カケル(←肉食系のイケメンのマイバディ

「あの、カケル……萌葱もえぎさんって居ますか?」


 僕は自分の教室の隣の隣の教室の入口でオドオドしていた。ただカケルに用があってカケルに会いに来ただけなんたけどね。入口に立った瞬間「なんだ?」って感じの視線が突き刺さって……


 うぅ、僕あんまり人と話すの好きじゃないんだよ。注目されると余計に。カケルとあんなにフラットに話せたのは奇跡みたいなもんなのだ。


「えーと……」


 僕の対応をしてくれている女子が困った顔をしている。それにカケルの名前を出した瞬間ここら一帯の気温が氷点下まで下がった気もする。どうやら学校の異端児は伊達ではないらしい。


「どけ、邪魔だ」

「え、あ……ごめんね、萌葱くん」


 教室の奥からブスッした顔のカケルが出てきた。対応してくれていた女子もカケルの怖〜い声に萎縮したように小さくなってしまう。むぅ、そんな怖い雰囲気出してるから学校の異端児なんて言われるんだよ〜。


「うるせぇ。ほら行くぞ、ここじゃ目立つ」

「あ、うん」


 カケルがスタスタと行ってしまうので僕は対応してくれた女子に「ありがとうございます」とだけ言ってカケルを追った。あーもう、カケル歩くの速いんだから少しは待ってほしいよね!


 ◇ ◇ ◇


 カケルに連れて行かれたのは屋上だった。え、何々告白? と茶化したんだけど返ってきたのは「違う」っていう淡白な返答。むむむ、ダンジョンで会ったときみたいなテンションはどこに行ったんだぁ!


「……朝は嫌いなんだ、放っとけ」


 なるほど、理解納得腑に落ちた。朝嫌いな人は確かに朝不機嫌だ。ダンジョンで会った時は午後だったからテンション高くなってたのね。良かった、僕のこと嫌いになったのかと……


「んなわけねぇだろ」

「そ、そっか……」


 真顔で否定されて思わず赤面してしまう。が、カケルはそんな僕に気づくこともなくベンチに座る。この季節の屋上は炎天下で暑いからなのか僕たち以外は人はいない。


「ほら、隣座れよ。立ってたら疲れるだろ」

「え、隣に座ってほしいの?」

「嫌ならいい」


 ……朝のカケル、イジっても面白くな〜い、つまんな〜い。もっと良い反応してほしいなぁ、もうちょっと突っかかってきてほしいなぁ。


「用がないなら帰るぞ」

「ごめんて。真面目な話するよ」


 ダンジョンでは「斬るぞ」学校では「帰るぞ」カケルは脅すのが好きなのだろうか……っと、いい加減要件を言わないと本気でカケルが帰っちゃいそうだ。


「僕とチーム組んでほしいです」


 結局カケルの隣に座ることはなく、正面で腰を直角に折った。一応頼む側なのだ、誠意は見せないと……


「俺は一人でも問題ないから、お前と組むメリットがないんだ。組んでほしいならもっとメリットを示せ」


 なんだかんだ言ってカケルはチームを組んでくれると思っていた僕はその言葉に面食らった。顔を上げるとそこには完全にこちらを値踏みする目をしたカケルがいる。


「仲がいいから、だけじゃ俺は組まねぇ。一人の方が効率が良いからな」

「でも一人だと強制退学──」

「それも知ってる」


 父さんに教えられた「強制退学」ってのは生徒に伝えられることはなく、期末試験後に初めて分かることらしい。だから、カケルも知らないと思ってちょっとした切り札気分で言った……が、カケルはそれすらも斬ってきた、バッサリと。


「いつも一人だったからな。教師に呼び出される度に聞いたよ。でも、頑なに断ったら期末試験で上位に入ればって条件付きで退学は免除してくれる事になった」


 えーと、んー、正直言って万策尽きた。そもそもカケルなら快く引き受けてくれると思っていたから、断られた時点で雲行きは怪しくなっていたけど……


「俺にはやらなきゃいけない事がある。他人に構ってる暇はないんだよ」


 まるでアニメの主人公が吐きそうな台詞を言ってカケルは立ち上がった。話は終わりって事だろうか。まぁ、僕のメンタルはズタボロで話なんて──


「僕はさ、何で冒険者を目指すのか分かんない。父に憧れたから、だと思ってたけど分かんない」

「あ?」


 カケルからしたら何言ってんだ、こいつってなるだろう。うん、僕も言われる側だったら困惑した。でも言いたくて。理由はないけど、何かが僕に火を付けた。


「誰かに認められたいんだ。クラスメイトからも空気以下の扱いを受けて……初めて君と会った時、久々に同年代の人と話したよ。それが嬉しくて。それから誰かに認識してもらいたいって思って……」


 ダムが決壊したように感情が溢れ出る。カケルに会ったのが昨日で、本当にこんなこと思ってるのか分からない。けど、そう思っていたい気がした。うん、語彙力を失ったかも知れない。


「でも僕は弱いから。この学校じゃ誰にも需要はないから。認識してもらえない。でも期末試験で有名になったら……なんてね。」

「……」


 カケルは黙って聞いてくれる。別に放って帰ってもいいのに。こーゆーところがカケルは優しいやつだって思わせてくれる。と、ここで僕にカケルの言うメリットが降りてきた。


「カケルが僕とチームを組むメリット? 簡単だよ、僕の手伝いが出来る。光栄でしょ?」


 この頃からだ、めっちゃニヒルに笑うようになったのは。まるで映画の黒幕の様に……違うのは、ヒーローに倒される黒幕と違うのは、最後には勝つって事かな。


「僕のために僕とチームを組んでよ♪」

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