僕のやりたいこと(←…………黙秘で

「落ち着け。落ち着くんだ、ナル!」


 叫んだ瞬間僕はカケルを突き飛ばし柊樹さんに詰め寄ったのだが、あと一歩のところでカケルに後ろから取り押さえられた。くっ、もっと足が早かったら……


「ふむ、女じゃないと申すか……信じられぬぞ?」

「信じられなくても信じろよ!」

「うがぁー!!」


 柊樹さんとカケルの言い合いが続く中、僕は必死に柊樹さんに手を伸ばす。あ、もはや言語とか失ってるのはご愛嬌。心の中は落ち着いているけど体は本能的に動いているんでね。全ては柊樹さんが悪いんだ。


「お主、その手が届いた時何をするつもりじゃ?」

「うがぁー……え?」


 柊樹さんの問に僕の動きが止まる。何をするつもりかって? そんなの……勿論……えーと……


「衝動的に動いてる証拠じゃ。先の事を考えられないならそれはサルと何も変わらんぞ」

「えっ、と……」


 柊樹さんの落ち着いた言い草に、僕は動揺を隠せない。咄嗟に助ける求めるように見たカケルは何故か首を横に振ってるし……っと思ったら口を開いた。


「伊織はそーゆー奴さ。理由のない行動や先を見てない行動には価値がないって奴……」

「そうせねば世の中はサルで溢れるぞ? 妾はそんな世界など要らん」


 つまり、判断基準や価値観が独特ってこと……?


「独特、といえばそうだな」

「お主たちが何を言おうと勝手じゃが、妾を侮辱するなら氷漬けにするぞ」


 柊樹さんの台詞を聞いて思った。あ、この人カケルと同類だ──と。きっとカケルの「斬るぞ」が柊樹さんだと「氷漬けにするぞ」なんだ。力ある人は考えること同じなんだね〜。


「それより、用件は何じゃ。まさか今の茶番か? ならば二度と家には上げんぞ」

「いやそれより僕のことを女と勘違いしたの謝ってよ」


 いや、そんなのどうでもいいじゃないか。早く用件伝えろよ──って思った方、多いだろう。しかしだね、僕にとって……自分の容姿にコンプレックスがある僕にとって「女と勘違いされる」というのはかなり嫌なことなんだよ。ちゃんと謝ってもらわないと。


「ふむ、妾に謝れと?」

「うん、そうだよ。謝って」

「すまんかった。早計じゃった。以後気をつける」

「あ、はい。お願いします」


 もっと「何故謝らねばならんのじゃ」みたいなこと言ってくると思ってた。柊樹さん、意外と物腰の柔らかい方らしい。根は優しいのかな……?


「それよりも用件は何じゃ」

「あ、はい。えーと……再来週、期末試験がある事はご存知ですよね?」


 うぅ、敬語苦手。多分合ってるよね?


「知っておる。あと、敬語を使う必要はないぞ」

「あ、はい。ありがとうございます」


 柊樹さんが許可を出してくれたので僕は敬語を止める。まぁ、ですます口調だけど……「ご存知」とかみたいな尊敬語みたいなやつは止めた。


「それで、期末試験が何じゃ」

「実は僕とカケルとチームを組んで欲しくて……」

「ふむ、理由は?」

「えーと……チームを組むのには三人必要なのは知ってると思います」

「知っておる。じゃが、妾を誘わんでも他の奴を誘えばいいじゃろ」

「はい。そのとおりなんですけど……」

「妾の力目当てか。なら入らん」

「いえ違うくて……」

「興冷めじゃ。出ていけ」

「え、ちょ……」

「三度目は無いぞ、出ていけ」


 やばい、大ピンチ。ただ「人数足りないけど僕が弱すぎてチームを組んでくれる人がいないからカケルの唯一の当てである柊樹さんに声をかけた」だけなのにそれを聞いてもらう前に話を切られた。どうしよ〜。


「伊織、人の話はちゃんと聞け」


 カケルが前に出たかと思うと柊樹さんの額にデコピン……ちぇ、見せつけちゃって。僕なんて気持ち悪いおっさん共にしか告白されたことないのにさ……


「しかし……」

「しかし、じゃねぇ。まだナルが言ってる途中だっただろうが」

「そ、そうか。それはすまん。つ、続きを申してみよ」


 カケルの好感度が下がった代わりに柊樹さんに説明する機会が与えられたようだ。まぁカケルはね、イケメンだから? 仕方ないのかもしれないけど?


「なんかごめんて」

「まぁ、いいよ。カケルくんはイケメンだもんね、モテる男は辛いよね〜」

「ごめんってば……」

「早う、せんか」


 カケルで遊んでたら柊樹さんに怒られた。まずいまずい、早くしないとまた「出ていけ」ってなっちゃう。


「えーと……簡単に言うと、僕は友達いなくて誘える人がいなかったので、カケルの当てを頼ったら柊樹さんで……」


 要はだ。こんな皆が喉から手が出るほどチームを組んでもらいたがってる人を人数合わせなんかで誘っても良いのか不安だが他にいないんだから仕方ない。


「いや、それよりも失礼極まりないと思うぞ」


 カケルのツッコミは置いておくとして……柊樹さんの返答は如何に。


「フッ、ハハハハハ」

 突然、柊樹さんが笑い始める。え、え、何で。え、僕、なんか変なこと言ったかな……え、そんな自覚ないんですけど。え、この後処刑させちゃう?!


「妄想が独り歩きしすぎだ」


 カケルは慣れた様子で柊樹さんを見ている。いやいやそんな「こーゆーもんだ」みたいな表情されてもね、初対面だから僕には不安でしかないんだよ。カケルはもう一回「大丈夫だって」と言ってくれるけど、怖いなぁ……


「すまんすまん。そう怯える必要はないぞ」

「あ、はい」


 どうやらカケルの見立ては正しかったらしく、とりあえず処刑させることは無さそう。処刑なんてなったら期末試験とか強制退学とか言ってる場合じゃなくなっちゃう。じゃあ、でも何で笑ったんだろ?


「愉快じゃったから。他意はない。今まで妾の力目当てにチームを組まないか、という誘いはあったが人数合わせなどというしょうもない理由での誘いはなかったのでな。何よりその度胸、称賛に値するぞ」


 おぉ、なんか失礼極まりないとか(どっかの誰かさんに)言われてた人数合わせっていう理由が逆に刺さったらしい。これも普段の僕の行いが良いからだね♪


「お前、結構根に持つタイプだよな……」


 カケルの呟きは無視するとして……柊樹さんはチームを組んでくれるって事でいいんだろうか?


「うむ、勿論じゃ。これからもよろしく頼むぞ」

「は、はい! こちらこそ!!」


 こうして何とか僕はチームを組むのに必要な三人というノルマを達成出来た……のだが、このときの僕は知らなかった。柊樹さんがどれだけすごい人物なのか。どれだけ学校の人がチームを組んで貰いたがっているかを──

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