第43話 探索の最前線に来たので
しばらくの航海。いや海じゃないけど。
……航海によって、俺達は、ジャムールの最北端に来ていた。
「ここが、ジャムールで一番北にある街、『アガリクス』でやんすか〜!」
ガラシャの砂走船からぴょんと飛び降りたザニーが、はしゃぎながらキョロキョロと周囲を見回す。
俺もついでに、街並みを見てみる。
ジャムールは、砂と石の王国で、オアシスを擁する砂漠の都市だったが。
このアガリクスは、もっと厳しげなイメージというか、雰囲気があった。
未探索領域に向けて、港なのに石造りの城壁があり、まるで彼方から来る何かを押さえ込んでいるかのような形の街で。
事実、未探索領域を探索する人々のための橋頭堡であり、未探索領域から攻めてくる魔物達を押し留める要塞でもあるんだとか。
だから、文化面では見るべきところはないが、仕事には困らないのが良いところなんだとか。
ジャムール王都では、限られたオアシスの富を享受できるのは上級の国民のみで、王都でのし上がろうとするよりかは別のところで生きた方が楽らしいな。
まあ、東京で一人暮らしはキツイから、地方で穏やかに暮らした方が良いってのはそうね。
「アガリクスは、未探索領域の最前線だ。補給ができる最後の地点だよ」
ガラシャはそう言いつつも、部下達に指示を出して、停泊した砂走船に留守番を置いた。半舷上陸というやつである。
「ここの外、未探索領域はね、ヤバい魔物が山ほどいるんだ。砂漠の秘宝を探さなくっても、デカい獲物を仕留めりゃ、それだけで大当たりさね」
そんなガラシャが指をさしたのは、小型の一人乗りホバーバイクのような砂走船に跨って、投げ槍を構えている男達だった。
何アレ?世紀末格闘漫画みたいな感じのやつ?
そう思って見ていると……。
『オギョオオオオ!!!!』
「いたぞ!大物だ!」
「槍投げー、放てぇ!!!」
『ンギョエエエ?!!!!!』
「かかった!」
「団長!かかりやした!」
「よぉし!引っ張れ!」
30メートル程度の砂蛇虫が、砂海から顔を出し、そこに屈強な男達が槍を投げつけるシーンを見た。
槍投げをする男達は、身長が高くムキムキで、日に焼けた赤褐色に近い肌をしている。
そいつらは、地球人類には不可能であろうとんでもないパワーで槍を投げつけて、砂蛇虫を弱らせていた。レベルアップの効果ということだろうな。
槍には、太いロープらしきものが結ばれていて、穂先は矢のように返しがある。砂蛇虫に刺さったら、これを引っ張って逃がさないということだろう。
ああ、そうか。
捕鯨みたいなものか。
「ほら、見てみな。仕留めた砂蛇虫の解体だ。牙は槍の穂先に、骨は肥料に、肉は食い物に。脂肪は溶かして油にするし、皮は鎧や服にして、筋は糸になって、臓物は薬になる……。捨てるところがないのさ、砂蛇虫ってのは」
なるほど、ますます捕鯨だ。
「因みに、アンタは食わなかったから知らないだろうけど、ウチの船に積んでる干し肉も大抵はアレだよ」
へえ、そうなんだ。
「じゃあ今後は、俺がいるから補給の問題はないな。なんでこの街に寄ったんだ?」
「そりゃまあ、理論上はね。けど、アタイらはアンタと違って人間さ。こうして、砂海じゃなくって、陸に上がっての休憩が必要なんだよ」
ああ、まあ。
確かに、それはそうだろうな。
砂走船の航海も、海でのそれと同じく厳しい重労働だ。
陸に上がって羽目を外さなくては、こんなきつい仕事はやってられないだろうよ。
「そっかそうだな、じゃあしばらく休憩だ。どうだガラシャ、そしてメンシア?俺と一緒に御休憩ってのは?疲れが取れるぞスッキリとな。いや、肉体的には疲労するかもしれんが」
「なんだい?……ああ、抱かせろって?」
「ん」
「そうそう、楽しもうぜ」
「どうするよ、メンシア?」
「ん、私は構わない」
「アタイはー……、んん、まあ良いや。男娼買うよりかは良いだろうしね」
貞操観念ガバガバでヨシ!
……まあぶっちゃけ、貴族の生まれだ、とかの特別な事情がない限り、基本的に大人と言える女達はほぼ全て非処女だ。
宗教上の理由などで貞淑さを求められるから、良いところの生まれの女とかは処女率がお高いが、田舎の人や冒険者は大抵こうだな。
まあ但し、不倫は結構デカめの罪になるっぽい?
なんにせよ、処女厨に厳しい世界だなあ。
「っと、その前に酒でも飲むか」
「そりゃあいいね!もちろん、出してくれるんだろ?」
「おう。この世界の酒は不味くて飲めねえからな」
「「「「かんぱーい!」」」」
冒険者ギルドにて。
併設された酒場で、俺達は昼から酒を飲んで宴会をしていた。
冒険者ギルドは基本的に、酒場が併設されているからな。
酔っている状態で仕事をするなって?
いや、そもそもこの大陸は水資源があんまないから、アルコールを添加しないと衛生的な水を確保できんのよ。
だから嫌でもみんな薄いエールを飲む。
エールが出れば食い物も食いたくなるよな?
店側としても、遠出する冒険者向けに昼飯やら弁当やらを作って儲けたい!というのもあるだろう。
故に、酒場がある訳だ。
無論、冒険者が昼から酒を飲んで酔って暴れるクズであることは否定しないが、事情があると言えばある訳なんだよ。
まあ、こうして宴会場を用意せずとも良いのは楽なんでな。
あるものは使わせてもらおうじゃないか。
「すまないが、場所だけ貸して欲しい。宴会をするんだ」
「ああん?酒を頼まねえのか?舐めた野郎だな……」
受付にいるおっさんは、俺に対して苦言を呈する。
舐めた態度にちょっとイラつくが、飲食店に対して「なんも注文しないけど場所だけ貸してね!」と言っている俺の方がどう考えても非常識なので、今回は少し下手に出る。
「だからすまないって言ってんのよ。もちろん、無茶な願いなのは分かってる。金を払うんで、どうにかならないか?」
俺が交渉をしようとすると……。
「よう、ボナンザのとっつっあん!」「ん、久しぶり」
二人が前に出た。
「ガラシャ!メンシアもか!休暇は終わったのか?」
受付のおっさんは、ボナンザというらしい。
見た目は、この国の人間特有の日に焼けた肌をした、黒髭ハゲ親父だな。
「ガラシャとメンシアの仲間だってんなら仕方ねえ!空いてる席を自由に使いな!」
ほほー、これが金冠位冒険者の権力パワーという訳か。
「アタイは、親はいないがこの街の生まれでねえ。ちょっとばかし顔が利くのさ」
「へえ、そうなのか?」
「ああ。治安はお世辞にも良いとは言えないけど、悪くない街さ」
ふーん。
「さ、座りなよ、旦那。アンタの話をみんな聞きたがってる……」
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