お姫様抱っこ(←僕はヒロインじゃないんだよけど……

「んー……」

「起きたか?」


 意識がぼんやりする中、目の前にいるイケメンがカケルだってことは分かった。えーと、僕は何していたんだっけ……? 確かダンジョンで……


「なんか妖夢に遭った後、俺の夢に入ってきて今は出てきたとこだな」


 カケルに早口に言われるが……むぅ、そんなに早口で言われても分かんないよね。まぁ、なんとなくだけど思い出せたからオッケーってことにしてあげよ。


「悪かったな、ほら立て」

「ん、ありがと」


 カケルが引っ張り起こしてもらう。キャー、カケルくん格好良い〜!


「斬るぞ」


 おっと、今はダンジョンの中だった。つまり、カケルが刀を持っているのだ。危ない危ない……とそういえば柊樹さんやナナちゃんは?


「ここにおるぞ」


 後ろから声が聞こえたので振り返ると柊樹さんとナナちゃんが座っていた。柊樹さんは片膝を立たてその上に顎を乗せているんだけど……それがすごく似合うのが柊樹さんだよね。


「その様子だとそちらも終わったようね」


 えっとぉ……誰? と僕は思った。いやその声を発したのはナナちゃんなんだけど。あれ、こんな口調だっけ。それにどことなく雰囲気も凛としているような……


「菜奈! お前、戻ったのか?!」


 隣でカケルが驚いたように言うが、その声が大きすぎて耳が痛い。でもそれを言っちゃうとまた話がややこしくなるので胸のうちに閉まっておく。空気は読める方だからね〜。


「えぇ。伊織のおかげでね」

「フンッ。妾は手伝ったに過ぎん。」


 何が何だか分からなくて置いてけぼりにされていた僕だけど、柊樹さんが気づいてくれたので軽く教えてもらう。ふむふむ、ふむふむふむ。

 えーと、つまり……ナナちゃんは中学時代に真面目で頭が良くて、それで不満を買ってイジメで不登校になったと。その時のことがトラウマになって、高校ではなるべく目立たないようにしてたけど、今回、トラウマを乗り越えたから元に戻った……


「そういうことじゃな」

「ナル君は、別に今まで通り接してくれればいいわ」


 と、ナナちゃんは言ってくれるが……無理だよね。もはや別人だし、ちゃん付けで呼んで良いのか分からないレベルで大人びた感じなんだけど。


「そうね……なら呼び捨てでも良いわよ」


 呼び捨て……確かに今更「三島さん」に戻すのも何か変だよね……でも、呼び捨てもなぁ。ぐぬぬ、やっぱりナナちゃんって呼ぶ。仕方ないからね。


「何が仕方ないのか分からないけど……とりあえずそこを言及しても意味ないんでしょうね。いいわ、よろしく、ナル君」


 うん、よろしく──って、ナナちゃんも僕こと、呼び捨てで呼んでくれても良いんだよ?


「え? まぁ、そうね。じゃあ、ナルって呼ぶことにするわ。じゃあ、今度こそ……」


 改めてよろしく、ナル──と差し出された手を僕は握り返した。てか、ナナちゃんの方が背高いの忘れてた。くぅ、なんでなんだ。今一番の悩みかもしれない……


「み、認めん! 認めんぞ」


 突然そんな声が響き渡ったかと思うと僕の体が宙を舞った。ぐるぐると世界が回って……トスッと誰かにキャッチされる。うぅ、吐きそう。


「吐くなよ?! なんで受け止めてやったのに吐かれなきゃいけないんだよ」


 目を開けた瞬間、カケルの唾が飛んできた……うぅ、汚い。マジで汚い。カケルのバカぁ。


「落としていいか?」

「ごめんなさい、冗談です」


 実は僕、今……カケルにお姫様抱っこされてる状態なのだ。だから目を開けるとそこにはカケルの顔があるし、カケルと見つめ合うと変にドキドキしちゃう。


「茶番はどーでも良いから」

「もぅ、つまんないなぁ」


 っと、それより僕はなんで宙を舞ったんだろ?


「あー、アレを見ろ」


 カケルに下ろしてもらい、カケルの指さした方を向く。すると、そこでは──


「断じて認めんぞ!」

「伊織、貴方はそもそも何に怒ってるのよ!!」


 言い争いながらも魔法をぶつけ合う柊樹さんとナナちゃんの姿があった。僕を吹き飛ばしたのは氷か風か……ってそんなことより、なんで柊樹さんは怒ってるの?!

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