第13話 結局、女が好きなのってオラオラ系だからな
徒党組員募集の掲示を、冒険者ギルドに出した。
人が集まるまでしばらく待機。
その間、俺は、受付嬢ちゃんとデートをすることになった。
受付嬢ちゃん。
名前はスティーリアというらしい。
王都で生まれ育った商家の三女で、学と美貌があるので冒険者ギルドの受付嬢になったそう。
冒険者ギルドの受付嬢は、有能な冒険者をギルド側に引き込んで離さないようにする、ハニートラップ的な意味合いもあるらしい。
そんなこと、冒険者である俺に言って良いのか?と問えば、「ドーマさんは分かってるでしょう?」と返してくる。
性格は、割とマジで金に汚いが、逆にこうも残念美女だと好きになってくるというもの。
色の濃いブラウンの髪を編み込みにして、前髪を直線に切り揃えた美女で、年齢は十代後半程度。
いつも優しげな微笑みを浮かべているが、どことなく胡散臭い。
そんな女だ。
そんなのと、俺はデートをすることになった。
まあ、観光名所があるような街というか世界観じゃないし、デートってのは大体、食事を奢るとかそんなもんだ。
しかし困ったことが一つある……。
この世界での飲食物は色んな意味で怖いから、俺は口にしていないのだ。
寄生虫、ボツリヌス菌、サルモネラ菌……。
色々な意味でヤバいので……。
食事の度に当たったら死ぬガチャを引くのはあまりにもダルい。健康体チートがあるとは言え、試すのはヤダ。なので俺は、基本的に、召喚スキルで呼び出したものしか食べないのだった。
いや本当にね?
産業革命期のイギリスよろしく、雑草を煮出した汁に絵の具で色をつけて「紅茶です!」と宣言して売ってるレベルの店舗が20%くらい。
混ぜ物をしている店が70%で、残り10%は取り繕うことすらせずゴミをお出ししてくる。
核地雷と地雷とブーピートラップしかない有様。飲食店に入ってなんでダメージを受けなきゃならないんですか?って感じ。
なので、良い感じの飲食店など、俺は知らない。
これには俺も参った。
衝動的にデートに誘ったは良いが、ノープランなのだから。
男女平等だの何だのと綺麗事を抜かすアホが男女双方に増えてきた昨今だが、究極的には、女という生き物は強い雄に従属することが本能的な幸せ故、「振り回してやらなければならない」んだよな。
このままでは、デート先を女に聞くみたいな、非常にダメな展開になってしまう……。
ええい、仕方がない。
こんな時の為に貯蓄しておいた魔力回復薬を、俺は鞄から取り出した……。
俺のスキルレベルは依然3である。
呼び出せるもののうち、最大のものが……。
「出よ、翼の精霊『ガルダ』!」
『グオオオオッ!!!!』
人複数を乗せて空を飛べる、翼の精霊。
金色の鳥、ガルダなのである。
俺はガルダに乗って、受付嬢……スティーリアを迎えに行った。
「な、ななな、何ですか?!!」
急降下して、待ち合わせ先のギルド前に突撃。
当然、腰を抜かすスティーリア。
ちょいとおめかししてきたらしい、軽い口紅がセクシーで良いね。
「迎えに来た」
敵襲か?!と騒めくギルドのど真ん中で、俺はスティーリアを抱き寄せた……。
「と、とんでもないですね!貴方は!」
「退屈な男は嫌いな癖に、よく言うぜ」
「はあ〜……、立てないです!立たせてください!」
「仰せのままに」
腰が抜けているスティーリアを抱き上げて、ガルダに乗せて、素早く飛び立つ。
夕暮れ時。
金色のガルダの羽毛に、沈みゆく暁の光が染み込んで、えもいわれぬ美しい輝きを放っている。
それを見てスティーリアは、無邪気に、「綺麗ですね」と笑った……。
降り立った先は、いつもの森。
「……何もないじゃないですか?!」
森……に見えるが、違うんだよな。
「んっんー、そう見えるか?」
「そうですよ!うら若き乙女を森の奥に連れ込んで、どうするつもりなんですか?!!」
「とりあえず、食事でもどう?」
俺が指を弾くと、無数のウィルオウィスプ達が偽装を解く。
森に見えていたこの場所は、実は、さっき拵えた野外休憩場だったのだ。
ウィルオウィスプ達が偽装を解く様子は、光の塊が溶けてゆくようで、幻想的だった。
「わあ……!」
現れた休憩場は、木製の天板に、軽い風除けがある建物。
中には、炊飯用の窯に、大理石のテーブルと椅子がある。
今回はそれに、シートやクッションを敷いた。
「凄いですね!術をここまで無駄遣いする術師は初めて見ました!……で、食事というのは?」
「そう……、俺が作るのである!」
そんな訳で、俺は、エプロンを巻いた。
「肉と魚、どちらが好きだ?」
「ええ?どちらも好きですけど……、今日は肉で」
そう言われたので、俺は、七面鳥を召喚する。
これを、召喚した精霊によって速攻で解体してから、玉ねぎやにんじんを刻んだフィリングを詰めて、ジャガイモやズッキーニなどと共にグリルする。
土精霊ゲーノモスの成分調整の技と、火精霊ザラマンデルの温度調節の機能で、五分も焼けば完成するだろう。超時短である。
また、食材を切るのは風精霊シルヴェストルが一瞬でやってくれるので、調理時間はほぼゼロだ。
七面鳥のロースト以外にも色々と作る。
この近くにはない海の幸をふんだんに使ったパエリアや、澄んだ色味のコンソメスープ、日本の品種改良で甘くなった野菜のサラダや、甘くてふわふわなバターロールに南国のフルーツなどを俺は出してみた。
「な、何ですか、これは?」
「美味いゾ!」
そしてスティーリアは、デザートのバニラアイスの焼きリンゴ添えを平らげてから、一言言った。
「……ドーマさん?結婚しません?」
と……。
「えー?やだよ、めんどくせー。……あ、冗談?面白いね」
「いや、本気で言ってますよ私。私の実家、自慢じゃありませんが王都に本店があるそこそこの大店です。ドーマさんの力と技術があれば、貴族にだってなれると思います」
「そうかい。そりゃ良いね」
「私は、そんな貴方を押し上げたいんです。私が見込んだ男が、偉く大きくなるところを見てみたいんです……。いかがですか、ドーマさん?」
「いやぁ、貴族とか俺にはなあ。そういうの苦手だからなあ」
「そこは私が支えますから、ね?」
「……今日はやけに食い下がるな?どうしたんだ?」
「はぁ……?あのですねえ……、ここまでされて本気で惚れ込まない女が、この世にいると思います?」
ふむ?
「黄金の高貴な従魔に連れられて空を飛び、清涼な森の奥で大理石の食卓で、見たこともないご馳走をお腹いっぱい食べさせてもらえる……。誰でも惚れるし、忠誠を誓ってしまいますからね?」
確かにな。
この世界では、「高貴な従魔」も、「大理石の家具」も、「食べきれないほどのご馳走」も、膨大な富と権力の象徴だ。
嘘か本当か、「一級の魔剣」と、「貴族の娘」が交換されたこともあるという。
そんなことが罷り通るくらいに、女の立場は弱く、人権意識は希薄で、モノの価値は高いのである。裕福さというのは、地球の感覚とは比べ物にならないほど尊いのだ。
で、その、俺の「底知れぬ豊かさ」というものを見せつけられると、金にがめついスティーリアは思うところがあったんだろう。
スティーリアの瞳は完全に俺を逃すまいとロックオンしており、ギラギラと輝いている。
「親の命令で下手な商人に嫁ぐよりも、貴方の愛人の方がまだ幸せになれます!ねえ、良いでしょう?私、愛する男にはとことん尽くす女の子ですよ?」
んー、本気の媚入れ。
気持ちがいいので、愛人にしてやるか!
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