何用じゃ、小娘よ(←○す!
放課後、カケルの後ろをついて歩くこと約二〇分ほど……僕が足をせっせと動かした先にあったのは、大豪邸と呼んでも差し支えないほどのお家だ。
世界有数の大富豪が暮らしてそうな家。庭には池まであり優雅に錦鯉が泳いでいる。そんな庭を慣れた様子で歩くカケルの後ろをおっかなびっくりついていく僕。傍から見たら完全に僕はお化け屋敷に来た女の子状態だと思う。僕は男だけどね!
「柊樹家のすごいところはこの屋敷全てのシステムを魔石で動かしてるところだよな。そのために何人もの専属冒険者を雇って……金持ちってのはすげーよな」
カケルがポツリと呟くが、とんでもないことを言っている気がする。確かに魔石はほんの欠片でも数日くらせるが、それは純度の高い魔石って条件付きで……もしこの広大な屋敷全体を動かしているなら──
「お金にしたら何円くらいになるんだろう」
「一年で、単位じゃ表せなくなる」
十の何条とかいう表し方でしか表せない金額になるらしい。魔石使うより電気使ったほうがお金かからないのでは……?
「どうせ金は有り余ってんだろうからな。新しい事に挑戦したほうが面白いって考えじゃねぇか?」
「えぇ……」
カケルの見解に思わずドン引きしてしまう。金持ちって怖い──と思いながらもじゃあ帰ろっか、とは出来ないのでカケルの後ろをついていく。というか、慣れた様子で歩くカケルって何者なんだろう……
「あー。俺と伊織は同じ中学出身でさ……その時から交流があってここにも来ることもあったんだよ」
幼馴染みってやつだろうか。でも小学校は別って可能性もあるな……まっ、今は関係ないか。
「萌葱様、お待ちしておりました」
「様はいらないっての……まぁいいや。伊織は?」
家の玄関(と思われる場所)で侍女さんが待っていた。そういえば、学校を出る前に誰かに電話してたけど……なるほどね、ここに電話してたわけだ。
「お嬢様はお部屋でございます」
「そうか。失礼するぞ」
侍女さんは頭を下げるとそれきり動かない。カケルは特に気にする様子もないし、これが普通なのかな。んー、お金持ちの人と関わったことないから分かんないや。
「ほら、早く行くぞ」
「あ、うん。お邪魔しま〜す……って、広っ!!」
「あぁ、初めてここに来たときの自分を思い出すぜ」
カケルはしみじみとなんか言っているが僕の頭はそれに突っ込む余裕はない。目の前に広がる光景に開いた口が塞がらないのだ。
普通の家は入ってすぐ何があるだろう。まぁ大抵は下駄箱と段差(あの高齢になると地味にツライ段差)だろう。この豪邸にも一応それらはある、のだが……
「広すぎない?!」
恐らく「この玄関に設備は用意するから暮らせ」と言われても僕なら出来る。下手なアパートの一室並の広さなんだよ? 広さ的には全く困らないだろう。てか十分僕の部屋に匹敵するような……
「伊織の部屋はここだ」
先に入っていたカケルが振り返って柊樹さん(様?)の部屋を教えてくれる。っと思ったよりも近い。というか玄関から数歩の位置だ。え、もっと長い廊下を進んだり階段を上ったりして迷子になるっていうお決まりともいえる展開は?
「あいつ、面倒くさがり屋だから。遠いのは嫌だ、ここでいいってこの元物置部屋を改造させたんだよ」
やばい、金持ちのお嬢様の考えることは全く分かんない。え、遠いの嫌だからって部屋を改造させたの? マジ?
「まぁ慣れるしかない。とりあえず開けるぞ」
「え、ちょ……!」
僕のことを無視してカケルはドアを開けた。僕はカケルの後ろに立ってたけどドアが開いた瞬間部屋の中が見えた、んだけど……
「妾に何用じゃ? 小娘よ」
部屋の広さとか豪華な装飾品とかを突っ込む前に、僕より先に口を開いた柊樹さんの言葉が僕を過敏に反応させた。ほんとにビクッてなった気がする。
「あ……ナル、落ち着けよ?」
カケルが慌てたように振り返ってくるが……うん、僕はこれどころじゃない。小娘、か。カケルは見た目完全に男だし、小娘が誰を指しているのか……ふむふむ、興味深いねー。
「萌葱からは男と聞いていたが……ふむ、お主も妾を騙すようになったか」
何故か納得したように頷く柊樹さん。きっとカケルは何度も念押しして僕のことを伝えたのだろう。目が「ちゃんと何度も伝えたろうが、バカ野郎」って感じにつり上がってる。
「して、小娘よ。妾に何用じゃ?」
「僕は……女じゃないって言ってんだろがぁ!!」
もう柊樹さんが学校最強とかこれから勧誘する相手とか全部頭の中からぶっ飛んだ僕は思いっきり叫んでいた。もしかしたら柊樹家専属冒険者とかに暗殺されるかもだけど……仕方ないんだ、彼女は僕の逆鱗に触れたんだから!!
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