第46話 善行するっかぁー!
「うぇえ……、頭いてぇ……」
「飲み過ぎたわ……」
「頭ガンガンゆってる……」
酷い有様だ。
俺はあの後、ギルドの宿泊室を借りて、ガラシャ率いる女船員達と乱交して一晩中楽しんでいた。
が、しかし、飲みながらヤって大騒ぎしていたので、ガラシャ以外の船員は皆、アルコールの力に負けてぶっ倒れてしまう。
仕方がないので、ゆるめに煮た粥を食わせて、頭痛薬を飲ませ、寝せておく。
「なんだい、こんな程度の酒で参っちまうなんて。不甲斐ないねえ」
「ん、節制」
ガラシャはザルなのでいくら飲んでもケロッとしてるし、メンシアはそもそも飲み過ぎないよう節制するタイプ。
「二日酔いっすか?大変っすねえ」
そして、弟子は「お酒は苦いからキライっす」とのことで、飲まなかった。
俺?俺はザルなので。
そんな訳なので、弟子とデートしてくる。
「そう言えば、太陽神殿?を見れなかったでやんすねー」
「あー、そうだな。でもまあ、バチカンに範馬勇次郎が行ったら『帰ってください』って言われるだろ?多分それと一緒だよ」
「よく分からんでやんすが、まあ言いたいことは分かるでやんすねえ。確かに、超越者には国の一番大事な施設に近寄って欲しくないでやんす」
「リーフェンハイムは、アレ、陛下がもう諦めてるだけだからな。国内の貴族の六割を俺がぶち殺したから、俺がいないとあの国は国防もままならんのよ」
「ひでえでやんすなあ……」
「でもその分、ちゃんと言うことを聞く貴族や王家にはアホほど贈り物してやってるし、有事の際には出撃するんだから、トントンじゃね?」
「んん……、そうなん、すかね?」
「そうだよきっとそう」
前線都市アガリクスの街並みを眺めて歩きつつ、俺と弟子のザニーは無駄話をする。
最近はずっと砂海の上だったから、こうして街の中を歩くのは良い気分転換になるなあ。
……と言っても、治安や街並みはお察しだが。
「うわ、見てくださいでやんす!あれ、すげーでやんすよ?!」
ザニーが指差した先には、傾いた家があった。
狭い土地に、都市計画もクソもなく、無理矢理建物を建てたのだろう。
材質も異なることから、平屋の建物の上に、二階を「乗せる」ように増築したんだな、と察せる、イカれた違法建築ナナメシティ・カタムイテルだ。
そんな建物が馬鹿みたいに連なっていて道が細い。
大通りくらいはまあ、手押し車や荷台などが通るため、最低限の広さはあるが、一方で裏道は、一度入れば二度と戻って来れない(治安的にも)ような入り組み具合だな。
いや全く、酷いもんだ。
その辺に死骸や孤児が転がってるわ、喧嘩の怒声が絶えないわで。
「おっと、ごめん、よ……?い、ぎゃあああああっ!!!!!」
今なんて、中学生ぐらいのガキが俺から財布をスろうとしてきたもん。お返しに指を捩じ切ってやったけど。
「気にするな、若者よ。頑張れよ!」
「ゆ、指があああ!!!俺の指いい!!!」
俺はスリの若造に激励の言葉を投げかけながら、捩じ切った指をザラマンデルに食わせつつ、前に進む。
「ひゃー、相変わらず容赦ないでやんすねー」
半笑いの弟子。
「怖くないか?」
「はは、あっしの生まれ育ったスラムじゃ、もっとイカれた奴がいたでやんすよ。むしろ、しくじったスリを指だけで許すなんて優しいっすねえ」
「そうか」
そんな話をしつつ、向かった先は……。
街の裏手。
スラムだった。
スラムに来たらやることは決まっている。
「はいはーい、女の子は集まれー、拾ってやるぞー」
「食事もあるでやんすよー」
炊き出しだ。
いや、むしろこう、炊き出し(スカウト)って感じ?
俺は大きな鍋に見せつけるようにして肉をざーっと入れて、野菜を切ってゴロゴロと放り込む。
……ごくり。
誰かの、生唾を飲む音が聞こえる。
効くだろうよ、スラムじゃ滅多に見れない新鮮な肉と野菜、それの煮える匂いだ。
「ほーら、パンもあるぞ!王様が食べるような白いパンだ!」
机を出して、その上に大量のパンを置いて見せびらかす。
「見ろ見ろ!こんなにあるんだぞ!スラムの全員で食ったって余るくらいだ!」
こうして煽って、煽って……。
「あ、あのっ!く、ください!食べ物をくださいっ!」
釣れた!
死にかけの老人、傷病人。というか男。
こういう奴らに施すつもりはないが、露骨に罵倒すれば本命が逃げていく。
仕方なく、そんな奴らにも餌をくれてやる。
本命はもちろん、こっち。
「はむ、はむ……!」
「おいしいね、おねーちゃん!おいしいね……!」
顔の良い女の子だ!!!!!!
当たり前だろう、こんなふうな可愛い女の子が、こんな辺境のスラム街で野垂れ死ぬなんて、世界的な損失だもんな!
俺が拾ってやらなきゃなあ!!!!
「こんにちは」
「あっ、こんにちは?」
この子は……、おお、珍しい。
シャドウフォークか。
リカントが、獣の特徴を持つ、所謂「獣人」。
ファーブラーが、人より優れた超人、所謂「亜人」。
そして、シャドウフォークは。
魔眼や魔角、魔肌や魔尾など、「魔神の祝福」を受けた部位を身体のどこかに持つ者……。
つまるところの、「魔人」である。
シャドウフォークの「魔器官」には、凄まじい力があるんだよ。魔器官一つにつき一種類の、固有の魔法が宿っているんだ。
で、目の前のこの姉妹だが……。
二人とも共通で「魔肌」こと青色の肌を持ち、「魔角」の二本角を持ち、尖った「魔尾」を持つ。
更に、姉の方は「魔眼」と「魔翼」を。
妹の方は「魔殻」と「魔髪」を。
それぞれ持った、かなり高等なシャドウフォークだった。
言ってしまえば、「上級魔族」みたいなもんだ。
持つ力的にも、スカウトは必然だよな。
まあ他にもそこそこ強そうなファーブラーやらリカントの男もいたが、それには一切声をかけない。めんどいので。
「シャドウフォークかな?」
「そ、そうだよ……?」
「いじめないで……!」
怯える二人に、俺は手を差し伸べる。
「うちにおいで、飼ってあげるよ」
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