第44話 新人君、そんな端っこで何やってるの?飲み会なんだからもっと職場の人とコミュニケーション取ろうよ

アガリクスの冒険者ギルドは、街の中で一番大きな施設だった。


何せここは、未探索領域の最前線。


何もしなくても毎日のように獲物がやって来るし、「砂漠の秘宝」のように古代文明の遺産らしきアイテムが見つかることもよくある。そんな場所だ。


つまり、「儲かる」土地なのである。


そりゃあ、冒険者も集まろうというものだ。


他にも、「迷宮都市の大ダンジョン」や、「享楽都市」など、世の中には他にもっと稼げる土地はあるらしいんだが……、この辺境の地では、「砂漠の国の未探索領域」が一番の稼ぎ所だそうだな。


故に、この街の冒険者ギルドの規模はとても大きい。


ジャムール王都よりも倍近くの規模があるように思う。


どうやら、緊急時の物資集積場も兼ねているらしく、大きな地下室と堅牢な建物を持つ、巨大な館だった。


無論、中身は他と変わらない。


冒険者という名の社不のクズ共が昼間から屯するクソみたいな空間……。


冒険者の位階は、下から「革板」「鉄章」「銅盾」「銀剣」「金冠」とあるのだが、「鉄章」以下の冒険者の扱いは、ほぼ流民に対するそれと変わりない。


亜人……まあリカントとかファーブラーとかを、この世界の人間はビンビンに差別しているとは言ったが、マジな話、この世界は「人権がない奴に厳しい」のだ。


人権って言葉はないんだが、まあニュアンスを理解してくれ。


つまりは、リカントやファーブラーみたいな「異端」とか、流民のような「何するかわからない奴」に対して、この世界の人々は、それらを人と認めない。


するとどうするか?


平気で虐げ平気で殺してくる。人権ないんだもん、人じゃないんだもん。何やっても良いでしょ?


実際、その人権がない流民である下級冒険者も、ゴロツキ同然のクズであるので問題は特にないのでセーフなのだが。


冒険者は、「頑張れば人権を得られる救済措置」、つまりはこの世界流の福祉なんだな。


話が長くなった。


俺が言いたいのは二つ。


下級冒険者は、ゴミ同然の扱いを受けるということ。


そして、下級冒険者に甘んじているような奴らは、その扱いを受けても仕方ないゴミ共であること。


この二つだった。


「退けって、言ってんだよ!!!」


「ぎゃあああっ?!!!」


「嘘だろこの女?!ギルドで抜きやがった!!」


えー、速報です。


現在、アガリクスの冒険者ギルドで暴行騒ぎ。


金冠位冒険者のガラシャさん(28歳)が、戦闘用のサーベルをギルド内で抜刀し、下級冒険者の一人を斬りつけました……。


「現場のザニーアナウンサー、そちらどうなっておりますか?」


「うっす!こちらザニーアナウンサーでやんす!ガラシャ容疑者は、下級冒険者さん複数にナンパされ、ブチ切れて斬りかかったんでやんす!」


そういう訳だった。


「お、おい!良いのかよ?!」


「そ、そうだ!お前ら!この女、ギルド内で剣を抜きやがった!御法度だぞ?!」


「ギルド員!見てたろ!こいつを取り押さえろ!!!」


ナンパをしに来た鉄章位冒険者の男達は、そう言って怒号を上げた。


……だが、ギルドの職員達は鼻で笑い、銅盾位以上の冒険者達は我関せずと離れていった。


「な、なんだよ?!俺、なんかおかしいこと言ったか?!」


「ギルド内で剣を抜いた奴は、全員で叩き潰すんじゃないのかよ?!」


「……そりゃそうだ。ギルド内で剣を抜くなんて、許されるもんじゃねえ」


お、受付のおっさん。


確かボナンザだったか?


髭面に丸い腹をした、大柄なおっさんだ。


「じゃ、じゃあ!」


「但しそりゃあ、お前らみたいなクズ共の『チャチなケンカごっこ』での話だ。しかもそれも、俺達ギルドが死体を片付けるのが手間だからってだけでな」


「何を……、何を言ってんだよ?!この女だって冒険者だろうが!」


「口を慎め!そいつは『金冠位』だぞ!!!」


金冠位。


冒険者の最高位。


つまるところの、「公認英雄」の印である。


少なくとも、ガラシャの名前と、吟遊詩人が歌う彼女の英雄譚は、この国の人の殆どが知っている。


そんなレベルの話だ。


「きっ、金冠位……?!ひ、ひいいっ!!!」


「そ、そんなつもりじゃ、そんなつもりじゃなかったんだ!許してくれ、許して……!」


「あああああっ!逃げろおおっ!!!」


なるほど、こいつらはガラシャのことを知らない……、つまり外国人だったんだな。


そんなこともあるだろう、ここはさっきも言ったが「儲かる」土地。他所から人がガンガン来ている。


「見たかよ?」


「ああ、すっげえ太刀筋だ」


「手首の返しだけで、相手の手首を斬り落としたな」


「流石は『幻妖剣』のガラシャだぜ……」


「どうせなら、『魔眼』を拝みたかったんだがなあ」


「バーカ、あんな雑魚にガラシャが『魔眼』を見せるかよ」


そんな風にビビられつつも……。


「邪魔が入ったね。さ、旦那!座っておくれよ!」


ガラシャは、俺を隣に座らせた……。




「なんだあいつ?ガラシャの男か?」


「男娼……じゃねえな。あの体捌き、見るからに達人だぞ」


「いや、そもそも、ガラシャが船に男を乗せてるなんてそうそうねえぞ?」


「ああ、ガラシャの男嫌いは有名だもんな」


「あいつ……、胸の冒険者証!銀剣位か!」


「じゃあ、ガラシャの旦那候補か?どこから拾ってきたんだ、あんな達人……?」


噂をされながらも、俺達はテーブル席に座った。


「さあ、酒を飲もう!今日は俺の奢りだ、好きなだけ飲んでいいぞ!」


まあ金は払わないんですけどね。


だって召喚するので……。


パチン、と。


指を弾くと出てくる酒樽。


テーブルの一つに、蛇口付きの大きなビール樽を出して見せた。


「空間系スキルか!」


「道理でな……!」


「そりゃあ、船旅をやるガラシャには、何より欲しいスキルだろうよ!」


外野うるさいんですけどー?


俺は、ビールをジョッキに注いで配る。


パチン、もう一回。


ツマミはフライドチキンとかポテトとかそういうやつ。


どうやら魚はダメらしい。見たことがないので怖いから食わないんだと。


人気なのは肉。肉と新鮮な野菜かなあ……?


基本的に味覚がガキみたいな子ばっかりなんで、出汁の香りとか厳選しても無駄。


スパイスをガツンと利かせたフライドチキンに、チーズとソースをかけたフライドポテト、甘辛いタレの焼き鳥に、スナック菓子。


あとは、おつまみキャベツとか、きゅうりにマヨネーズかけて食うとか、塩トマトとか、そんなのがいいらしい。


まあ、今日くらいは好きなもん食うといいよ。


そんな訳でテーブル一杯におつまみを出してやった。


「「「「わああっ!!!」」」」


喜んで群がる船員達……。


下っ端の子とか十代半ばくらいなんですけど、良いんですかね?まあ良いんだろうな、そういう世界だもんな。


さて、ガラシャとメンシアの話を聞いてみるか……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る