ナナちゃん奮闘記6
「うぅん……」
隣でsが目覚める。私たちは初期地点に戻ってきていた、つまり殺された。手段は分からない、でも甘いような匂いが……
「睡眠ガスかしらね」
確か治療なんかに使われる催眠ガスは無色透明な気体で甘い匂いをしているのが特徴のはずだ。嗅いだこともないので正確には分からないが現状その可能性は高い。
「眠ったところをチームのメンバーが、ってところでしょう。厄介ね」
私は早速対策を考えるが、そもそも催眠ガスをどうやって……というところからね。あの近くに人はいなかったはず。
「ね、ねぇどうしてそんなに冷静にいられるの?」
思考の海に沈む私を引き上げたのはsの声だった。横を見ると涙目になりながら私に話しかけてきている。どうして、か……
「死ぬことがないからよ。所詮ゲームにすぎない」
先生方からしたら本気で取り組んでほしいでしょうけど……最悪二人殺れるならゾンビ特攻もあながち間違いではない。
「……ッ」
「何よ、言いたいことがあるなら言いなさい」
sは何かを言おうとしているのか金魚のように口を開いては閉じている。ちょっと前までの私はこんなのだったのかしら……今はもう完全に立場が逆転してるわね。
「その……い、今までごめんなさい。ずっとビクビクしてるのに私達より成績いいから、嫉妬して……」
「あっそう。今更どうでもいいわ」
私がバッサリ切り捨てるとsは目をウルウルさせる。コイツ、この先、生きていけるのだろうか、と心配になるレベルである。ただ、そうね……
「貴方、名前は?」
「え?」
私の言葉が思いがけないものだったのかsは目をパチパチさせている。はぁ、名前を覚えてない私も悪いけど……
「えっと、
「そう、よろしく紗季。とっとと行くわよ」
s、こと紗季を待つことなく私は歩き出す。もうすでに相手の攻撃の仕組みは分かっていた。後は狩るのみだ。
「待ってよ……!」
後ろから追いかけてきた紗希に合わせて歩くスピードを緩める。驚いたように紗希に見られている気がするが私は前を向く。まだ視線を合わせられるほど仲良くなったわけじゃない。
「もういいわよ、自己バフに集中しなさい」
私は気づいていた。紗希が途中からずっと私にバフをかけ続けていたことを。いつもより身体が軽かったから。彼女の真価は自己バフと攻撃魔法の組み合わせにある。
「全力で終わらせるわよ」
「う、うん……」
そこは力強く頷いてほしいところだけど私の変わりように驚いているんだろうし仕方ない。私は自分と紗希を風で飛ばしながら伝える。
「金持ちなんだから、終わったら高級菓子の一つくらい寄越しなさいよ」
そういったものの恥ずかしくてスピードを上げてしまった。はたして聞こえただろうか……まぁどうでもいいわね。今は、とりあえず、戦いに集中しよう。
私は眼下の森を注意深く見る。
「もちろんだよ……ありがとう」
だから私はその声を聞き取れなかった。
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