真価

「カケル……」


 ナナちゃんの風魔法に受け止められた僕はショックのあまり地面にペタンと座り込んでいた。

 だって、目の前──というほど近くはなかったけどとりあえず目の前──でカケルが死んだんだよ? ショック受けない方がおかしいでしょ。


「一つ訂正じゃ。萌葱は死んでおらんぞ」

「え……?」


 僕の左側に立ったのは柊樹さん。カケルは死んでないって言ってるけど……でも、触手の大群に飲まれて。腕もないし。


「萌葱君はあんなので死なないわよ。もっと強いんだから」


 ナナちゃんも否定してくる。嘘でしょ……だって右腕吹き飛ばされて。たとえ生きてたとしてもカケルって刀使う時は右腕使うから、利き手がない状態でしょ? そんなの……


「舐めないで頂戴。萌葱君は両利きよ? 昔は双剣とかいう厨二病みたいな戦闘スタイルだったんだから」


 ナナちゃんの言葉に柊樹さんもそんな時期があったのう、と遠い目をしてる。え、本当にカケルは生きてるの? 僕がカケルを過小評価してるだけ……?


「そもそも萌葱が死んだのならば、何故あの触手は今も増えておる?」


 柊樹さんの言葉に触手を見るとカケルが呑み込まれた場所にどんどん集まっていた。おかげでこっちには全然来ないんだけど……カケルが死んだんなら確かにおかしい。餌に群がってるようにも見えるけど、もしかして増援、なのかな?


「そうね、だから萌葱君の事は無視で良いわ。それよりも」

「元凶をどうするか、じゃな。攻撃しようにも固すぎる」


 二人につられ、僕も元凶──妖夢を見る。奴は触手で壁を作っていて、柊樹さんの攻撃は全くと言っていいほど効いていない。むむむ、あれは本当に厄介な。


「そもそも私たちはモンスター相手の戦闘経験が少なすぎるわよね……」

「そうじゃな。妾はこれが初陣じゃしの」


 そういえば柊樹さんは課外授業来てないからダンジョンは初めてなのか。ナナちゃんもあんまりモンスター相手の戦闘はないみたい。妖夢を知らなかったくらいだもんね。


「モンスターには魔核があって、人間の心臓のような役割をしているんだよね」

「ナル?」

「図書室の本に載ってたよ? やっぱり知らない」


 ここは、僕の出番じゃないだろうか。フッフッフッ魔力適正がないと分かってから必死に足掻いたのが今になって功を奏するとは……流石、僕だね♪


「ふむ。ならば指揮は任せる」

「とりあえず、今は守りに徹するわ」


 そう言って二人が守りの体制になる。迫りくる触手を切ったり弾いたり撃ち落としたり……深追いはせずただただ守りに徹してくれる。これは、僕が成果出さなきゃいけないやつじゃん。よし、頑張るぞ!


「戦闘で欠かせないのは相手の癖を見つけること、」


 妖夢は元々白い球体だ。ここから見える範囲で判断すると、その球体から触手が伸びてきている。新たに作られているのか、皮膚が伸びているのか……


 多分、作られているんだろうな。じゃないと無限に湧き出てくることの説明が出来ない。それじゃ、どうやって作られているんだろ。モンスターの体は魔核を中心に魔力を具現化させている。つまり魔力生成なわけだけど……


「柊樹さん、室内の魔力濃度って分かる?」


 空中に漂う魔力の残滓みたいなのを吸収して触手を作り出されているとしたら厄介。だって、本体と切り離した触手は魔力の残滓になって空中に戻るから。永久機関の出来上がりってね。


「室内の魔力? 初めて聞くが……空気中に漂っておるのじゃな。待っておれ、今感知する」


 あ、そっか。あれも図書館……いや、あれは書店かな。どっちかにあった古そうな本。確か「モンスターはダンジョン内に満ちている魔力の残滓を使っている者と体内の魔力を使う者が存在する」とかなんとか書かれていた表紙のインパクトが凄い本。


「興味深いわね。また案内してくれる?」

「もちろん♪ 皆で行こー」


 どうやら呑気に会話する余裕が僕らにはあるみたいだ。まぁカケルはともかく、僕らというか二人は迫りくる触手に応戦するだけだからね。殆どカケルに集中してるから数も少ないし……


「分かったのじゃ! 室内の魔力じゃが、ほぼ一定なのじゃ。たまに増えておるが……誤差の範囲と呼んで良かろう。妾の探知の精度の問題やも知れんがな」

「ううん。とりあえずそれが正しいってことにしよ。ありがと、柊樹さん」

「うむ」


 でも、困ったな──と僕は口の中で、呟いた。弱気になったらいけないからね、口には出さない。それより何で困ったか。それはね、永久機関の出来上がり、って最悪の状況だから困ったんだよ!

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