イオリ、勝負に出る!

「ナルよ」

「は、はい」


 心の中であたふたしてたもんだから思わず声が裏返っちゃった。イオリは不審な目で見てきたけど特に触れることなく続けた。


「お主は、妾と小娘……月海、どちらの方が好みなのじゃ? 正直に教えてくれんか」


 なんだ、またその話? 全くどうしてそんなに僕に拘るのやら……いつも言ってるけどー、僕は──


「どっちも好きなどと言うてくれるなよ」

「……」


 僕はそこで初めて、意外にもイオリがいつも以上に真剣な目をしているのに気付いた。


「妾は、あんな小娘ではなく妾を見てほしいのじゃ」


 う、うん? 何時になく強い口調だね……

 で、でも僕のどこがいいのか全然わかんないし、僕は庶民だからイオリに釣り合うような人はもっと別にいるだろうし、だからほら、その……


「妾に初対面で飛び掛かってきたのはお前が初めてじゃし妾を遠ざけなかったのは萌葱たちを除けばお主だけじゃ」


 う、うぐ。もっともらしいことを言われた。というか最初はイオリが僕を怒らせたからで……


「妾はお主が好きじゃよ」


 …………すー、はー、すー、はー。

 すー、はぁ……と、とりあえず返事は文化祭終わってからで良いよね?


「うむ、構わん」

「そっか、それじゃ僕は教室に戻るね」

「そうそう。この話は月海にも話しておる故、今日から大変じゃろうが……」


 うっ。

 僕は今日から始まる二人の論争、もしくはアピールを想像して思わずそんな声を漏らした。


 前みたいにカケルに逃げることは出来ない。どっちかを選ばなきゃいけない。あんなに真面目に言うなんて反則だよね。ただ、


「答えはもう出てるんだよね……」


 まぁ、切り替えて文化祭の準備頑張ろう!


 ◇ ◇ ◇


 ナルが教室に戻っていった後。


「言えたのね」

「うむ、なんとかの」


 伊織の元には先程帰ったはずの菜奈と翔月がいた。


「はぁ、コイツ何時になく興奮しやがってうるさかったんだぞ」

「はぁ? ふざけないで頂戴。事実無根よ」


 言い合いを始める二人を見て伊織は思わず吹き出す。二人からの視線が刺さるが伊織は気にするわけもなく笑い続ける。そうしてしばらく笑い、


「すまんな、つい。まぁ、今回は本当に助かった、感謝する」


 とそう言う。そう何を隠そう伊織の奈留への告白は計画されていたものであり、伊織が頼み込んで自然に奈留と二人っきりになれるように菜奈たちに動いてもらったというわけだ。


「別にいいぞ。見ててオモロイし」

「えぇ、友達なんだからいつでも頼ってきなさい」


 二人らしい返事が来たと同時に、昼休みがもうじき終わることを示す予鈴が鳴る。三人は各々の教室に向かおうとするが、


「菜奈よ」


 そう言って伊織が菜奈を呼び止めた。菜奈(とついでに翔月も)は不思議そうに振りかける。伊織はニヤッと笑うと


「次はお主の番じゃの、いつでも頼るが良いぞ」


 そう言って、自分の教室の方へ歩いていった。菜奈はしばらく呆けていたが、すぐに踵を返し歩き出す。


「どした? 顔赤いぞ」

「うるさいわね! 刺すわよ」

「何でだよ、てか怖いな!!」


 この文化祭で彼ら彼女らの恋は一つの終止符を打とうとしていた。それと同時に暗い影が歩み寄るのを大海の上に住む例の方々を除いて知るものはいない。

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