VS妖夢(←このままハッピーエンドで良かったじゃん

 それから柊樹さんとナナちゃんの争いは続いた。


「ダンジョンじゃ無かったら大変だったな」


 完全に観客と化していた僕(お姫様抱っこはされてない)は同じく観客と化していたカケルの呟きにそうだね、と相槌を打とうとして気づいた。


「ダンジョンの、中?」


 よくよく考えてみればおかしな話だ。だって、僕の知っている情報では「トラウマを克服したらダンジョンからは出れる」って……


「キェェェイ!!」

「ナル、伏せろ!」


 僕が違和感を覚えたと同時に聞こえた奇声。更にカケルの声と同時に頭を思いっ切り押さえつけられる。痛い、普通に額がレンガタイルにぶつかった。けど、それはカケルに手加減する余裕がないことも示唆していて……


 ヒュン──


 と頭上を何かが通り過ぎた時には恐怖したものだ。視線を上げようにもカケルに押さえられているので出来ない。柊樹さんやナナちゃんは大丈夫だろうか、と思いながらも二人なら大丈夫だろう、とも思う。案の定──


「邪魔をするでない!」

「邪魔よ」


 ──と二人の声が聞こえたので、大丈夫そうだ。問題は僕らは何に襲われているのか……だけど、十中八九ヤツだろう。


「ダンジョンボス・妖夢……」


 でも、妖夢が攻撃するなんて資料どこにも無かったはずなんだよね。皆、夢でトラウマを乗り越えたら自然と外に……その人たちと違うのは何?


「考えてるとこ悪いが……そのままじっとしてろよ」


 と、カケルの声が聞こえた直後には再び僕の体を浮遊感が襲っていた。目を開けてみると、地面が遠くに見える。どうやらカケルの脇に抱えられて飛んでるみたい。


「こんな状況じゃ無かったら素直に喜んでるんだけどね♪」

「十分楽しそうじゃねぇか」


 僕らは呑気に軽口を叩くが、そんな状況じゃないのも事実。僕たちに伸びてくる無数の白い……触手? みたいなやつ。触手と言ってもめちゃめちゃ尖ってるし殺意しか感じないけどね。


「伊織、菜々。受け取れ!」


 カケルはそう叫ぶと……僕を思いっ切りぶん投げた。くるくると回転する視界。ふざけるなーって叫ぼうとして僕は見たんだ。カケルの右腕が、僕を抱えていた方の腕が肩から血を出しながら飛んでいくのを。


「カケル?!」「萌葱?!」「萌葱君?!」


 僕ら三人の声が重なる。


「ナルを頼んだぞ!」


 と叫びながらも、カケルは白い触手の大群に呑まれて消えた。

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