の精霊ガルダで移動します。


雷で撃ち落とされたら流石に死にそうなので、森の奥地に着いたらガルダから降ります。


狼王を見つける為に、風精霊シルヴェストルを複数放ちます。


見つけます。


罠を張って誘き寄せます。


「……こんな感じの作戦で行こうと思う」


「えっと……、狼王って賢いんでやんすよね?どうやって、罠にかけるでやんすか?」


「こうやって」


俺は、スキルレベル5になって増えた召喚リストから、ある精霊をピックアップした。


その名も……。


「来い、『サテュロス』!」


『はいはいはーい!』


半人半獣、酩酊の精霊、サテュロスだ!


「ふぎゃ?!くっさ!!!酒臭いでやんす!!!」


「サテュロスは要するに酒の精霊だ。アルコールを大量に出せる……。揮発させた大量のアルコールは、お前のようなリカントや獣からすると、頭が痛くなるような刺激臭だろうな」


「わがっでるならやめでぐれでやんず……!」


「すぐにやめるよ……」


「グオオオオオオッ!!!!!!」


「……こいつを仕留めたらな」


おーおーおー、来なすった来なすった。


クソデカ狼がバリバリ帯電しながら、赤く充血した目から涙を流しつつやって来た。


「ゔぎゃ!ぎだでやんず!どうずるでやんずが?!!!」


「どうするもこうするもねーよ、やることをやるだけだ……。来たれ水精霊!『ニンフ』召喚!」


『はあーい』


ニンフを多めの魔力で膨らませて召喚する。


「ニンフ、純粋な水だけを抽出しろ」


『はあい』


「その純水で、奴を溺れさせろ」


『はあーい』


うん。


純水は絶縁体だからな。


電気を通さないはずだ。


「ブハッ!!!!」


あーダメだありゃ。


もんのすごい肺活量で、気道を塞いだ水を噴き飛ばした。


「うーん……、どうすっかな?」


「何言っでんでやんずがあああ?!!!来でる!ぎでるゔぅ!!!」


うお、突進。


「『ゲーノモス』、石の盾」


『むぅん!』


即座に、土精霊ゲーノモスを呼び出し、石の盾で身を守る。


速いなー……。


風精霊シルヴェストルで真空にして窒息死させようかなと思ったが、アレはこんな風に素早く動き回るやつにはやりづらい。


んー……。


やっぱり、嫌がらせに徹するか。


「ゲーノモス、石のドームで俺達を守れ。サテュロスはもっともっと酒をばら撒け」


『むんむん!』『良いでしょう!』


アルコールの雨が、土砂降りみたいに降り注ぐ。


「ブェガァァアアアア?!?!?!!?」


うわ、ヤバいくらい泣き叫んでるぞ狼王。


まあそらそうだな。


人間で言えば……、玉ねぎ切る時の何千倍くらい痛いだろうか?催涙スプレー零距離射撃!みたいな感じ?


……うおお、メチャクチャに暴れ始めたぞ。


もの凄い破壊音が石のドームの外側から聞こえる。


しかも、ばら撒いたアルコールに、狼王が放った電撃で着火され、大変なことになってる。


うーん、失敗だったかな?


……いや、そうか。


これなら行けるんじゃないか?


「シルヴェストル、ドームの外側の酸素を徐々に減らしていけ。バレないようにな」


『うん、やってみる』


燃え盛る炎、放出される二酸化炭素……。


そんな中じゃ、息苦しくなるのもおかしくない。


だけど、もしも、二酸化炭素で息苦しくなるのに混じって、こっそり酸素を空間から抜かれていたら?


「ゲーノモス、覗き穴が欲しい、ここんところをガラスにしてくれ」


『むぅん』


「……ふむ、弱っているな。今なら肺に水を送り込んでも抵抗されないかもしれない。ニンフ、もう一回、さっきと同じように水を顔に」


『でもお、火がいっぱいだから、魔力がたくさん欲しいわあ?』


「持っていけ。但し、今回は全身じゃなくて鼻と口だけを塞ぐんだぞ?」


『はあい』


そう言って、ニンフが水の塊となって狼王の顔を塞ぐ。


「ガッフ!フゥ、ガッ……!」


必死に抵抗する狼王。


かわいそうだなあ。


「シルヴェストル、一気に酸素濃度を下げろ。全力でだ」


『うん、分かった』


「ハ、ハ、ハーッ?!ヒィ……?!」


気付いたらしい、逃げようとしている。


「ニンフ、もう一度顔を塞げ。……そうだ、今度は空間中にあるアルコール成分を使った水の玉で顔を塞ぐんだ」


『はあい』


「ギャワ!!!キャウゥ?!!ウゥーーー……ッ?!!!」


拷問ってこんな感じなのかなあ?


なんか動物虐待みたいで気分悪いから、さっさと死んで欲しいんだけど……。

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