萌葱翔月(←肉食系のイケメン、だけど僕の逆鱗に触れた野郎

 グチャッ


 という音が耳元で響く。すごい、人間は自分が死んだ時の音を聞き取れるのか……って思った。呑気だなぁ。あ、他人事なのは気にしないでね。現実逃避さ。


「誰だ、お前」


 あれ、誰かの声がした? いやいや僕は死んだんだから誰かの声とか聞こえないはず。あ、もしかして女神さまとかかな? 転生チャ〜ンス。


「おい、お前。何してんだって聞いてんの」


 ん? 意外と声が低い。もしかして男性……? 確かに転生=女神さまは勝手な偏見だな。別に神さまの性別がどっちだろうと関係ない。うんうん、ジェンダーレスだよねぇ。


「コイツ……どーなってんだ。全然喋らねぇ」


 喋るって言われてもねぇ。喋り方が分からないんだよぉ。あ、あれか! なんか意思を込めて飛ばす、みたいな。って、相手が何処にいるか分からないから出来ないじゃん! 視界、真っ暗だし。とりあえず、むむむむむむ。


「おーい…………いい加減起きねぇと、斬るぞ」

「はいはい、只今! おはよう御座います!!」


 突然肌を刺す殺気に意識が覚醒。思わず飛び起きた……ってあれ、足が地面に着いてる。普通、死んだら魂だけになるんじゃ。それに周りの景色もさっきのダンジョンみたいな感じだし。


「やっと起きたか……」


 僕の背後から声がする。この声は神さま! なんて事だ、僕は神様に背を向けちゃっていたのか。不敬すぎるだろ──とか思いながら後ろを振り返る。


「よぉ。俺の名前は萌葱翔月もえぎかける。んでお前は?」


 目の前にいたのは、キラッキラに輝く女神さまでもなく髭がたくさん生えたもじゃもじゃの神様でもなく、かと言って若いイケイケな感じの神様というわけでもなく……僕と同じ魔学の制服を着て日本刀のようなものを右手にもった高身長のイケメンだった。


「いや、俺は平均かそれよりちょっと低いくらいだから……多分、お前がチビなだけだぜ?」

「…………ん?」


 イケメンの何気ないであろう一言に僕の表情が死んだ。神様神様騒いでいた心も今はそよ風も吹かない全くの無になる。そう、完全なる無。イケメンも後ずさるくらいには表情が死んでいた。


「わ、悪かった。女子に身長低いと言うのは確かに良くないよな。ほんとにスマン!」


 イケメンの一言に、今度は場の温度が急激に低下し始める。魔法適正1の僕でも氷属性が得意だったのか──と普段の僕なら調子に乗っていた。けど、今はそれどころじゃない。目の前のイケメンは禁忌に触れたのだ。


「僕は……背低くないし、男だぁぁ!!」


 そう叫び、ジュニアアイドル並のルックスを持つ桃髪の美少女、の外見をする男(僕)はコンプレックスを同時に刺激しやがったイケメン(カケル)にブチギレるのだった。

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