特訓

「へーい、ジム!」

「へーい、ナル君よ。今日はご機嫌だねー」


 こんな僕と同属性の香りがする屈強な大男、ジム。彼は柊樹ジムのコーチ。僕がここに来だしてからずっと僕に付きっ切りで指導してくれる方だ。優しい、かっこいい、気配りが出来る……などなど完璧過ぎる男。僕の目標と言っても良いかもしれない。


「実はね、魔法の特訓に付き合ってほしいんだ♪」

「え?」


 僕の無邪気な(?)一言に流石のジムでも固まる。それは失礼とかじゃなく当然の反応。だって、僕は先週必死に頑張っても魔法は使えなかったんだから……いや、正確には魔法は、かな。


「大丈夫大丈夫。今日やるのは回復魔法だから。きっと出来るはず」

「回復魔法だって……?! お嬢様でも出来ないんだぞ。三島殿は多少扱えると聞くが……」


 お嬢様ってのは柊樹さんね。ちなみにジムはナナちゃんの事を三島殿と呼ふが、カケルの事を萌葱君と呼ぶ。男女差別と言われるかもだが、別に良いでしょ呼び方なんて。親しみやすさとかでも変わってくるし……っと、ここでSDGsについて語るつもりは無いんだよ。


「柊樹さんが使えない……もしかして観測不能って」

「む、どうしたんだい? やっぱり止めておく?」


 あ、ううん。それはやる。

 僕は『観測不能』がちょっと気になりながらも本題から逸れるので一旦置いておくことにした。とりあえず帰ったらプルプラさんと話してみよう。


「でも、回復魔法なんてどうやって……」

「怪我してくれれば僕が治してあげるよ♪」

「えぇ?!」


 いきなり怪我して、なんて言ったら驚かれるか……でも怪我して貰わないと特訓出来ない!


「いやいや、それならナル君がすれば良いだろう?」

「え、痛いの嫌だもん」

「それは、仕方ないな」


 仕方ないんだ……やっぱりジムは優しいね♪


「分かった。小さい傷でも良いかな?」

「うん、ありがと!」

「ハハハ、ナル君のお願いなら仕方ないな」


 そう言って、ジムはトレーニングルームから出ていく。怪我するために出ていった……うわぁ、すごい言葉だ。まぁ、僕の為にって枕言葉が付くけど。やっぱりジムは優しいね!


「あ、今のうちにプルプラさんに……」


『あの、魔力適正の観測不能って、もしかしたら攻撃のみしか出来ない……体内にある魔力が黒100%なんじゃ……って思うんですけど』


 魔力適正が比率を元にしているなら、比べる対象が無かったら観測不能になるんじゃないかな、って……まぁ、ジムの言葉が本当で柊樹さんが回復魔法を使えないなら、って前提条件はあるけどね。


「おーい、ナル君」


 おっと既読がつく前にジムが来ちゃった。まぁ、プルプラさんとはいつでもやり取り出来るし、今は特訓だぁ!


「カッターで少し切ってきた。安心して、普段の筋肉痛に比べれば問題ないよ」


 うぉ……痛そう。僕、リストカットとかよく分からないんだよね。否定するわけじゃないけど、自分が傷付くのは嫌じゃないのかな、って思っちゃう。兎に角リスカはだめだよ〜。


「さてと、じゃあ早速……」


 初の回復魔法。傷が治るイメージを持って魔力を外に出す……このとき指向性を持たせる為に緑とかの光が傷口を包み込むイメージでも……


「む……」


 僕がそんなイメージで回復魔法を使おうとした瞬間ピカーって感じに視界が白く染まったと思ったらすぐに色が戻ってきた。ぐぬぬ、何だったんだろ今の光。


「あ、そういえば傷口は……」

「治って、るよ」


 ジムが驚いた顔をしながら傷をつけていた指を見せてくる。そこには傷があったとは思えないほど綺麗な指が……傷跡さえない。


「もしかしてさっきの光って……」

「ナル君の回復魔法の光、かい?」


 僕とジムは暫く見つめ合ったあと、もう一回やってみる? と目で訴え合う。何も知らない人からしたら変な光景だろう。


「も、もう一度指を切ってくるよ」

「あ、うん」


 それから暫く僕とジムは特訓……というより実験をした。結果としてはあの光は僕の回復魔法で間違いなくて、僕の回復魔法はほとんどの傷を治せるということ。


「まさか本当に回復魔法に適正があるとは」

「ねぇ、欠損部位も治せるんじゃないかなって僕は思うんだけど」

「流石に指を落とすわけにはいかないよ?」


 だよね──と僕は思う。僕としても治せなかった時にどーしよーもないし、ジムにそこまでしてほしくはない。


「そういえば……いや、でも」

「どうしたの?」

「いや、な。こういう言い方をするのも良くないが、既に身体の一部を失っている子を知ってはいるんだ」


 語尾を濁しながらもジムは言う……その子、紹介してくれないかな。治せたら僕もその子も得するし治せなかったとしても……申し訳ないけど期待させといてごめん、だ。結局、損はしない。実験台になってもらうのは本当に申し訳ないけど……


「分かった、多分彼女は良いと言うだろうし、連れてくるよ。ちょっと待っててね」

「うん!」


 ジムが出ていく。どうやらここに連れてきてくれるらしい。多分時間かかるだろうし……あ、そうだ。

 そう思って、僕はスマホを取り出す。そう、プルプラさんとのやり取りの続きだ。返信は……あ、来てるね。えーと──

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