第53話 大胆なオリチャーは主人公の特権

バレアへの旅。


どうやら、東の方は雪国だったらしい。


この雪国を抜け、更にもう一つの国を抜けた先に、学術都市バレアがあるんだとか。


前も言ったが、この世界の地理環境ガバガバなのはモンスターのせいだな。


その地に巣食うモンスターの王、いわゆる「ボスモンスター」が、その溢れる魔力で、周辺環境を己に住み良い土地へと変えてしまうのだ。


故に、基本的にどこも環境は厳しめで、人が生きるには適さない。


そこを、俺のような転移者などの力がある英雄が、ボスモンスターを倒して土地を平定し、人の住める領域にしていく……。


それが、この世界の基本らしい。


もちろん、力をつけたモンスターが、英雄がいなくなった国に攻め入って滅ぼした!とか、そういうこともよくある話だ。


そのカウンターとして、この世界の人類は、それぞれ一人一つの「スキル」を持ち、敵を倒して魂を吸い取れば「レベル」が上がるというシステムの加護がある訳だな。


……それはいいとして。


「いやー、寒いからなあ!寒いからなあ!」


「あーれー!旦那さまあ、やめてけろー!」


俺は今、護衛の女リカント達にセクハラをしていた……。


何故か?


雪国だからである。


最初のうちは、なんか寒いかなー?くらいのもんだったのだが、この国に入ってから三日もすると雪が降り始め、一週間が過ぎた今では、30cmはそこらに雪が積もっている有様だった。


また、風が強く、雪と氷が混じった旋風が肌を刺す……。マジで寒い。


フェイ族とシャドウフォークの子達は寒いのがダメらしくて早々に暖かな馬車の中に引きこもった。


しかし、基礎代謝の高さと体毛の多さなどで寒さに耐性がある女リカント達は元気いっぱい。


おまけに、なんかホカホカ湯気が出ている。体温が高いからかな?匂い立つなあ……!


そんな訳なので今は、天幕を出して野営しつつ、女リカント達に温めてもらっているところだった……。


「うう……、旦那さまぁ、護衛のお仕事はしなくていいだべか?」


グリズリーのリカント、エプシィ。


身長230cm、筋肉ムキムキで更に乳も尻もデカい大女だ。


田舎から出稼ぎに来ていたところを騙されて借金漬けにされていたので、借金を俺が払ってやり身請けした。


「護衛?あー申し訳ないが、君達は麗しき飾りなんだよ。言ってしまうが、俺が一番強いんだから、俺を守るやつなんて必要ねーんだわよね」


「はえー、そっかあ。そうだべなあ」


「エプシィも休暇だと思って、もうちょっと気を抜いてもらって結構だ。もちろん、他人の目があるところでは、貴族の護衛に相応しい……とまでは言わずとも、ある程度のお作法を見せてもらわなきゃ多少は俺も困ったりしたりしなかったりするかもしれないが」


「んだら、オラ、旦那さまの新しいややこが欲しいべ!」


「あーうんうんそうね、バレアに行くまではこの面子で動く訳だから、デキちゃっても仕方がないね!生物として正常な聖なる営みだからね!」


「ひゃあー♡」


性交ヨシ!


「よくねーよですよ、旦那」


お、ラーテルのリカント、ラジャだな。


小柄ながらもバキバキに割れた腹筋と太い腕がかわいいね。


鼻に傷のある少年っぽい面を俺にぐっと近付けて、ラジャは言った。


「オレらリカントは、孕むとヒトより早く産んじまうんだよですよ。分かってんだろ?」


「あー、そうね。旅の途中に重いお腹を抱えたまま移動させんのも可哀想だし、避妊するかー」


「あうぅ、残念だべ……」


項垂れるエプシィ。


「おーよしよし!」


適当に撫でておく。


するとまたラジャが……。


「ん!」


と、袖を引っ張ってくる。


んー?


「寂しいからオレも構えですよ」


んー!


かわいいね!


そんな甘えたことを言いそうにない顔つきの子なのに。ギャップ萌えってやつ?


そうしていると、残りのリカント……、虎族ヴァイス、オオカミ族ディオナの二人もくっついてくる。


「旦那!構え!」


「旦那、撫でて」


んー、これまたかわいい。


「いやー、全員、筋肉ムキムキのイケメンちゃんなのに、恥ずかしげもなく甘えてくるね君ら」


「え?何でだです?群れが少ないの、寂しいだろです」


「オラも、もう一人は嫌だべ……」


あー……?


まあ、リカントはそうなのか?


獣だもんな、群れたがるのか。


じゃあ、群れの長として、しもべ達を可愛がってあげちゃおうか!


たいちょーさーん!!!!




「フレンズはフレンズでもセックスフレンズなんだよな」


「いや妻なんでやんすが」


「そうね、ゴメン。いつもの失言だ、許して許して」


「大丈夫でやんす!師匠の言葉は、みんなあんま分かってないんで、真に受けてないっす!」


うむ、残念ながら反論の余地がねえ。


「えー、でも愛してるのはホントだぞ〜?ほら、ちゅー!」


「ひゃあ♡師匠ってば〜♡」


んー、かわいい。


可愛さA+ってところだな。破壊力で言えば超スゴイ。


そんな風に弟子を可愛がりながら、俺は吹雪がびひゅおうおうおうと拭いているクソ寒空間の中にログハウスを召喚して寛いでいた……。


「……で、師匠。今、どこに向かってるでやんすか?」


「分からないつオブナイツ」


遭難?……そうなんですか。


「……え?遭難してるでやんすかこれ?」


「うんうん、迷子だね。それもただの迷子じゃねえぞ、世界的迷子だ!って感じ。まあ問題ないでしょ、肩の力抜けよ」


「……まあ、暖かい家の中で熱い食い物を食えるんでやんすから、問題ないっちゃないでやんすね!よーし、あっし、持ってきたゲームやるでやんすよー!」


そう言って懐からウィンテンドートゥウィッチを取り出すザニー。ソフトはポキモンだ。


外はびひゅおうおう。出たら死ぬな。


……学術都市、か。


……別に、行くのはいつでも良いんだよな。


なんかこう……、分かる?


オープンワールドゲームでさ、メインストーリーを進めるために移動していたら、その道中でサブストーリーのクエストギバーがいて、寄り道したくなるって言うか……。


はい、寄り道しまーす!


吹雪の先に何があるか、見てみたくなっちゃった!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る