ゲームクリアと荒木先生
「…………」
イオリが不機嫌だ。時々舌打ちまでして目の前の相手に圧をかけている。僕はそんな光景を見守ることしか出来ない。
「ごめんて」
イオリの視線に耐えかねたのか遂に相手──カケルが謝った。最初からそうすれば良かったのに……
今僕たちは魔学の体育館にいる。そう補習を終わらせたのだ。えと気になっている方も多いであろう最後のイオリ対三年生たちはどうなったかと言うと──
「俺はとりあえず倒しまくれば良いのかな~と……」
実はイオリがやる気満々、氷を飛ばした瞬間に終了した。というのもカケルの快進撃は続いてあの瞬間も得点は増え続けていたんだよね。んで丁度あのタイミングで2000ptに達しただけで……
「イオリ。カケルは悪くないんだし……ね?」
「……仕方がない。今回の件は不問じゃ」
ホッと胸をなで下ろす僕とカケル。なんか理不尽に怒られた気がするけどそんなこと言ってまたイオリが怒ったら大変だし、黙っておこう。僕は空気読めるからね♪
「それよりも、もう帰っても良いのか?」
「んー、良いんじゃない。先生たちもいないし」
「じゃあこのまま伊織ん家だな」
イオリ、僕、カケルの順に言う。そう補習が終わったらイオリ家に行くってなってたんだよね。理由はないけど強いて言うなら、部屋広いしサービスが充実してる。お菓子とか美味しいし。
「レッツゴー!」
僕はそう言って体育館から出る。二人はきっと苦笑いしながらついてきてると思う。いっつもこんな感じだからね♪
◇ ◇ ◇
ナル達が体育館から出ていく時、職員室は騒然としていた。
「一時間以内のクリアなど前代未聞ですぞ?!」
そう叫ぶのは常に上から目線とネチネチした性格で生徒からも職員からも嫌われている教頭先生だ。しかし今回の件に関しては叫んでしまう気持ちも分かる、と思う先生たち。
先生たちが見つめるのは補習の仮想空間の様子映し出したモニター。そこには縦横無尽に駆け回る影が映されている。
「あれは、身体強化か?」
一人口の中で呟くのはモニターを他の先生とは離れた位置で見つめる荒木先生だ。影──翔月が纏う光を凝視している。
「柊樹のお嬢様と問題児が一緒のチーム。ロクなことにならないと思っていましたが……」
「あの光は柊樹のものか?」
「いや、あの生徒は身体強化はおろか回復魔法も使えないはずですよ」
他の先生たちが思い思い意見を言う中、荒木先生はまだモニターを食い入るように見ていた。翔月が最後の相手を斬り捨てカイナ隊がクリアになれば巻き戻しもう一度見る。
「何か気になることでも? 荒木先生」
そう声を掛けてくるのは教頭と違い温厚で優しい事で人気の先生、校長先生だ。彼は開いているのか分からないくらいの糸目をしているがしっかりと荒木先生を見ていた。
「いえ、良い動きをするな、と思いまして」
「ホホホ。それは三年生もでしょう?」
やはり食えないお方だ、と荒木先生は思った。校長先生は温厚だがとても頭の回転が早くどうすれば自分が得するか計算していらっしゃる、と少なくとも荒木先生は評価していた。
「彼、萌葱は期末試験の時より明らかに強くなっています。そしてカイナ隊が会場に現れなかった日──」
「危険度は大型に匹敵すると言われていた妖夢ダンジョンが消滅、誰々が攻略したという情報はなく誰がやったのか分からない」
そういうことです、と荒木先生は頷く。
何らかの関係はあるはずだ。彼はトラウマを見せるという妖夢ダンジョンを攻略し更には妖夢本体を倒している。どんな大物冒険者でも成し遂げられ無かったことだ。
「今度話してみます」
荒木先生はそう言った後、そういえば……と残りのメンバーを見る。そこには植物を摘みながら笑うナルとイオリが映っていた。
「子守とは大変だな……」
カイナ隊のリーダーになった時は驚いたが実力に変わりはないようだな、と少しガッカリする荒木先生。これ以上面白いものはないか、とモニターをリアルタイム実況に戻し他のチームを見るのであった。
もし、もしも荒木先生がもう少し長くナルを映していたら白龍を従え幾つもの剣を創造するナルに職員室は阿鼻叫喚の地獄と化していただろう。
小紅奈留の名が世界に轟くのはもう少し先の話である。
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