イオリ探し

「今日は昨日休んだ女子二人が来てるから小紅君は接客しなくても良いぞ」


 一旦各々の教室に荷物を置いてくることになったんだけど僕は教室に入るなり実行委員にそう言われた。というかだいぶ速く来たつもりだったけど皆ほとんど来てる……早いね。


「やりたいならやってくれても良いが……」


 若干やってくれないか? っていう感じの雰囲気を感じ取れないこともないけど生憎今日は用事がある。ほんとは色々手伝いたいけど


「ごめん、今日は休んでも良い? 時間できたら手伝うから!!」

「そ、そうか。まぁ昨日頑張ってくれたしな。了解」


 よし、これで存分にイオリに集中できる。正直手がかりが全くないんだ、時間が多いに越したことはないよね。


 今日も頑張るであろうクラスメイトに心の中で謝りながらも僕は四組の教室に向かう。


「ナル!」


 あ、カケル。

 呼ばれた声に振り返るとカケルとナナちゃんが小走りに駆け寄ってきた。ん、皆合流できたことだし行こっか。


「ええ」 「おう」


 ということで、僕の後ろに二人がついてくる形で僕達は四組の教室に入った。四組の人からしたら、急に乗り込んできた不審者三人だね、まぁ気にしない気にしない。


「聞きたいことがあるんだ。答えてくれるかな?」

「…………は?」


 ◇ ◇ ◇


 ──頼もしい背中ね。


 私──三島菜奈──は前を行くナルの背中を見てそう思った。初めて会った時はダンジョンの中でいきなり上から叫び声と一緒に落ちてきて……


 それから一緒にいるようになったけど明るくて男子らしくない──女子っぽいとは言ってない──子だと思って、イオリの件で意外な一面にも気付いたけど。


 今のナルの背中は今まで見てきたどの側面とも違う気がする。安心して、何かを託せる背中。伊織がいなくなってリーダーとしての責任を感じてるのかしら?


 いや、恐らく友達としてイオリを助けたい一心なんでしょうね。本人にその自覚がなくてもきっと深層心理ではそう思ってるはず。


そうこう思っているとナルが四組の扉を開けた。


「聞きたいことがあるんだ、答えてくれるかな?」

「…………は?」


 カイナ隊として、伊織の親友として、やれることをやるしかないわね。待ってなさい、伊織。


 ◇ ◇ ◇


 ──頼もしいな。


 俺──萌葱翔月──は前を行くナルの背中を見てそう思った。初めに会ったのはダンジョンの中で、たしか上から落ちてきたんだったか。


 奇跡的に俺が積み上げたモンスターの死体の山に突っ込んだおかげで無事だったんだよな。その後ボス部屋で殺されそうになって……


 面白いやつだとは思ってた。けど何となく弱い奴だなとも思っていた。いざとなったら自分を誰かに守ってもらわないといけないやつ。俺をチームに誘った理由もマジで自分都合だし……


 伊織のとこに連れて行った時もコイツで大丈夫だろうかと思ったりしてた。というか正直伊織にボコボコに言われて心折ると思ってた。


 でも違った。コイツは、芯がある。最初にそう思ったのは伊織を説得したとき。伊織が勘違いしたのもあるが普通あの口調で言われて諦めない奴なんているか? 俺なら帰ってたぞ。


 その後も色んなとこで思った。菜奈を助けた時、真穂人さんたちにブチギレた時……他にもたくさんあるが、要はコイツは諦めたことがない。


 いつもは弱々しくて──女々しいとは言ってない──脆い奴っぽいけど、大事なとこでは諦めない、絶対に折れない奴、それが小紅奈留。


「聞きたいことがあるんだ、答えてくれるかな?」

「…………は?」


 待ってろ伊織。絶対俺らが、俺らのリーダーが見つけ出して助けてやるからな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る