第66話 会計主任スティーリア
「スティーリア」
「あら!旦那様!」
スティーリア。
この子は、俺がかつて冒険者だった頃に口説き落とした、ギルドの受付嬢だ。
今は、俺の名前を勝手に使って、地上……いや下界で商会をやっている。
その売れ行きはもう本当に凄い。
地上のあらゆるものの上位互換である、空中都市の製品。
それを、貴族相手にドカドカ売り捌いているそうだ。
スティーリアの商会に楯突けば、最悪の殺戮マッスィーンである俺が召喚(星8/闇属性/ドラゴン族 攻撃力2400/守備力3000)されて全部殺すので、調子に乗って相当阿漕な商売やってるらしいよ?
いつか天罰が下るんじゃないかな?センターマンみたいな双子が手みたいなロボットに乗って神の雷が……。だがそれは今日じゃない。
寧ろ、天罰が下るんなら俺にもお願いしたい。どうなるか興味がある。
で……、ここでちょいと疑問。
「お前さ、下界と商売やってるらしいけど、何を対価として受け取っているんだ?」
空中都市には、ありとあらゆるものがあるはず。
下界のものが必要か?
「これです」
何かを渡される。
これは……、血色の水晶?
何これ?と訊ねる前に、スティーリアが口を開いた。
「旦那様、レベルアップの原理はご存知ですか?」
「え?ああ、『魂(エクスペリメント)』を殺した存在から吸い取ることで、存在力が底上げされ、心身が頑健になるんだよな?」
「はい、その通りです。そして、その石の名前は、『魂石』です」
……なるほどな。
つまり、下界の連中から、経験値を貰っている訳だ。
「考えたな」
素直に感心したわ。
「ふふふ、魂石は、強力な魔力源としても活用できますから、予備のエネルギー源にもなるんですよ?」
ほうほう?
この子達なりに、この空中都市を守り、存続させようという意思……ある種の「忠誠心」はある訳ね。
私欲……もあろうが、家族愛と忠義もある、と。
良いじゃない、そういうの?
俺はただズルをするだけの性根が卑しい奴は嫌いだが、上手くズルをしようとする奴は寧ろ好きなんだよ。
スティーリアは多分、本質的に、金が好きだ。
いや、金そのものではなく、金を稼ぐのが好きなんだろう。
現物の金すら、なくても良いんじゃないのか?富そのものに興味はなく、富を集めるシステム構築に喜びを見出すタイプ。純粋な商売人ってやつ?
下界の連中から富を集める、その個人的な趣味を楽しみつつ……、空中都市の一族にも利益を齎す。
めちゃくちゃ楽しんでると思うぞ、こいつ。
俺に捨てられたら即死する立場ではあるんだが、捨てられるかどうかで悩まず、「自分は役に立っているから捨てられない」と考えているんじゃないか?
……どうでもいいが、非戦闘員のスティーリアがこんなに胆が座っていて、エリカも穏やかに生きているのに、戦闘員のはずのヒルザとダイアナがあんなに無様に「捨てないでぇ〜!」とか言ってるのマジで面白いな。
俺、無様に命乞いしてくれる女の子、大好きなんだよね。あんな風にプライドをドブに捨ててヘコヘコペコペコしてくれんなら、そらもう一生飼い殺しにしてあげるわい。
対等な人間関係ってマジでないからなあ。
友人でも夫婦でも、声が大きい奴とか金持ってる奴とかが上に立つだろ?
いつも良い思いするのはガキ大将だろ?
お小遣い制とか言って稼いだ金の殆どを取る妻の方が偉くないか?
友達グループにも旗振り役、リーダー役がいなかったか?そいつが中心人物じゃなかったか?
ないんだよ、本当に平等な人間関係って。
そして俺は、他人に頭下げられて、媚び入れられるのだーい好き!罪悪感も苦痛も全く感じない!
亭主関白で、リーダー気質で、仕切り屋だ!
だから、女達に媚びられて、愛されて、尊重されるのは、幸福でしかない。
夫婦は平等!だなんて、お為ごかしは一切無しだ。
養ってやるよ、良い思いさせてやるよ、永遠に。欲しいものはなんでもくれてやる。
……だからここで、永遠に、俺のおもちゃをやっていろ。
そういう訳なんですねえ。
けど、だからと言って、思い通りにならない女も嫌いではない。それはそれとして面白い。
「旦那様!私は稼いでいますよ!全て、全て、貴方の為!一族の為!」
その点、スティーリアは上手いよな。
俺が怒らない程度に、俺の予測から外れようと、少し足掻いてみせてくれるんだから。
本当に私利私欲に走れば、俺の好感度は下がるだろうな。
けれど、怯えて震えているだけでは、俺からの寵愛は得られない。
バランスだ、バランス。
俺の反感を買うっぽいようなポーズをしてみせて気を引きつつも、忠義を示して、最終的には許せる許容範囲を超えないようにしているとアピールもする。
まー、好きな子にイタズラするバカガキって感じ?いや、ちょっと違うか?
少女漫画の王子様ムーブ?違うな。
「旦那様!旦那様!私が集めた、私の富を!あげます!全部あげます!私から受け取ってえ♡♡♡」
とにかく、俺の気を引こうとしてる訳だ。
後は純粋に、貢ぐ楽しさってのもあるっぽい。
「良いぞー、お前の全部を奪って、使ってやるからなー」
「はぁあああん♡♡♡」
スティーリアは良い女だなあ。
愛してるぞー。
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